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 もげぽよと前に会ったのはいつだったかな。テレビをぼんやりと見ながら佐野は思う。前回会った時、茂木は大学生ではなかった。恐らく今年の三月。その前の年の秋口に、漸く受験勉強を始めた茂木から電話がかかってきて、国語の勉強を手伝ってほしいと懇願された。これがきっかけで、度々図書館などで会って現国を見てあげるようになった。  高校時代、佐野は寺林とは仲が良かったが、茂木のことはそれほど知らなかった。寺林と初めて会ったのは転校して来てまだ間もない頃だ。高校のクラスは違ったが、通っていた個別指導塾でたまたま一緒になった。二人は家も近く、寺林の人懐っこい性格も助けてすぐに打ち解けた。やがて学校でもお昼を一緒に食べたり、放課後や休日に二人で出掛けたりもするようになった。一方、佐野が茂木と知り合ったのは高三の夏のことであった。それまでは、寺林のクラスメイトで、ちょくちょく話の中には出てくるから名前は知っている、という程度だった。  初めて茂木と会ったのは、七月の最後の日曜日だった。駅前のファーストフード店の前をたまたま通りがかった時、店内に寺林がいたので外から手を振った。寺林は誰かと一緒のようだったが、すぐにこちらに気がついて手招きをした。佐野は店に入り、とりあえずコーラのMを注文して彼女らがいる席に向かった。  寺林の向かいにいるのが時々話題に上がる「もげぽよ」だということはすぐに分かった。黒縁メガネでボブの女の子。パーツ云々よりもメガネの印象が強いその顔は、校内で何度か見かけたことがある。服装は特徴がないといえばない、あるといえばある。そういえば、最近寺林がこんなことを言っていた。 「学校の外で会うとな、いつも白黒の服ばっかりやねん。この前一緒に古着屋へワンピースを買いに行ってんけどな、店員さんに『黒はないですか』って、他に可愛いのいっぱいあるのにやで。で、結局駅前のシマムラで黒のワンピース買ってん。なんかじわじわくるやろ」  目の前の相手はまさに白黒のボーダーシャツに黒のワンピースという服装だった。佐野は自分の中にじわじわと湧き上がってくる何かを感じ、挨拶もしないうちに思わず口元が緩んだ。茂木はそれに気がついて、何事かと目を白黒させている。  寺林が言った。 「サノッピー、初対面なのに容赦ないな」 「ご、ごめん、えーと、テルミがよく言ってる子だよね。もげ……」 「もげぽよな」 「はあ、あの、何ですか」  怪訝そうな表情の茂木に寺林がフォローを入れる。 「この前その服買いに行った時のこと、あたしが話したのよ。この子、サノッピー。塾で一緒の子な」 「あー。茂木です。はじめまして。……何がそんなにおかしいのかわかんないけど」 「あたし、C組の佐野。テルミが面白おかしく話すもんだからついね。ごめんなさい。っていうか邪魔してよかったのかな」 「もちろん! むしろあんたの助けが必要やねん。今この子の現国見てるんやけどな、サノッピー、国語得意やろ。ちょっと付き合ってんか」 「うん、まあ。別に予定もないしいいけど」  こうして、寺林に巻き込まれるような形で佐野は茂木の現国の勉強を見ることになったのだった。

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