S <また、恋をする>
第34話「今すぐその人のところに連れていって!」

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 目をみはるオレと心魅このみさん、それにオレの肩に座っている一夜いちやも。  人と、きているとは言えトランプが子を成した。  え? 可能なのかそれ? 「気を悪くしたら謝るけど、想像妊娠ではなく?」  思わず口を挟んでしまった。 『スペードのエース』は黙ってオレを見て、首を横に振った。 『間違いのない事実だ。医師により確認もとれている。  我自身子を成せるとは思ってもいなかったが、紛れもない事実なのだ。  それだけに恐ろしい。  我はことわりを破ってしまった……!』 『少しよろしい?』  すっくとオレの肩にて立ちあがる、一夜。 『まず初めまして、私は一夜。 「スペードのエース」、貴方の事情が貴方の手に余るものであることは認識したわ。  でも言わせて。  貴方が離れてしまったことでその女性の延命はどうなっているの?』 『初めまして、一夜。  女性のもとに多くの力を残してきた。今夜のうちに戻れば問題ないだろう』 『そう。それは良かった。  では続いての問いよ。  その女性、貴方による延命が必要になるほどのその女性、無事に子を産める体なの?』 『……ムリだ』  再び、首を横に振る。  出産に使う体力も丈夫な体もない、か……。 『つまり、貴方はその女性の死を克服したくて戻ってきたのね?』 『ああ、その通りだ。  月華げっかのみなが力を合わせればと思ってやってきた。  あるじ・心魅よ。  どうか我の願いを聞き入れてはくれまいか』 「なに言ってるの」  頭を下げる『スペードのエース』に対す心魅さんの声に怒気が混ざった。  けれど怒った理由は勝手な願いにではなくて―― 「今すぐその人のところに連れていって!」 「ごめんね心覇このはくん」出発の際に心魅さんからそう言われた。誕生日のお祝いが中断してしまった件に対してだ。  大丈夫、心魅さん。いつでも祝える誕生日と今にも消えそうな命、どちらが大切かなんて火を見るよりも明らかなのだから。  ただせっかく作ったケーキはムダにはしないときちんとラップして冷蔵庫には入れたが。  そしてオレたちは今、隣県に向かうべく新幹線に乗っている。そこにある病院にくだんの女性が入院しているからだ。  空の色はもう茜色。それすらも終わりかけていてすぐに群青色の夜がやってくるだろう。 「女の人について教えてくれる?」 『無論だ、主』 『スペードのエース』はトランプの一枚に戻っている。なにがどうなるかわからないからお金の節約をする為だ。オレたちの家にはトランプカードになって飛んできたらしい。 『彼女の名はかなう。「めぐり かなう」。  年齢は二十七。  仕事は元々服飾に従事していたが入院の際に辞めている』  巡 叶さん。服飾? え? それってひょっとして―― 「デザイナーの『カナウ』さん?」 『そうだ』

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