作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

   *  お祝いの日は日曜日になった。みつるの誕生日の二十日は月曜日で、恒例のご飯で計画を練る。  お互いの行きたいところ、やりたいことを話して、みつるが行きたいところとして東京タワーを、ひかるがミニシアターをあげたので東京タワーに行ってからミニシアターで映画を見ることにした。二本上映を一気に見るのは疲れるので合間はご飯とカフェでぐだぐだ過ごす。  最後にひかるの家にケーキを買って帰って、ハッピーバースデーの歌を歌ってプレゼント交換をするという計画だ。  そのまま泊まっちゃうのはどうよ、とひかるが提案し、さすがに月曜日の授業の用意とハンドボールの着替え一式とプレゼントを持って一日出かけるのは……、とみつるは躊躇ったが、練習着は貸すのと木曜日のうちにシューズを預かってくれると申し出があって、ありがたくそうすることにする。  プレゼントは小さいものだから大丈夫か、とみつるは脳内で確認する。 「みつる、もうプレゼント買った?」 「買ったよ」 「えー、何買ったの?」 「……言っていいの?」 「いやっ、ダメ」 「じゃあ当日のお楽しみだね」  クールかよ、とひかるが唖然とした顔で言うのがおかしくて笑える。 「ひかるはもう買ったの?」  みつるからそう聞けば、待ってましたとばかりに笑顔を見せる。 「買ったよ! 何か気になる?」 「言いたそうだね」 「言いたい、言いたいよ……でも我慢するから……。え、でもねー、私が……私が勝手にみつるに使ってほしいだけのだから、どうかなあ」 「うん? 実用品じゃないってこと?」 「実用品では――、いや、待ってよ、言っちゃうじゃん。自分で言うのもあれだけど言いたがりだから! 我慢させないと我慢できないから!」 「アクセサリー?」 「……言わないから!」  その反応に声を出して笑ってしまって、ひかるはしばらく拗ねたあと、でも楽しみだなー、とまた笑顔に戻っていた。    *  当日、予定通りに東京タワーに行って、映画を見て、ひかるの家に着く。  ケーキと合わせて買った何も描かれていないプレートに、百均で買ったチョコペンで相手の分の誕生日おめでとうを書いて一切れ分のケーキに無理やり乗せる。ろうそくはさすがに、とみつるは思っていたが、ひかるが「『1』と『9』の数字のやつ買って一つずつ挿せばいいじゃん」と言ったのでそうすることにした。 「えっ、ひかる器用だね?」 「みつるは……不器用かな……かわいいね……」  ひかるが無難にこなしたみつるのプレートと異なり、みつるが描いたひかるのプレートは「ひかるちゃん」が大きくて「誕生日おめでとう」のおめでとう、あたりは字が小さくなっている。 「ひかるちゃん……」  ちゃん付けしたのがツボに入ったのか肩を震わせるひかるを無視して、みつるはろうそくを取り出す。 「じゃあひかるが一歳の方ね」 「一歳の方って」  渡された数字の『1』のろうそくを見つめてから、ひかるはプレートとろうそくをいい塩梅にショートケーキにセットする。みつるはチョコレートケーキに『9』のろうそくとプレートをセットした。  『19』に見えるようにお皿同士を近づけて、ひかるがろうそくに火をつけて、それから手元のリモコンで電気を消した。 「せーの、」  ハッピバースデートゥーユー、を歌って、イェー、と言いながら電気をつける。 「煙い! 窓開けよう」 「寒っ」  いれておいた温かい飲み物を飲みながら煙が落ち着くのを待ち、ろうそくをどけてケーキを食べ始める。  しばらく「おいしい」「うま」しか響かない時間が発生していたが、いきなりひかるがハッとした顔で部屋の一角に向かい、紙袋を取ってきた。 「もういいよね! プレゼント! みつる誕生日おめでと〜!」  全部一気に言うなあ、と笑いながらみつるは紙袋をありがたく受け取る。「中見ていい?」と聞けば、満面の笑みのまま「開けて!」とひかるが言う。あれだけ言いたがってたもんね、と思いながら紙袋を覗くと、小さめの包みが二つあった。小さい方から開けると、シンプルなシルバーのピアスが入っている。 「お、かわいい」 「かわいいでしょ!」 「うん。ていうか使いやすそう」  ありがとう、と笑うと、ひかるは「もう一つも開けて」と催促する。  はいはい、と言ってもう一つの包みを手に取る。箱に入っているようで、包装紙のテープで止めている箇所を探して剥がしていく。 