「オ~」 登校の途中、オレは見事に咲き誇る桜に思わず感嘆の声をもらした。 オレが住んでいるのは未央市――地方の一都市の更に地方で、家の数と田んぼの数がタメをはっている。そんな中にポツンと竹林があったりもする。 市全体から見たら人口は増えているのだが、潤っているのは中心市街地のみ。ここ山間の街は今も昔も田舎ってやつだ。 そんな田舎にデンと構える高校への道すがら、一本の桜が姿を見せている。オレが産まれる前からずっとあるこの桜には恋の伝説があったり――しない。残念。大きくキレイなのだがいかんせん場所が悪い。車道から離れている為にバス通学の学生の目には留まらないし、地元の人間は流石に知っているが見にくる人はごくわずか。みんなこの桜よりも中心市街地の駅前にズラッと整列する桜並木の方に目が向いていたりする。 キレイなのに、不運と言うかなんと言うか。 『あら良いじゃない。静かな方が風情あって』 「そうだね」 ………………………だから。 気のせいか幻聴かはたまたオレって二重人格だったりするのだろうか? 謎の女の子。その女の子の声に少し寒気が奔った。 「あ、ヤバい」 桜に見惚れている場合ではない。学校行かねば。 ◇ 「おっす~」 「……おす」 教室に入り、机に向かうとお隣さんがゆったりと手を挙げてきた。女子である。女子高生である。当たり前だけど。隣市からのバス通学者の一人で、高校に入って知り合った。つまり入学式のあった昨日出逢ったばかりだ。 なのに。 「フレンドリーだ」 「お隣さんとは仲良くしときたいしね」 なんか、あま~い声質の子だな。 でもはっきりとしていて耳に良くなじむ声だ。 「仲良く、それは――そうか」 席替えがない学校だから一年ずっとこの位置だしな。 「うん。えと……五郎君」 「誰さ! オレは心覇! 八千 心覇!」 「五なのか八なのか!」 「八です!」 どっから五が出てきた。 「アハハ、覚えた覚えた。 わたしの名前覚えてる? 心覇くんの名前にすっごく似ているのだけど」 「覚えているよ。花子さん」 「誰さ! わたしは心魅! 咲崎 心魅!」 「咲くのか咲かないのか!」 「咲くんだよ!」 そりゃもうアイドルの如く! とか言い出した。 うん、まあ? キレイな顔立ちに……入るとは思うが。髪は胸まで流れていて、その胸の豊かな起伏を強調して見えていやらしくないレベルで適度に色っぽい。日焼けもしていないから黒いスカートから覗く足がより一層白く見えて――変態か。朝から女子を分析してどうする。いや夜ならオッケーとはならないが。 「あ、今日も占ってんの?」 「うん」 そのアイドル並みの心魅さん。人を引きつけても良さそうなものであるがちょっと距離を置かれていたりする。 理由は二つ。 一つは髪の色。 半分が黒。これは良い。染めていない黒だから艶々だ。 だがもう半分は――白い。それも頭頂部にショッキングピンクのメッシュ入り。彼女の説明によると白は地毛だそうだが、こんなキレイに半分だけ白髪になるなどあるのだろうか? ショッキングピンクに染めているのは「せっかくだから日の丸をイメージしてみました」と言う話。 正直、オレも最初は引いた。関わらずにいた方が良いか? とも思ってしまった。心のありようは外見にも現れる――と考えていたからだ。 けれど彼女はお隣さんになった。話さずにスルーを続けるとなるとただのイジメになってしまうからまず挨拶をして、二・三話してみたのだが予想を裏切って気の合う子であるとわかった。以来オレたちはこうして友だち関係を築く仲になっている。一日経過しただけだが。 もう一つの理由は机の上に。 「良く見つけてきたね、その色のトランプ」 「へっへ~良いでしょ~かっくいーでしょー」 机の上に広げられているのは、トランプだ。世界で一番有名なカード。 ただし色に問題がある。オレは格好良いと思うのだが世間的にはどうやら一歩引かれるようで、今も心魅さんの周りにトランプを理由に寄ってくる人はいない。 「黒いトランプ、か」 真っ黒なカードに、金箔の絵柄。 女子高生が持つには少々怪しい一品である。 「欲しい?」 「ぬ……」 正直……欲しい。できれば売っているところ、あるいはメーカーくらいは知りたい。 「でも残念。これって世界に一個みたいだから」 「世界に一つ? そんなレアものをどうやって?」 入手したのか。 「これはね、おばあちゃんの形見」
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