S <また、恋をする>
第37話「ごめんなさいね」

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 一つ目の病院は、ハズレ。  帰りがいつになるかわからないからオレたちは歩きで各病院を回っている。夜になり終電を逃したならホテルに泊まる必要も出てくるから。明日の心配をしないでもないが、心魅このみさんと二人で話し合った結果『スペードのエース』の問題が解決しない限り帰らない、となった。  永遠に解決しなかったりして……。  二つ目の病院、ハズレ。  この街はさほど大きくない。入院可能な病院と言えば次がラストだ。つまり――そこにカナウさんはいるはずで。  しかしてその疑問は――わりとあっさり光明を得た。 「本当にあっさり教えてくれた……ね」  病院の総合受け付けで尋ねた結果、簡単に教えてくれた。それに心魅さんはむしろ疑念を持ったようで。  オレも同じ。  受け付けの人の話によると「真名まなさんが訪ねてきたら病室に案内してあげて、とめぐりさんに言われていたので」と言うことらしいが、ならどうして記憶を消した? あ、『真名』と言うのは『スペードのエース』の偽名だ。旅をするにあたって『咲崎さきざき 真名まな』と名乗っていたとのことだが偽名に『真名』と言う名を使うとは……個人の名に憧れでもあるのだろうか? 「ここだ」 「うん」  カナウさん――かなうさんの病室に辿りついた。ネームプレートにもしっかりと『めぐり かなう』と書かれている。  だから、まずはノック。  コンコン、こんこん。 「どうぞ」  四回ほどノックをしたら中から声が。テレビで聴く声とは少し感じが違ったが、とても似ている。機械を通さない叶さんの素の声だろう。 「失礼します」  代表でオレがそう言って、扉を横にスライドさせた。 「いらっしゃい」  顔を見せてすぐ、ベッドに上半身を起こしていた叶さんは迎え入れる言葉をくれた。  どうやらなにか読んでいる最中だったみたいだ。ベッドの上に一冊の本を広げている。 「こんにちは。どちらが真名のあるじかしら?」  優しい声音だ。悪意など微塵も感じさせない美しい声。 「あ、わたしです。  咲崎さきざき 心魅このみと言います」 「そちらは?」 「八千やち 心覇このはです。えっと……」 「言わなくても良いわ。なんとなくわかるから。心魅さんと秘密を共有する大切な人、でしょう?」 「ええまあ……」  なんと言うか、大人の余裕を感じる。  こちらの上をいっている、そんな感じ。 「突然押しかけてごめんなさい。  わたしたちは――」 「気にしないで。こちらはこちらの都合で貴方たちを招いたのだから」 「え?」 「この本、これで記憶を弄るにはアタシが一度直接顔を合わせ言葉を交わす必要があるの」 「「――!」」  叶さんの細すぎる指が本の一ページをなぞった。するとどうだろう? なぞった一文が消えたではないか。  しまった―― 「ごめんなさいね」

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