「ビリビリにしちゃっていいのに」 「あー、性格だよね……あ、――カメラ?」 「そう!」  包装紙を解くと、緩衝材で何重かに巻かれたものがあった。箱に入っていたのではなくて、それそのものが四角かったらしい。  緩衝材に透けているのはポップなミントグリーンのカメラだった。緩衝材も解いて、直接手に取る。 「それはね、写ルンですみたいなやつで、でもフィルム交換すれば何回でも使えるやつ。みつるが写真撮る人かは分かんないけど、でも嫌いじゃなさそうだったし、まあ、使いたいタイミングがあったら使ってみてよ。ちなみにフィルムも一回分は入ってるから。それもプレゼントってことで」 「いいの?」 「もちろん」 「写真、興味はあったから嬉しい。絶対自分じゃ買わなかっただろうし。ありがとう」  よかったー、と相好を崩すひかるに、たくさん悩んでくれたのかな、と嬉しくなる。みつるもリュックからプレゼントを取り出して、ひかるに渡す。 「はい。私からも。誕生日おめでとう」 「あー、やったー! 開けるね!」 「うん」  みつるからのプレゼントは、二つあるが一つのラッピングにまとまっていた。ひかるは雑すぎない程度にどんどん包装を取っていって、あっという間に中身を取り出した。 「マグカップだ! あと、……これは? 小さい眼鏡ケースみたい……。ピアスとかしまうやつ?」 「あ、そうそう。アクセサリーケース。体育の時とか、しまう場所なさそうだったからさ。旅行とか行くなら、そういうときにも使えるし」  なるほどー、助かるー、とひかるは無邪気に笑う。 「いつも見てくれてんの嬉しいね。ありがとー」  どういたしまして、と告げて自分のもらったものを一旦紙袋に戻そうとしたところで、みつるは紙袋にまだ別のものがあったことに気付いた。 「……手紙?」  みつるが見つけたのは封筒だった。紙袋に縦に入っていたせいで先ほどは見落としていたようだ。手に取って袋から出しながらひかるの方を見上げるより先に、ひかるの手が封筒の上に重ねられた。 「――これはっ、帰ってから読んでくださーい」 「……気になる」 「大したことは書いてな……、まあ、分かんないけど」  封筒を隠すようにしていた手を慎重にどけて、「手紙って緊張するね」とひかるは苦笑を浮かべた。ひかるも緊張することがあるんだな、ときっと当たり前のことをみつるは思う。 「分かったけど――え、ていうか帰ってからってさ、明日の夜ってことか。焦らされる……」 「まあ、そうだね。私も焦らされるなあそれ」  うーんでも読んですぐ感想とかはいいから、何かあれば木曜日に教えて、とひかるは悩ましそうな表情で告げる。 「ひかるがそんな風になるの珍しくない? 余計気になる」 「えー、珍し……珍しいか。ま、それだけみつるが特別だってことで」 「何だそれ」  茶化しつつも照れ笑いが顔に出てしまって、ひかるが「照れちゃった?」とからかってくる。否定はできずうるさい、と返すと、ひかるはますます楽しそうに笑った。  翌朝月曜日、授業後の夜ご飯は大学すぐそばのうどん屋さんで軽く済ませ、あまり長話もせずにそれぞれの帰路についた。  電車で一時間半かかる帰り道、みつるはリュックにしまってある封筒が気になって仕方ない。プレゼントと手紙を入れた紙袋は、軽く畳んだ状態でそれごとリュックに入れていた。電車は座れはしないものの、ドアのすぐ横の狛犬ポジションを確保できる程度には空いており、今ここで読むこともできそうだ。前に抱えているリュックのジッパーを引き、中に手を忍ばせて指先で封筒に触れる。  気になる、読みたい、という気持ちを、いやゆっくり読むべきだしそうしたいし、という意志で抑えて、みつるは昨日の写真を見返すことにした。  カメラロールを遡っていると、ちょうどひかるからLINEが来た。アルバムが作られたことと写真が追加されたことが通知される。  すぐに画面を開いて、アルバムの写真を見返す。中には見覚えのない自分の写真もあって、めちゃくちゃ楽しそうだ。自分はひかるの写真をほとんど撮らなかったので、撮ればよかったな、と思う。今度写真苦手じゃないか聞いてみようと思った。だけどひかるが撮ってくれたツーショットはアルバムに入っていて、その写真ではひかるも楽しそうだ。  いや写真関係なくめちゃくちゃ楽しそうだったけど、と「楽しい」と何度も繰り返していたひかるのことを思い出して、笑いそうになって口元を抑える。  そうして電車に揺られていれば案外早く最寄り駅まで着いた。  