S <また、恋をする>
第42話「叶さんはここにはいない」

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 翌日、オレたち一行はまずかなうさんの入院先であった病院を訪れた。  オレたちの記憶を完全に編集できたと思っているならこれまで通りに入院しているのではと思ったのだ。  しかしそんな甘い話はなく。 「転院ではない、と」 「ハイ」  オレの確認に、受け付けの人はイヤな感じを見せずに首肯してくれた。  叶さんはもうここにはいない。それも転院ではなく完全な退院だと言う。理由までは教えてもらえなかった。 「どうする?」 「ちゃんと確認した方が良いんじゃないかな? ひょっとしたらわたしたちを通さないように言われているのかも」 「だね」  その可能性はある。オレたちを遠ざけたのだ。面会を拒否されていてもおかしくない。  今、最も警戒されているだろう真名まなは姿をいているのだが、それでもオレと心魅このみさんは周囲に気を使いながらエレベーターへと向かい、乗った。  叶さんの入院していた五階のボタンを押して、エレベーター特有の浮遊感に襲われる。ほどなくして五階に辿りついたエレベーターはドアを開き、五階廊下に脚を進めた。  そのまま病室――個室だ――へと向かったのだが名前が書いてあるはずのプレートには誰の名も書かれておらずに、病室の中を覗いてみてもキレイに整えられたベッドがあるだけだった。もちろん、荷物もない。 「ハズレ……だな。  叶さんはここにはいない」 「灯台下暗しで病室だけ変えてたりはないかな?」 「う……ん。  さすがに全ての病室を見て周るのは……」 「不審者になっちゃうか」 「うん」  なので、オレと心魅さんは病院を出ることにした。怪しまれない程度に病院内をうろちょろして。当然うろついたことに意味はある。 「一夜いちや、真名、日記の気配はあった?」 『ないわね』 『われも感じずだ』 「そっか」  ここに日記はない。では叶さんが日記を手放している可能性は? ……いやないなそれは。こうして一夜のパートナーとなっているからわかる。人の手に渡らないように自分からどこか遠くにやる、それはまずないだろう。 「となると、探しようがないね……ごめんね真名」 『あるじが謝る必要はない。  我こそ役に立てていないのだから』  病院の敷地から外に出た。  さて、これからどうするか……。  叶さんは妊娠している身だ。そうそう簡単に遠くへ出かけられるとは思えない。  しかし闇雲に動いてもしようがないだろう。時間の制限もあるし。  西を向くともう日がずいぶん傾いている。じきに夜がやってくる。治安が悪いと言うわけではないが高校生が夜に出歩いていると補導対象になってしまう。  二人で暮らし始めて早速補導される事態になったら親がなんと思うか……。少なくとも一ヶ月は問題ない生活を送る必要があるだろう。  だから。 「今日は帰ろう。次の土日になったらまた午前から探すってことで」 「ん」

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