S <また、恋をする>
第47話「わたしの髪の毛が半分白髪になったのはそこから」

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「まあ、まずは全部の部屋のホコリをとろう!」  そう言って掃除機のスイッチを入れるのは心魅このみさん。  音頭を取って心魅さんは早速掃除にとりかかり、オレと真名まな、それにかなうさんと花月かげつが続いた。  やけに心魅さんがテキパキ動く。キレイ好きなのかと思っていたのだが悲鳴のような隙間風に一回一回ビクついている。ははん、つまり。 「悪いオバケへの恐怖をごまかしたいんだね?」 「ぜ、全然平気だよ? なに言ってるのかな~心覇このはくんは」  笑顔が引きつっていますが?  しかし、対オバケ用の虚勢だとしても心魅さんの働きっぷりはすさまじかった。ただホコリを掃除機で吸ってぞうきんで拭きまくるのではなく、鏡や金属はそれぞれで掃除の仕方を変えていたし、カビを取るのも忘れない。傾いている絵画はまっすぐ正し、家具の配置まで率先して行った。  掃除のプロよりプロしていた気がする。 「生前のおばあちゃんの教えでね」 「うん」 「想い出は大切にしなさい。想い出の宿る全てを大切にしなさい。それができて今とこれからが輝くのよ――って子供の頃から聞かされてたからさ」 「想い出……」 「ん」  言われて見たらおじいちゃんも似たことを言っていた。  良いかい? 痛みをわかってあげられる子になるんだよ? 同情じゃあない。哀れみじゃあない。理解し、乗りこえる為に力を貸してあげるんだ。それができてお前の現在と未来は明るく切り開かれるんだから――  ――と。  小学低学年の時に一度だけ言われた言葉だが、今も胸に残っている。  現在と未来、か。 「ねえ心覇くん」 「ん?」 「あれは……助けた方が良いのかな?」 「え?」  窓から外を覗いている心魅さん。心配そうな表情だ。なにがあった? 「……猫?」  横に並んで外を見ると、一匹の茶色い猫がひだまりで横になっていた。眠っているようだ。  助けるところは――どこだろう? 「目のところ見て」 「目」  あ、蜂がいる。ミツバチより大きな蜂で、スズメバチよりはやや小ぶり。  見たことのない蜂だが、あの行為は―― 「涙を吸っているんじゃないかな?」 「涙?」 「うん。そう言う蜂もいるってどっかで聞いたよ」 「そっか。襲われていないならほっとく方が良いよね?」 「だね」  ただしばらくは見ていた。いつ猫を刺すかわからないから。しかしその心配は杞憂に終わって蜂は二分後には飛び立っていった。  一度こちらに振り向いて。  ……え? 見られた? 蜂に? 次のターゲットにでも選ばれたのだろうか?  まさかねえ? 「そう言えばわたし、幼い頃に一度あれくらいの蜂に刺されたっけなぁ」 「え?」 「いやぁその時のわたしってなんでも掴んじゃうクセがあったみたいでね、眠っているお母さんの目にとまってたからこうガッシと掴んじゃって、刺されちゃって。向こうから刺しにきたんじゃなくてわたしの握り方に問題があったんだけど」  刺されたのだろう右手の掌を開いたり閉じたりしながら。 「なんともなかったの?  ほらアナフィラキシーショック、だっけ? そんなの」 「うん、大丈夫だった。  あ~でもね」 「でも」 「わたしの髪の毛が半分白髪になったのはそこから」  なんと。白髪にそんな秘密が。  それ毒あったのでは? 「う~ん、お医者さんによると白髪になった以外これと言った異常はないって話だから……どうなんだろうなぁ」 「生活に困ったところは?」 「ないよ」 「そっか。じゃあ……なんなんだろうね」 「ホントにね」  その後、叶さんのリハビリを見守り、時に手伝い休憩を挟んで数時間。  懐中時計を取り出して時刻を確認すると十八時ちょっと過ぎ。 「心魅さん、そろそろ」 「あ、うん。  叶さん、真名、わたしたちはそろそろ帰るね」 『うむ、夕方とは言え気をつけるのだぞ』 「ん」  真名はこの家に叶さんと一緒に暮らしている。記憶を取り戻していないからまだまだ初々しい二人だが、一緒にいるのがとても良く似合っている。  記憶をくしてもまた同じ人に恋をする――なんか良いな、それ。 「また遊びにきてくださいね」 「ハイ」 「うん」

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