さよならVtuber
さよならVtuber Ⅲ そして追記

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夜、Twitterでエゴサーチをしている時の事です。 愛河アイカと検索バーに打ち込んだ時、サジェストに炎上と表示されたのです。  私が炎上案件に対して批判しているのが評価されたのかと思いました。  その時も承認欲求が抑えきれずに私を褒めてくれているツイートを探そうとしました。  ただ、いつものタイムライン、Twitterに表示される呟きとは違う感じがしました。データ上の文章なのに雰囲気があるのです。それが険悪だった。  調べていくと、愛河アイカは訴えられるのではないかと騒がれていたのです。  スマートフォンを持つ手が震えました。胃の中が急速に冷えてグッと大きな手に掴まれるような感覚。  この不安を払拭するために検索していきました。でもすればするほど、大きな穴に落ちていくような感覚に見舞われました。  どうも私が批判していた男性Vtuberの方、彼が同棲しているというのは全くの誤情報だったらしいのです。  相手は企業所属、間違っていましたでは済まないのです。  翌朝すぐに当該企業へ連絡しました。愛河アイカとして活動している、小川あいです。謝らせて下さい。すぐにそう言いました。 「分かりました。弊社の事務所へお越しいただけますか」  それが先方の答えでした。怒っているのか、困惑しているのかも分からない。プレーンな声が今でも耳に残っています。  派遣先の企業へも連絡を入れて休みをもらいました。会社への電話でさえ私の声は震えていたと思います。  化粧は簡単に済ませました。就職活動の時に着て以来のスーツを引き出しから引っ張り出して、すぐに家から飛び出ました。  東京にある事務所はコンクリート造りの監獄のような建物でした。  受付の女性に恐る恐る私は言いました。 「愛河アイカです」 「はい。少々お待ちください」  その短い返答には間違いなく軽蔑の念が込められていました。当然です。私はこれから法廷で争うかもしれない敵なのですから。  それから大きな長机のある部屋に通されました。20分ほど下座に座って待ちました。あの時が人生で一番、冷や汗をかいた瞬間でした。  ドアが開くときのギィと言う音。入ってきたのは事務所の社長でした。新しいビジネスを開拓するリーダーらしく、爽やかな若い方でした。  私はとにかく謝りました。  会社でミスをした時とは比べ物にならないくらい、大きな声で、深く、深く、頭を下げました。  私の謝罪があらかた終わると社長がゆっくりと口を開けました。 「訴えるつもりはありません」  私はもう全身から力が抜けてしまってその場に倒れこみそうになりました。 「訴訟についてはネット上で言われているだけです」  社長の話は続きます。 「それで、これからどうするのですか?」  私に残された道は一つしかありませんでした。 「引退します」  それで私は引退配信をすることになりました。  引退配信の日時をネット上で公開すると、尋常ではない数のバッシングがありました。その勢いはTwitterにも燃え広がりどこを見ても私のアンチしかいませんでした。  あの時、世界で一番嫌われていたのは私です。  そして、私も同じようにVtuberの方、社会、会社を攻撃してきたのです。  自分がやられて、ようやく。本当にようやく。自分がどれだけ無知で、軽率で、愚かな事をしていたのか理解しました。同時に批判される側の本当に死ぬほど辛い気持ちも。  引退配信の時の記憶はほとんどありません。覚えていたら死んでしまうかもしれない。それくらい酷い配信でした。  ただ、引退配信で私が今まで傷つけてきた方に謝罪をしたこと。これだけは覚えています。  これが、私のVtuber人生の全てです。愛河アイカは死にました。  皆さんは私の事をしっかりと笑えるでしょうか? しっかりと批判できるでしょうか? 完璧に、愛河アイカではないと言えるでしょうか?  もし、そうでないと断言できるならあなたは私のようにはならないで済むはずです。第二、第三の愛河アイカが作り出されない事を祈っております。 追記 現在、私はVtuberではなく実写の配信者として活動しております。以前私が批判した企業の社長にはこの旨、報告してあります。 私はどうしても夢と憧れを捨て切れなかったのです。 頂いたチャンスをしっかりと受けとめ真摯に活動していこうと思っています。 同時接続数は4名ほどですが、憧れのVtuberの方のように真剣にゲームや歌に取り組めるようになりました。 真剣に活動するすべての方に感謝しています。 また私の“語り“に登場する人物、企業、事件はプライバシー保護の観点から、偽名やフィクションを用いています。 卑怯だと思われるかもしれませんが、許してください。 お願いします。

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