◇ 星が瞬いている。 『ハートのクイーン』が心魅さんの手元に納まったのが二時間前。 現在は午後八時。 オレは自室のベッドに寝転がり、開け放たれているカーテンから夜空を眺めていた。部屋の電気を消しているから窓に映る部屋の風景も少なく、星の瞬きが良く見える。この時ばかりは田舎に生まれ、住んでいる事実に感謝したい。都会ではお目にかかれぬ星空だから。 そう言えば食後に横になると牛になると言うが本当に太ってしまうのだろうか? まあそれはそれで個性と言うことで。牛、美味しいし。食べられたくはないが。 「……モノに宿る、魂――か」 世の中に不思議があるのは理解した。それは決して怖いモノではないことも。 ではそれは偶然の産物なのか? あるいは―― ポケットから懐中時計を取り出し指に鎖をかけて目の上に垂らす。 「お前――じゃないな、キミは、生きているのかい?」 『そうよ』 返事があった。もう驚かない。 「姿を見せてくれない?」 『見てどうするの? 私はお人形ではないわよ?』 人形遊びに興じる歳ではないのだが。 「ちゃんと逢いたいだけさ」 『やだこの子ったら私と心魅で二股かけようとしてる』 「してませんが⁉」 美少女だと言う懐中時計。一度で良いから見てみたいと言う興味はあるが、それはあくまで理由のごくごく一部分。大半をしめるのは……そうだな、友だちになれれば、と言う感じかな。 『ふぅん。ま、良いわ。 体を起こしてきちんと座りなさいな。 女を出迎えるのに寝そべったままはダメよ』 「ああ、そっか」 女の子、出迎えた経験ない。ないけれど姿勢くらいは正さなきゃな。 オレは上半身を起こし、お尻を中心に体を動かしベッドに座る。 「電気は?」 『必要ないわ。理由は私を見たらわかるから』 「了解」 懐中時計を掌の上に乗せて。 「それじゃ、よろしく」 『ええ』 ――――――――――――――――――――――――――――――――――ぽっ 金の懐中時計に淡い白い光が灯った。蛍火のように弱い光。しかしそれでいて暖かな雰囲気を纏った不思議な光。 白光は懐中時計を中心に渦を巻き、ゆっくりと、小さな少女が姿を見せる。 まずはかんざしのつけられた長い黒髪が。 続いて着物に――白く金の装飾がなされた和服に包まれた背中が。 そこから白く細い首が見えて――端正な顔が現れた。 体全体から小さな桜・ひまわり・椛・雪の結晶を季節順に流れ落とすその姿にオレは、息を呑む。 全長十センチメートルくらいだが、想像以上に美しかったから。 そんなオレに『まだまだこんなものではないわよ』とでも言うように背に蝶々の羽に似た形の白い羽が拡がって。 そして最後に、閉ざされていた瞼が静かに開かれて、緋色と撫子色の中間――つつじ色の瞳がオレの姿を映し出した。 「……」 『こう言っておこうかしら。 「初めまして、心覇」』
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