「どうして?」 「モノに宿る魂ってのは愛情を注がれ続けた結果だ。 工芸家の二人は一代でそれを成しているんだろう。ひょっとしたら一日で成しているのかも。 けどあんたにとってはモノがどうなろうが知ったことじゃない。創って、その場で勘当しているも同じ。 そんなやり方で魂が産まれるはずがない!」 オレの言葉に、言葉を返さないロイヤルパープル。あえて黙っているのか言葉を持たないのか……。人をバカにする嗤いの表情はまだ消えていない。 「なるほどねぇ。 下名には馴染みのない思考です。 確かに下名は工芸家の存在に気づき、工芸家の産み出すモノに敗けぬ違わぬ同レベルの品を創るに至った未熟者。 そんな下名を必要としているのは聖職者。下名の創る聖品を必要としているのは聖職者。 でもね、彼ら彼女らは下名を否定しないんですよ。 性格を曲げようとする試みもない。 下名の機嫌をとり、下名の聖品を享受する。 奇跡に飢えた彼ら彼女らには聖品が必要なんです。 ではお坊ちゃんに聞きましょう。きちんとお答えください。 聖品に魂は必要ですか? 彼ら彼女らは悪ですか?」 「良く見なよ」 「なにを?」 「オレたちをここに招いた二人の表情を」 オレたちのもとを訪ねてきた男性二人。 今は少し離れた場所にて立っている二人に目を向ける。先ほどから視界の端には入っていたのだ。彼らの表情が。彼らの渋面が。 「ふむ。 彼らがあんな表情になっているのは単純。下名が嫌いだからですよ。 嫌いだけれど聖品を手にしたい。 なんともいじらしいですね」 「聖品に魂があれば彼らの心は多少なりとも穏やかになったはずだ。 自分を善だと思っているなら表情は和らいだはずだ」 「魂は必要で、行いは悪だと言うことですね。 でもね、聖品が起こす奇跡は市民に向けて披露され、市民を幸福に導いてきたんです。 奇跡に湧き、聖職者を聖人のように崇め、聖人もどきによって与えられる名と言葉によって救われてきたんです。 不幸を感じる心に光を灯してきたんです。 お坊ちゃんは救われた者たちに間違いだと言うのでしょうか? 下名の創る聖品は、それを扱う聖職者は悪だからその救いは間違っていたのだと、そう言うのでしょうか?」 「言わないさ。 聖職者の人たちは来る日も来る日も人を救い続けたんだろう。 納得のいかない聖品を使ってでも人を救おうとしてきたんだろう。 その行いまで悪だなんて思っていない」 「ならば?」 今まで最高の嗤い。まだ余裕がある。 「ロイヤルパープル、あんたの心だけを否定する!」 「や~めた」 「……は?」 嗤いの最高値が更新された。心底楽しそうに嗤うその姿はもはや着ている服とはまるで違う。まるで似合わない。 「下名は聖職者に聖品を卸すのやめにします。 下名は困りません。買い手はいくらでもいますので。 ぜ~んぶ貴方のせいですよお坊ちゃん!」 よし、こいつ殴ろう。 そう思って一歩足を踏み出そうとした時だ。 「やめんか!」 怒声がこの空間に響き渡った。
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