「ごめんね」 「うん……けどそうなるとオレ、心魅さんの御両親に挨拶の一つくらいしないといけないんじゃ?」 同居だけでもちゃんと挨拶しといた方が良いだろう。加えてプロポーズした恋人となるならなおさらだ。 「いやぁそこまで迷惑はかけられない――」 【連絡します】 「「ん?」」 校内放送だ。けどいつも流れてくる放送部の人たちの声ではない。この声は……オレたちの担任――か? 【一年二組、八千 心覇さん。咲崎 心魅さん。 至急生徒指導室までくるように】 「……」 「……」 「なにか、心魅さんやらかした?」 「うんにゃ?」 となると……速攻で同居がバレた? 「……無視したい」 「わたしも……」 でもできないよなぁ。覚悟を決めるか。 「行こうか」 「うん」 無視を、しなくて良かったと本気で思った。 だって指導室に出向いたオレたちを迎えたのは五人の大人たちだったから。 即ち、オレの両親、心魅さんの御両親、プラス担任。 あ、ダメだこれ……終わった……。 「まあ座って」 担任の男性に促されて、オレと心魅さんはそれぞれ両親の横に腰かけた。ソファが意外にも弾力があって座り心地が良い。そう言えば初めて入ったな生徒指導室。まさか入学してほんの数日でお世話になるとは思いもよらない。 「で、だ」 オレが現実逃避していると担任が話を切り出してきた。 「二人が同棲――もとい、同居を考えている件についてだけど」 あ、やっぱりその話か。万に一つの可能性にかけて違う話題を期待したのだが。 「まずはっきりさせたいんだけどさ、キミら付き合ってんの?」 「「そうです」」 ハモるオレと心魅さん。 ジツはここにくる前にそう言う話にしておこうと決めていたのだ。 「出逢ってわずか数日で?」 「先生、わたしたちにはびっくりしちゃう秘密があるのです。共通する秘密でグンと二人を近づけてくれた秘密。言えませんけど」 これも話していたこと。完全に嘘をつくよりある程度真実を混ぜた方が良い、と言うやつだ。 「十何年生きてきて、これだけ深く人を好きになったのは初めてだと思います」 と、オレ。 言っていて恥ずかしいな。あ、お相手の心魅さんも恥ずかしがっている。 「秘密、深く、ねぇ。 先生としては自由恋愛大いに結構なんだけど」 そうなのか。 ならば押せ押せでなんとかしよう。 「それは御両親を納得させられるくらい大きなモノなんだな?」 「「ハイ」」 再びのハモり。 気持ち良いな、揃うと。 「うん、わかった。 と言うことですがいかがでしょう?」 言葉を投げられたのは、四人の大人たち。 うち一人は灰色のスーツで胸には鷹の画が描かれたループタイをつけている人。つまり心魅さんのお父さま。オレが一番気にしなければならない相手だ。 目を向けると固く瞼を落とされていて、一見すると眠っているようにも見えた。それだけ落ち着いておられたのだ。 「心覇」 「ん?」 横から声があがった。オレの父からだ。 「覚えていないか? 咲崎さん」 「……は?」
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