S <また、恋をする>
第21話「あ、ひょっとして【プラネタリアン】?」

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 そうしてやってくる放課後。デートの時間。 「おじいさんのお家ってどこにあるの?」  昇降口で靴を履きながら、心魅このみさん。 「この学校の近くだよ。  ご近所さんを主なターゲットにした喫茶店を営んでいたんだ。  マスターだったおじいちゃんが亡くなってからは副店長だった人が切り盛りしているんだけど」 「あ、ひょっとして【プラネタリアン】?」 「そう」  高校は堂々とここ山間の街の中央にある――と言うわけではない。そこは古くからある小学校に取られていて、中学が南側の山近くに、高校は北側の山近くに存在する。 「行ってみたかったんだあそこ」  そう言って心魅さんは校舎を出て山の方を見る。少し山を登ったところにある小さな天文台を見つけ、うんうんとナゼか頷いている。  本当に小さな天文台だ。おじいちゃんの趣味で建てられた天文台。喫茶【プラネタリアン】に併設された天文台。【プラネタリアン】のお客さんが無料で利用できる場所で、地元民にはちょっとした人気スポットである。 「わたし天文台に行くの初めて」 「そうなんだ」  オレも靴を履きながら。 「まあこの県って天文台少ないからね。  だから割と重宝されているんだよあそこ。小学生の遠足目的になってたり」 「心覇このはくんも遠足で?」 「うん。  オレとしては行き慣れたところだから新鮮味はなかったけどね。  ただ好きな場所だから嬉しかったけど」  二人して学校の門をくぐる。いつも先生二人が門の左右に陣取っている放課後の風景が今日もあった。 「心覇くんはおじいさん子?」 「どうだろう? 家族はみんな好きだよ」 「そっか。  わたしはおばあちゃん子だったな」  そのおばあさんにいただいたと言うトランプの入っているポケットを摩りながら。 「まだうんと小さい頃、よくおばあちゃんの布団に潜り込んでたんだ。  声が好きでね、しょっちゅう絵本を読んでもらったっけな」  空を見上げる心魅さん。いや、見ているのはおばあさんのいる天国かな。 「だから死んじゃった時は泣きまくったよ。  その時に初めてこの子たち月華げっかが声をかけてくれたんだよね。慰めてくれた、とも言うけど」 「へぇ」 【プラネタリアン】への道を歩みながら。  しばらく進むと桜の木が見えてきた。オレにとってはお馴染みの桜の木だ。しかし心魅さんには初めてで。 「オオ? おっきい桜だね」 「うん。立派な桜だよ。この辺りにはこの木しかないんだけど、充分に近辺を彩ってくれているんだ」  この桜の木から右の道を行くとオレの家に、左に行くと【プラネタリアン】へと辿り着く。 「知っているかい心覇くん? 桜の木の下には――」 「や、知っているけれど言わないで」  よく言われるけどねその話。どっから出てきた話なんだろう? 昔の怪談? ドラマか? 「考えてみたら花見ってしたことないなぁ、わたし」 「オレもだよ。  ああ言うのって大人がしているイメージ」 「だね。  わたしもいつかお酒飲むようになるのかな?」 「なるんだろうね。  そう言えば親戚の結婚式の時に水と思ってお神酒を一気に仰いだ経験あるけれど、喉が焼けるようだったな」  オレにはまだまだ早いと思ったものだ。 「いくつの頃?」 「中学二年。ちょっと前だね」 「中学時代の心覇くんかぁ。どんな子だった?」 「今とそんなに変わらないよ。  変わったモノと言えば身長と、そうだな、自分で考えて行動するようになったところかな?  前は周りに合わせていたんだ。その方が楽だったから。  でもおじいちゃんに「いつの日にかできるだろう恋人と横に並んで歩ける男になりなさい」って言われてね。  そこから変わった――と、思う。うん」 「そっかそっか。  大丈夫、ちゃんと変わっているよ」 「そう?」 「そ」 「そっか」  変われているのなら、嬉しい。  オレはちゃんと心魅さんの隣にいたい。恋人じゃないけれど。 「あ、ここ曲がればすぐだよ、【プラネタリアン】」

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