S <また、恋をする>
第32話★幕間・読めない日記

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★―幕間・始―★  日記を書こうと思う。  せめてアタシがここにいた証として。  アタシが倒れてもう一年。  流れるはずの涙は枯れていて。  窓から見える星空はどこまでもキレイでどこまでも怖い。  アタシは星になれるかな?  アタシは誰かの心にともるかな?  日記を書こうと思う。  この人に届ける言葉を遺そうと思う。  彼はアタシに夢をくれた。  彼はアタシに恋をくれた。  今もこうして横になるアタシの手を握ってくれている。  眠っているけれど。  眠っているけれどそれでも手を離さずに。  暖かい手。  時に冷たい手。  その手から様々な想いを受けとった。  色んな気持ちを受けとった。  困ることもあったけど。  それ以上に嬉しいこともあったから、  アタシの大好きな彼の手は、  今になっても大きく感じて。  彼がアタシの恋人である時に、  アタシは泣くことが出来たから。  彼がアタシの恋人でない時に、  アタシは世界から嫌われていると思っていた。  嫌われているから弾き出されるのだと思っていた。  だからアタシは世界を恨んで、  怒っていた。  悲しむことなどなかったのだ。  けれど彼が恋人である時に、  彼はアタシを泣かせてくれた。  世界を恨むことなどないのだと。  世界を怒ることなどないのだと。  彼に出逢えたこの世界を、  アタシはようやく愛せたのだ。  アタシはようやく笑えたのだ。  けれども滲む、アタシの世界。  枯れているはずの涙は溢れてきて。  笑え、笑え、笑えない、アタシ。  ぽつり、ぽつりと落ちる雫はどこまでも透明。  アタシは死ぬだろう。  明日か、ひょっとしたら今日の内にでも。  だから日記を書こうと思う。  いつ終わるかわからないこの命。  せめて言葉を遺せたら。  誰かの心に遺れば良い、なんて……なんて……そんなの嘘だ。  死にたくなんてなくて……。  それでもアタシは死ぬだろう。  だから今の内に伝えよう。  ありがとう。  ありがとうアタシの大切な恋。  ありがとうアタシの大切な人。  ごめんなさい。  ごめんなさいアタシの大切な恋。  ごめんなさいアタシの大切な人。  アタシはもう、諦めました。  そう言うアタシを叱る彼。  そう言うアタシに微笑む彼。  彼は笑顔の他にも大切な顔があることを教えてくれた。  喜も怒も哀も楽も全てを教えてくれて、  全てをアタシに向けてくれた。  それはきっと、その気持ちはきっと三人分。  彼の手をそっとお腹に持っていく。  この子は産まれてくれるかな?  この子を産むことできるかな?  お願いもって、アタシの体。  お願いもって、アタシの心。  必ず産んであげるから。  元気なあなたを産むからね。  彼と子に言葉を遺そう。  彼と子に心を遺そう。  アタシは星になるけれど、  アタシの想いが傍にあるように――  今日もアタシはペンをとる。  震える手で遺す言葉も震えていて。  怖い、怖い。  二人の未来にアタシも居たかった。  愛しています、アタシの恋人。  愛しています、アタシたちの子。  貴方たちと一緒に、居たかった……。  日記の最後は――――――――――  誰も読めないほどに滲んでいた。 ★―幕間・終―★

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