帰宅して、シャワーを浴びたり歯を磨いたりといった寝る準備を全て済ませてからみつるはやっと手紙を取りだして、ベッドに座り、封筒のシールを慎重に剥がした。  二つ折りで入れられている便箋はそこそこの枚数があり厚みがあって、封筒から取り出すと四枚分であることが分かった。  みつるへ、と始まる手紙を、そうして読み始めた。    * みつるへ 誕生日おめでとう! 19歳ですね〜。 何だかみつるとは12歳くらいからずっと同じところにいたらしいので、毎年同じ頃に歳を重ねて毎年どこかですれ違ってというのを繰り返してきたと思うとすごく不思議な気分なんだけど… だからちゃんと(?)出会ってから初めての誕生日を一緒に過ごせるの、とっても嬉しいです。いきなり誘ったの受けてくれてありがとう! まだ出会って2ヶ月とかなのにメッセージカードみたいのじゃなくてこうして便箋、封筒! みたいなお手紙を書いてビビらせてたら申し訳ないな〜と思いつつ、直接伝えるには気恥ずかしすぎるのと反応が怖くてためらっちゃうことを、このお手紙で伝えようかなと思っています。 私のやりたいことが映像関連だっていうのはこないだ話したと思うんだけど、そのきっかけが、実は、静川が関東大会出場を決めた試合でした。 もう引退はしてたけどあの試合は気になって後輩と一緒に見てたんだけど、同点からの延長戦で初出場が決まった瞬間、あのめちゃくちゃに沸いた瞬間、本当に感動したんだ…。うーん、言葉にすると陳腐になって悔しいなあ。でも本当に感動したんだよ。 で、さらに言うなら、前半10分くらいで交代してた3年生がずっとベンチから声をかけて、タイムとかハーフの間にも自分と代わった後輩にアドバイスしてたり、笑顔で送り出したりしていた姿に、私は目を奪われたのでした。 初出場が決まった瞬間の盛り上がりとか、あの試合を取り巻いていた空間そのものみたいなのは、ドラマとか漫画みたいだなって思ったんだけど、それで、大袈裟だけど、世界のあちこちでこういう瞬間ってフィクションじゃなくて本当に起きてるんだなと思って、映像に関わりたいなと思ったのはそのときだったんだけど……。 でも自分でカメラを持ちたいって思ったのは、私があの試合の中のみつるを見つけて、本当に、見つけたって思って、そういう人を自分の目で見出して映せたらって思ったのが、大きかったんです。 だから全然初対面じゃなくて、名前も正直分かってたんだけど、初対面のフリしたり、色々言わないでいてごめんね。 こう、一方的に認識されてることとか、コンテンツとして見られることの気持ち悪さがあったら本当に何も言い訳できないと思い…手紙で伝えるのもずるいなと思うんだけど… でも、ハンドボールの授業を取ったのは本当に偶然で、ちゃんと直接知り合って思いの外自分と似ているところがあって仲良くなりたいなって思ったのも本当で、今は友達として本当に本当に大好きです。うっ、恥ずかしい……。いやでも、なんか誤解されて友達続けたくないなって思われたらその方が後悔するので……それくらい一人の友達として、大好きです。もっともっと仲良くなりたいです! まあ、ちょっと色々語ってしまいましたが、誕生日当日は全然気にせず楽しんでいることでしょう! 誕生日プレゼント気に入ってくれるかなーとか、そういうことのドキドキの方が大きいはず。笑 とにかく、お互い誕生日おめでとう〜! これからもたくさん仲良くしてくれると嬉しいです。みつるの19歳がとっても素敵な1年でありますように! ひかる    *  ――こんなことがあるんだな、という、ひかるに出会ってから頭に浮かぶのも何度目かの言葉が、みつるの頭にまた浮かんだ。  目元を拭って鼻をかむ。自分の中で言葉にならない気持ちが渦巻いて落ち着かない。  今涙が込み上げている理由は何なんだろう。  今、自分は喜んでいるのか、苦しく感じているのか、それさえ曖昧だ。  でも伝えてくれてよかった、と思った。  四枚にもわたった便箋の最後の一枚を一番下に重ね直して、みつるはまた最初から読み始める。  こういうことが起きるんだな。  便箋を折り畳んで、封筒にしまう。  それからみつるは横になって、そのまま眠ろうとしたけれど、なかなか眠れなかった。  一度電気を消して、暗い部屋の中でスマホの画面をつける。そしてアルバムをもう一度遡っている間に、いつの間にか眠っていた。当然のように充電されておらず、翌朝焦ることになった。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません