S <また、恋をする>
第49話「聖品を創ったものです」

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「えっと……」  家に着いて、一息つこうとお茶の準備をしていた時チャイムが鳴った。来客を報せるチャイムである。しかし今は夜の二十一時。いくらなんでも良識あるお客さんがくるには非常識な時間だ。それともよほど急ぎの用でもあるのだろうか?  頭を捻りながらオレは玄関に向かい、「どなたですか?」と玄関扉を開ける前にたずねる。すると扉の向こうにいる人物が言うには、 「カトリック教会司教の下にいるものです」 らしい。  オレと心魅このみさんは多くの日本人がそうであるように仏教徒だ。カトリック教とはほとんど縁がない。  それが、司教の下の人とは言えわざわざ訪ねてこられた。非常識な時間をさける良識のある人たちだろう。なのにこの時間にきた。どう考えてもなにかが起きているのだろうと予想できる。  ドアスコープを覗くと顔だけが見えた。男性二人だ。 「なんの用でしょうか?」 「貴方ガタの持っている聖品について少々お話を伺いたく」  ? 聖品?  一度「?」マークを浮かべたがすぐに気づいた。一夜いちや月華げっかだと。当然の話だが彼女たちは聖なる品ではない。一夜も首を横に振っているし。けど、まあ、奇跡を起こす子――ではあるか。 「……どこで知りました?」  誰も無闇に口を開いてはいないはず。 「聖品はこちらにもあります。聖品を探し出す聖品です」 「――!」  新しい……工芸品?  なるほどそれなら一夜たちの存在に気づけてもおかしくはない、かな?  そこで心魅さんがやってきた。扉を開けないまま長く話しているから不審に思ったらしい。 「こちらの話を聞いていただけるだろうか? 内容に怪しいモノがあればいつでも警察を呼んでもらって構いません」  ずいぶんな自信だ。 「(一夜、家族の気配は感じる?)」  扉の向こうには聞こえないように小声で。 『(似たものは感じるけれど……どうなのかしら? なにかしら持っているのは確か。ただ少々違う気もするわ)』  一夜がそうと断じない。断じられないモノを向こうは持っている。  開けるだけの必要性は……ある? 「……心魅さん、オレの後ろに」  いきなり襲われたりはしないだろう。と思うが念の為に。 「うん。気をつけてね」 「ん」  心魅さんがオレの背に隠れたのを確認し、玄関扉の鍵を外し、開いた。 「こんばんは。遅くに申し訳ありません」  そう言ってくる彼らの姿を見て少しばかり息を呑んだ。  白い装束。これは良い。カトリックと言えば清純なイメージだ。白色を好むのは理解可能。  白人と黒人のコンビ。これも良い。なにかと話題になる二つの人種だが、仲が良くともに働けているのなら口を挟む必要などない。喜ばしいことだ。  ではナゼに息を呑んだのかと言うと彼らの持ち物だ。  白人の男性が軍旗を、黒人の男性が透明な風船の束を持っていた。  ナゼそんなモノを持っている? 決まっている。これこそが彼らの持つ工芸品――彼らの言う聖品なのだろう。 「本来ならばもっと早くに訪れたかったのですが、お一人は妊娠の身。邪魔をしてはお体に障るだろうと思いこれまで会えずじまいでした」  こっちの状況は知っているのか。ついさっきの出産までも。  なんか……見られているってイヤだな。 「あちらのご夫婦はまだ安静が必要でしょうから、まずは貴方ガタへの訪問となったのです。  少々場所を移します。傷つける意図はありませんしそうはならないので安心してください」 「「――⁉」」  軍旗から閃光が放たれた。  突然の発光現象だ。オレも心魅さんも目を焼かれないよう咄嗟に瞼を落とし――それでも光が届いたから腕で影も作った。  その光は数秒輝いたかと思ったら今度はあっさりと消えて。  痛みはない。ただ眩しかっただけだ。確かに傷はついていないが……いきなりなにすんだい。 「……え?」  苦情を入れようと目を開いて口も開きかけた。  が、口から出た言葉は苦情ではなく。 「心覇このはくん……」  手を握ってくる心魅さん。不安なのだろう。  だって、景色が一変していたのだから。 「なんだこれ……?」  上も下も、横さえも白い。木も土も空もなく、ただ白い空間に浮かぶガラス製の途切れた橋と大きな聖堂。透明な素材なのに聖堂内部は見えずに。 「申し訳ない。ここでないと会わないと駄々をこねられたもので」 「誰にですか?」  訪ねてきておいて強引に連れ出すとは、非常識ではないだろうか。 「聖品を創ったものです」  ……。 「――え?」

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