S <また、恋をする>
第05話「あって当たり前のモノがなくなる。それはちょいと悲しいよ」

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 時間は過ぎて、放課後。  多くの新入生は部活見学へと旅立つ時間である。校門前には多くの先輩方がいて勧誘の為に声を大きくしている。  そんな中をオレと心魅このみさんは歩いてスルーするわけだが……なんか、申し訳ない気分になってきた。期待に応えられなくてごめんなさい先輩方。 「心覇このはくんは部活どうするの? どっかに入る?」 「う~ん、ある程度筋肉をつけたいとは思ってるから、運動系に入ろうかなって感じ。どこかはまだ決めてないよ」  別に、お腹がぽっこり出ていたりはしない。むんずとお肉掴めたりしないし。でもシックスパットではないからこれからやってくる夏に備えて鍛えたい気持ちがあるわけで。こう……男として女の子に情けない腹筋を見せたくないと言うか……。 「男の子だねぇ、心覇くんも」 「心を読まないでくれる?」 「でも、体幹も鍛えた方が良いと思うよ。筋肉あってもフラフラするようじゃ女の子にはモテないぜ」 「べ、別に女の子にモテたいわけじゃないもんね」 「ツンデレか」  ケラケラと笑う、心魅さん。それにつられてオレも笑う。  ああ……なんか良いな、こう言うの。  なんとなく安心する。  ……いや、たった二日でホレたとかじゃない、と思う……自信はないが。 「こっちだよ」 「うん」  校門を出て、いつもとは違う道へ。バス停に向かう道だ。 「のどかだよね、ここ」  田んぼの横を通りながら。  両腕を広げて「ん~」と伸びをする心魅さん。 「わたし、こう言う風景と匂いって好きだな」 「まあ……きらいじゃないけど。でもずっといる身としてはもうちょい便利になって欲しいんだよね」  スーパーとコンビニはあるけれど、ドラッグストアや服を買える場所がない。中心市街地まで行って買うかインターネットで買うかだ。  若い世代向けのお楽しみショップなんて0である。 「不便って言うのは田舎の特権だよ。一度発展しちゃうともう戻れないって言うか、大切なもんを失っちゃうと言うか」 「大切、ねぇ」 「そ。  土への愛情、植物への愛情、水への愛情。そう言うの」  確かに、都会暮らしだと公園に行かなければ土に触る機会がないとは聞くな。ここに住んでいると信じられない。 「わたしが住んでいるところは発展に向けて進んでいるんだけど、あって当たり前のモノがなくなる。それはちょいと悲しいよ」 「なにか変化があったの?」 「あったよ。人工の川ができました」 「ああ、夜門市よどのしの川か。テレビで観た」 「市を横断したんだよね。それでなんて言うか、一つだったモノが二つになっちゃった感じ。まあおかげで蛍がくるようにはなったんだけど。  夜門市と未央市みおのしが別れちゃった時もこんな感じだったんだろうね、当時の人たちの気持ちって。  まあ、一長一短かな」  心魅さんの脚が止まった。バス停に着いたのだ。  失うモノと、新しいモノ、か。 「なんか、人に似てるな」 「うん?」 「誰かが亡くなって、新しい出逢いがあって。  この懐中時計も――」  ポケットから取り出して。 「おじいちゃんが亡くならなければオレのところにはこなかったし」 「ああ、わたしのトランプもそうだね」  変わるモノ、変わらないモノ。  別れと、出逢い。 「それと、くしてはいけないモノ、か」  改めて自分の住む場所を、山間の街を眺める。  ……なるほど。そう考えると、少し愛おしさが増すかな。 「あ、バスきたよ」  心魅さんの声に街へと向けていた目を移動させる。  都会の最新バスとは違って古いバスだ。エンジンの音も大きく、白だった車体は黄色くなっている。自動運転ですらない。  いい加減新しくしてほしいと思っていたものだが、これもこれでこの街を彩る風物詩みたいなものかな? ……違うか?  バスが停まった。キキィとブレーキ音がして、一拍おいてドアが開く。  乗りこんでみるとバス特有の匂いがして、先に乗りこんでいた人の香水と体の匂いが遅れて鼻に届いた。  一番奥の席はもう人が座っていたから真ん中くらいの席に二人並んで座る。窓側に心魅さん、通路側にオレだ。  心魅さんとの距離がものすごく近い。いや近いって言うかすでに肩から腕にかけて触れ合っているのだが。  それに伴って顔も近くに。  ……こうして見ると……充分すぎるほどに整っている、な。心魅さんの顔。  おまけに肌もキレイだ。産毛もほとんどなくて、毛穴なんて全く見えない。 「うん?」  視線に気づかれた。慌てて前に視線を移動させる。 「ふふん。見惚れても良いんだぜ?」 「な、なんの話かな?」  我ながら全く誤魔化せていないと思う。  ちょっとばかり恥ずかしさに身を浸しながら他の生徒たちが乗りこんでくる様子に目を向ける。何人かクラスメイトがいた。彼ら彼女らは並んで座るオレたちに少し目を向けるとそれぞれ座ったりつり革に手を預けたりする。  う~ん、明日の教室で多少噂されるかもなこれ。  これまでの人生で恋愛話の対象になったことなどないが、こそばゆいな……。 「……因みにだけど」 「ん?」 「心魅さん恋愛方面は?」 「縁がないね。恋人どころか初恋すらまだですよ」 「そうなんだ」  ……あれ? ちょっと嬉しい? 「心覇くんは?」 「右に同じ」 「そかそか」  少し笑んで、頷く心魅さん。 「んじゃ、わたしたちが付き合ったら初恋同士なわけだ」 「……そうなるね」  初恋は実らない、と言われるけれど、さて、どうなるかな?

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