★―幕間・始―★ 日記を書こうと思う。 せめてアタシがここにいた証として。 アタシが倒れてもう一年。 流れるはずの涙は枯れていて。 窓から見える星空はどこまでもキレイでどこまでも怖い。 アタシは星になれるかな? アタシは誰かの心に灯るかな? 日記を書こうと思う。 この人に届ける言葉を遺そうと思う。 彼はアタシに夢をくれた。 彼はアタシに恋をくれた。 今もこうして横になるアタシの手を握ってくれている。 眠っているけれど。 眠っているけれどそれでも手を離さずに。 暖かい手。 時に冷たい手。 その手から様々な想いを受けとった。 色んな気持ちを受けとった。 困ることもあったけど。 それ以上に嬉しいこともあったから、 アタシの大好きな彼の手は、 今になっても大きく感じて。 彼がアタシの恋人である時に、 アタシは泣くことが出来たから。 彼がアタシの恋人でない時に、 アタシは世界から嫌われていると思っていた。 嫌われているから弾き出されるのだと思っていた。 だからアタシは世界を恨んで、 怒っていた。 悲しむことなどなかったのだ。 けれど彼が恋人である時に、 彼はアタシを泣かせてくれた。 世界を恨むことなどないのだと。 世界を怒ることなどないのだと。 彼に出逢えたこの世界を、 アタシはようやく愛せたのだ。 アタシはようやく笑えたのだ。 けれども滲む、アタシの世界。 枯れているはずの涙は溢れてきて。 笑え、笑え、笑えない、アタシ。 ぽつり、ぽつりと落ちる雫はどこまでも透明。 アタシは死ぬだろう。 明日か、ひょっとしたら今日の内にでも。 だから日記を書こうと思う。 いつ終わるかわからないこの命。 せめて言葉を遺せたら。 誰かの心に遺れば良い、なんて……なんて……そんなの嘘だ。 死にたくなんてなくて……。 それでもアタシは死ぬだろう。 だから今の内に伝えよう。 ありがとう。 ありがとうアタシの大切な恋。 ありがとうアタシの大切な人。 ごめんなさい。 ごめんなさいアタシの大切な恋。 ごめんなさいアタシの大切な人。 アタシはもう、諦めました。 そう言うアタシを叱る彼。 そう言うアタシに微笑む彼。 彼は笑顔の他にも大切な顔があることを教えてくれた。 喜も怒も哀も楽も全てを教えてくれて、 全てをアタシに向けてくれた。 それはきっと、その気持ちはきっと三人分。 彼の手をそっとお腹に持っていく。 この子は産まれてくれるかな? この子を産むことできるかな? お願いもって、アタシの体。 お願いもって、アタシの心。 必ず産んであげるから。 元気なあなたを産むからね。 彼と子に言葉を遺そう。 彼と子に心を遺そう。 アタシは星になるけれど、 アタシの想いが傍にあるように―― 今日もアタシはペンをとる。 震える手で遺す言葉も震えていて。 怖い、怖い。 二人の未来にアタシも居たかった。 愛しています、アタシの恋人。 愛しています、アタシたちの子。 貴方たちと一緒に、居たかった……。 日記の最後は―――――――――― 誰も読めないほどに滲んでいた。 ★―幕間・終―★
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