S <また、恋をする>
第12話「ちょーと待ったぁ!」

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心魅このみさん、ここにいるのはトランプの子なの?」 「多分ね。何枚か最初からなくてね。わたしがトランプを貰ってからずっと探しているんだけど、あと二枚揃わなくて」 「なんのカード?」 「『ハートのクイーン』と『スペードのエース』」  続いて心魅さんは二枚の意味を教えてくれた。  ハートの意味は  僧侶。  僧侶の教える魂。聖杯。愛。感情。  春。  水の星座。蟹座・蠍座・魚座。  クイーンはユダヤの女戦士、またはカール大帝の子の妻ユディト。  スペードの意味は  貴族。  貴族の剣。騎士。  冬。  風の星座。双子座・天秤座・水瓶座。  スペードのエースは特別豪華。トランプ税の対象になっていたとのこと(トランプ税ってなんだろう?)。 「この場所にいるのは『ハートのクイーン』だと思うんだよね」 「出てくるオバケが女の子だから、だね?」 「うん」 「でもあそこにいるのは男の子に見えるんだよね」 「うん?」  冷や汗が頬を伝った。  オレの目にはオレと同い年か少し下くらいの男の子が映っている。それはもうクリアに。 「うへい」  どうやら心魅さんも見つけたらしい。変な声が喉から出ていた。  その叫び(?)がどうやら男の子に届いたみたいだ。弾かれたようにこちらに振り向いたから。  振り向いて――脱兎。脱兎の如くに逃げ出した。 「……」 「……」  え? 逃げた? 「――追おう心魅さん!」 「お? オオ!」  オレは、オレたちは手を繋いだままに走り出した。廃遊園地の入り口に伸びていた縄を飛び越えて、中へ。  どうやら脚はオレの方が速いらしく、遅れだす心魅さんが転ばないようにと速度を少し落としつつ。  一方で男の子の方はオレとどっこいの速さかな? いや少しオレが遅い。距離がジワリと開き始めた。  が、男の子は後ろに振り返るとその場で脚を動かしながら移動を止めて、しばらくして右手を後ろに引いたままもう一度走り始めた。けれど今度は速度が出ていない。オレたちよりも遅くて距離がジワリと閉じ始めた。  あのポーズは――オレたちに似ている? 「だ、誰かの……手を、引いているみたい」  呼吸を荒くしたまま、走り続けながら心魅さんは声を発する。 「手を?」 「はっ……オ、オバケ……とか!」 「あ、そうか」  オレたちにオバケを視認することはできていないが、あの男の子にはえていると言うのだろうか?  霊感と言うモノが強いのか? あるいは自分をこの世に留める力が弱いのか?  オバケが本物かトランプの『ハートのクイーン』かそれすらもわかっていない状況ではあるが、どちらにしても男の子にはなにかが視えているようだ。確信した。  ナゼ確信できたのかと言うと男の子が廃遊園地内のショップに逃げ込む際ドアを開けて誰かを先に入れる仕草をとったからだ。その後男の子自身も入りドアは閉められた。  オレたちはそこまで行くと疲れてしまった心魅さんを少し休憩させてからドアノブに手を伸ばした。オレはそのままドアノブを回転させてドアを開け――開かなかった。どうも男の子が中から抑えているっぽい。  逃げるのはやめて足止めに切り替えたようだ。それともオバケの方はまだ逃げ続けているのだろうか? 「てい!」 「え?」  ガラスが割れる音。心魅さんがずっと持っていた学生用のバッグを窓に思いっきりぶつけたから。  いやぁ、元々ヒビが入っていたがずいぶん思いきったなぁ。器物破損で捕まったりしないのかな? しないと良いな。捕まりそうになったらオレも一緒に捕まろう。 「よっし心覇このはくん窓から入ろう!」 「おっけ! と言いつつうりゃ!」 「え⁉」  窓に向かうと見せかけてドアを引いてみた。するとあっさり開いて顔がぶつかりそうになって。  中にいた男の子は窓に注意を向けてしまいドアノブにかけていた力をといてしまったのだ。フェイントに引っかかって「え⁉」と言う言葉とともに驚きで目を丸くしていた。丸くして、オレたちと対面。けれど硬直はそこまで。すぐに我に返って背を向ける男の子。  オレはそんな男の子に―― 「ちょーと待ったぁ!」  と言いつつ空いている左手で男の子のシャツを掴んだ。  掴まえた! 「へ?」  しかし間の抜けた声はオレの口から。  だって、放置されていた売れ残りのぬいぐるみたちが浮かんでぶつかってきたから。

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