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 ギュッと握った手に冷や汗が伝う。  わたしはたった今、彼氏である健ちゃんこと藤本健一ふじもとけんいちくんに別れを告げた。  〝本当は別れたくないよ〟——。  そんな言葉を殺して、私は口を噤む。  私の言葉に、ワケがわからないという表情の健ちゃんの目は見開き、口を開けてなにか言いたそうだ。 「俺より、アイツが好きなのか?」  健ちゃんの言った〝アイツ〟というのは聞き返すまでもない。  紛れもなく、『りょうちゃん』のことだから。  そんな健ちゃんの口から出た、『俺より、アイツが好きなのか』という問いは、私にとって即答出来るものではなかった。 だって、私が一番好きなのは健ちゃんだから……。  良ちゃんよりも健ちゃんが好き。 「……そうだよ」  それでも心を鬼にして告げる。 「私は良ちゃんが一番好き」  ごめんね、健ちゃん……。  これが健ちゃんのためだから、わかって。  私と健ちゃんは、結ばれない運命なの——。 「なんでっ⁉︎」  だから、私は健ちゃんに嫌われないといけない。 「もう、健ちゃんのこと」  それが健ちゃんのためなら、どんな残酷な言葉も口にする覚悟だ。 「必要じゃないから」  切なく散ったこの恋は、まるで桜の花びらのようにはかなかった——。  あの日、願を掛けた桜の花びらは今日、あっけなく散ってしまったんだね……。 〝さようなら、健ちゃん……。ありがとう〟

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