「ここにきたの久々だ」 夜門市の一つの駅、心魅さんの地元だと言う街の駅に降り立って少し心が弾む。あまりきた覚えのない場所にくると自然とワクワクする。それに加えて今は心魅さんの故郷と言う一つのワードが増えたものだからナゼかワクワクが増していたり。 「わたしはね、街を楽しめるかは自分次第だと思うんだよね」 「うん?」 改札をくぐって、外を見ると大きなタクシー乗り場が目に入る。 「都会でも田舎でも、楽しめる人は楽しめるし、そうじゃない人はそうじゃない。 ようするに気構え次第ってこと」 うんうんと頷きながら、心魅さん。 「……つまり、ここには――」 「なんもないの!」 「やっぱりか」 先程の言葉は自分に向けてのモノであったと言う話。 「いやぁ映画館もスポーツ施設もショッピングモールも周辺地区にあるからさ、なかなかここに新しいモノを、とはならないんだよね。 市の御偉方がおも~い腰を上げてくれないの」 「地元の人たちは要請しているんだ?」 「うん。 このままだと人の流出が止まんないぞ~って焦っていたり」 「それで市は市で都会への流出が止まんないぞ~って焦っていたり?」 「そ」 地方都市とは基本そんな感じである。 東京や大阪ばかりに若い世代向けのショップや施設が建つものだからそちらの魅力ばかりがあがり、地方は衰えていく。 中央の御偉いさんは都会に住んでいらっしゃるから地方の危機感が今ひとつ伝わらないらしく本腰をあげてくれない。 未央市のように市街地を新しくしたり地方は地方なりに手を打ってはいるのだができる内容には限度があり、困った状態がもう十年から二十年は続いていると言う。 オレは決して地元が嫌いなわけではない。つまらないなと思いつつもその一方で好きなのだ。だから、いつか自分が市を変えるきっかけになれれば良いと思っていたりする。 「今はこんな状態だけど、いつかわたしが、って思っているんだよね」 「……」 なんと、心魅さんも同じ気持ちだった。 それならば。 「オレもだよ」 「……そっか」 お互い、相手の表情は見なかった。見る必要などなかった。声の調子と繋がる手の反応で心魅さんが喜んでいるのがわかったから。そしてオレの喜びも伝わっただろうから。 「行こっか。オバケが出るって言うのはこっちだよ」 「ん」 オレたちは歩き続ける。 ここ夜門市の一地区は生えている桜の木を整えたりはしていないようで、あっちに生えていると思ったらこっちにも生えている。並んで一か所に生えて――咲いていないからまるで地域全体が桜色に染まっているようにも見えた。 見えた。そうここからは地域全体が見渡せる。丘の上だからだ。景色はとても良いが訪れている人はまばら。オレたちを含めても十人くらい。その理由はすぐ後ろにあった。 「廃遊園地……か」 「そ。いかにも『出そう』でしょ」 確かに。 塀はサビてボロボロだし、遊具には草葉が巻きついているし、マスコットの着ぐるみが中に入るべき人を失って放置されていたりもする。 入り口である場所に立ってもそれだけのモノが見えるのだ。中に入ったらもっとひどい状況が目に入ってくるだろう。 そんなところに、オバケが出る。 ローカルテレビとは言えメディアが報じたのだから人が集まりそうなものだが先に記した通り人の数は少ない。 「地元ではもともと有名だったんだよ、オバケ遊園地って。だから新鮮味がなくてね。『ナゼに今?』って感じ」 なるほど。となるとローカルテレビはオレの予想通りにネタに困って今更な話題に頼ったと言うわけか。 「それじゃあ入るけど、覚悟は良いかい心覇くん?」 「オレはね。心魅さんは?」 「ふ。ジツはめっちゃビビってる」 「ナゼ得意顔なのか」 しかしやめると言う選択肢はないらしい。 震えながらも心魅さんは脚を動かしている。だからオレは彼女を急がせることなく横に並び続けた。 なにかあったらオレが心魅さんを護らねば。
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