お題「たんたんたん」
たん、たんたん、たんたんたんと音が聞こえた。

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 たん、たんたん、たんたんたんと音が聞こえた。  間違いない、これは必殺コンボの入力リズム!  と、思った時にはすでに遅し、モニター内で、おれの操る空手戦士は金髪の少女格闘士の連撃を全弾食らい、とどめの右ストレートで遥か場外まで吹っ飛ばされていた。  制限時間ゼロ、ゲームセット。 「ちょっ……お前強すぎだろ!」 「ふっふっふ、違うね。アンタが弱すぎるんだ」  奴はにたりと笑う。  こいつ、なんて汚いドヤ顔! つうかこれで何連勝目だ!? 「つかさー、毎回同じ手にひっかかりすぎなんだよ。あと攻撃ばっかりで防御とか、回避とか、CPUの動きとか考えとかないと。復帰の入力タイミングもまずいし、位置取りって意外に重要なんだぜ?」 「おおう、壮絶なダメ出しの嵐……ってそこまで考えてやってられるか! おれは本能で戦ってるんだよ! 自由の戦士なんだ!」  おれは負けずに言い返すが、奴は涼しい顔だ。 「それやったら百回中百回負けるパターンだからね? 大体それが通ったら攻略本いらないっての。アンタの場合まずアイテム拾って使うところからだな」 「うっせー、もっかい勝負だ!」 「へへん、何度でもかかってきな」  おれはオレンジジュースをあおるとコントローラーを握り直した。  再び広くて綺麗なリビングにボタン操作の音とか、そこだ、とか、やばっ、とかいう声が響く。  たん、たんたん、たんたんたん。  この後も勝負しまくったが、勝利回数で奴を上回ることはなかった……。  しかし諦めるものかと、試合開始のたびに、奴の操るキャラに向かっていく。重いフックをガードし、時にはジャンプで逃れ、アイテムで牽制し、特殊技を繰り出す……それは相手も同じ、おれの仮面戦士(キャラ変えた)と奴の少女戦士、一進一退の攻防が続く。合間にCPUを倒して点数稼ぎも忘れずに。 「……一か月後に海外に行くことになった。親の仕事の都合で。いつ日本に戻るかはわからないって、父さんは言ってた」  ぽつりと、ノリノリのBGMに混じった、奴の言葉を聞き逃すかと思った。いま、なんか、冗談言った?  おれの操作は止まらず、それでも仮面戦士は金髪少女の攻撃を食らいまくっていた。海外? 仕事? つまり、転校? 「……そうかよ」 「まだ誰にも、言ってないから」  星になる仮面戦士を目に映しながら呟く。すぐに仮面戦士が復帰した。少女は豪快にCPUキャラを吹っ飛ばし、点数を稼いでいる。  それからはひたすら、お互い無言でコントローラーを操作する。  相手キャラの動き、CPUたちの動き、アイテム、ステージの移り変わり、それだけを見る。その他は頭の片隅に追いやった。  今この瞬間の勝負にのみ、集中する。  TVモニターの中で、仮面戦士と少女格闘士の拳がぶつかった。  一か月後、出発の日。 「空港ってメッチャ広いな。迷ったりしねえの?」 「迷ってもいいように早めに出てきたんだし。飛行機って時間厳守だから」  客がごった返す空港のロビーで、俺は奴を見送りに来ていた。人多すぎだろ。  お互い、家族が一緒だ。まあ家ぐるみの付き合いだけど、ちょっと仲良すぎじゃないかと思う。俺たちを尻目に、俺の父母は奴の父母と挨拶しあっている。  あれ以降、奴の家でゲームすることはなく、実質最後の勝負になってしまった。  小学校で顔を合わせても、ゲームの話はしなかった。二人とも、普通の同級生をよそおっていた。   「いつだって連絡できるのに。ツイッターもLINEも、ID交換したし」 「うっせー、こういう風にするのが肝心なんだよ」  そっぽ向いているが、おれの胸はギュッと締め付けられている。さっきから、ずっと。  頬も熱い。声は震えてないはずだ、多分。 「……見送りに来てくれて、ありがとう」  奴は微笑んでいる。おれみたいに内心変にブルってないあたり、本当に強いやつだ。 「お前は女子だけどマジでガッツがあってゲームが強い、本物の王者だったよ。お前がナンバーワンだ」 「それ、女王っていうところでしょ……ありがとう。じゃあね」  親同士の話も終わったようで、奴は両親に促され、笑顔のまま背を向けて、搭乗口へと向かっていった。 「だからさ! 戻ってきたらさ、またゲームしようぜ! お前んちでも、俺んちでもいいからさ! ぜったいに新しい機種買って待ってる! だから、絶対だぞ!」  たまらなくなって、おれは叫んだ。  人々がおれたちを見るのも関係ない。今がいつとか、ここがどことか関係なく、もう、おれと奴だけしか見えないし、知らない。  同じぐらいの大音量で、応えが返ってくる。 「うん! 約束する!」 「絶対だからな! おれはまだ一回もお前に勝ってねえ!」 「しつこい! 叫ぶな!」  叫び返すあいつの顔は笑顔だったけれど。  その目にキラリと光るものが見えたのは、おれの視界も熱くぼやけていたからだろう。

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