言の葉はせせらぎのように
素晴らしきかな、推し活!

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 ここは気軽さが売りの、 ヨーロピアンスタイルのカフェ。茶色のコーヒーカップのマークがトレードマークの喫茶店。用事が思ったより早く終わったので、時間潰しをしている。  コーヒーを飲みながら文庫本のページをめくっていると、背後から女性二人による黄色い声が聞こえてきた。  昨今ブームとなっている「推し活」。一推しのアイドルや声優などの為には、 積極的に大金を注ぎ込む熱狂的なファンの行動のことを指すらしいが、どうやら後ろの二人も例外ではなさそうだ。漂う熱気が半端ない。  ※ ※ ※ 「ねぇB子、あんた今日は凄く良い匂いがするんだけどさぁ、何つけてるの?」 「ああ。これね。良い匂いでしょ? ミス・クララのピオニーブーケ。ちょっと高かったけど、推しが吸いたくてつい買っちゃったのよぉ」 「ひょっとしてこの前話してた超絶美形のイケメン二人が出てくる超人気小説キャラの香りってやつ?」 「そうそう!」 「香りを持ってるキャラはどっち? 攻めの方?」 「そうなのよ。一度死に別れた受けが戻ってくるまで二十年近くずっとまち続けていた、あのキャラの香り。アタシ一途で拗らせたキャラ大好き。優しくて甘ぁい、ムフフな香りでも〜う最高!」 「確かにねぇ。あの話しは確かにヤバいよね。ストーリー自体が地獄展開だらけの濃い沼だし、出てくるどのキャラも深い沼持ちなのが凄過ぎる。中でも主人公カプが一番ヤバすぎて抜け出せなくなるファン続出。それは私も良く分かる。アニメ版も実写版もラジオドラマ版もどれも大人気。去年はオケコンまでやってたからどんだけって感じ」 「社会現象引き起こす物語って凄いよね。そう言えばA美、時間はまだ大丈夫だっけ?」 「ファンミーティングが始まるまでまだあと二時間あるから大丈夫。去年の今頃はまさか今みたいになるとは思わなかったもんなぁ。あんたのお陰で私はその実写版ドラマの俳優の方に沼落ちしちゃった」 「えへへ〜。布教大成功。でも楽しいでしょ!?」 「そりゃあね。彼は高身長で顔がカッコいいだけじゃなくて、スマートで笑顔が可愛いし、心を揺さぶるあの演技力は堪らない。美しく儚くカッコいい、三拍子揃った若手俳優なんて中々いないじゃん!? 一度絶望のどん底で自殺する直前のあのシーン、お目々真っ赤にしながらの悲壮感漂う熱演でハートを持っていかれてしまった! お陰で気が付けばグッズ買いの癖ついちゃってお財布ダイエットし放題よぉ。リバウンドしたくても暫く無理だわね。仕事頑張らなきゃだわ」 「あのドラマは正に美の暴力。音楽も綺麗だしセットは幻想的で美しいし、メインキャストは美男美女だらけ!! あれはキャスティングも神だと思うな~アタシ」 「ところでねぇB子、あんたは原作小説推しだよね。私はドラマ推し俳優推しだけど」 「うん。ストーリーはどのメディア化のも好きだけど、アタシはやっぱり原作小説が一番かな。他のメディア媒体ではカットされたり改編されたシーンが全てあるし、心理描写がすっごく良く分かるから。そうそう、二次小説の新作出来たから、今度読んでね」 「良いけど、あんたは凄いねぇ。もう二十作位作ってるでしょ?」 「だって、原作小説は一番見てみたいシーンは書かれてないんだよぉ。推しカプの結婚式とか、絶対見たいし読みたいじゃん!? 一番幸せな日の推しカプ、見たければ自分で作るしかないんだもん。今度オンライン交流会あるからその時に出品する予定。でもA美、あんただって今日のアクセ、推しカラーじゃん。自作でしょ? そっちも凄いじゃん」 「私アクセは作れるけど、文章も絵も描けないんだもん。推しを感じたかったら何かアクセ作るしかないからぁ」 「そうだ、ちょっと早いけど今からご飯買いに行かない? 夜までお腹持たないよ」 「そうだね。店内で食べるより、入場時間になるまで立ち食いしながら待てば時間焦らなくて良いし、食べながら推しトークの続きも出来るし」 「決定〜。それじゃあ急ごっか」  ※ ※ ※  ……世の中、色んな「推し活」があるものだ。  さて、それでは俺も飯食いに行くか。今推してる店が実はここの近くにある。  その店で推してるメニューが「押しかつ定食」なのだが、美味さがヤバすぎてめっちゃハマっているのだ。一度行って食べて以来鬼リピしている。今度アイツも連れて行こう。きっとあの店のとんかつが推しになって、他のとんかつ屋に行けなくなるだろうから。  ――推しがある。それだけで素晴らしい人生を送れる。

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