S <また、恋をする>
第40話『叶(かなう)の気持ちを察してあげて』

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 全員の手が止まった。  その中で水だけが蛇口から出続けていて、気づいたオレは慌てて止める。水のムダ遣い、良くない。 『めぐり……かなう』  呟くように名をくり返すのは真名まな。どうやら彼がこの中で一番巡 叶の名に反応している。オレにとってはデザイナーの名だがそれ以上に思う気持ちがあるようだ。  オレたちは話の続きをする前に食器の片づけを終え、テーブルもキレイにしてからソファにそれぞれ腰を降ろした。 「一夜いちや、どうしてこれまで黙って?」 『もちろん、いくつか理由はあるのよ、心覇このは。  ……大丈夫、心魅このみ?』 「え? あ、うん」 『胸がモヤッとするでしょう? ともである真名の心情があるじである貴女に響いているからよ』  言われ、視線が真名に集まった。  真名は座ってはいるもののまだ呆然としていて『巡……叶』と繰り返し呟き続けている。心のどこかには引っかかっているのにそこから繋がる記憶がない、そんな感じだろうか。 「……一夜」  一人オレの肩に座る一夜、その名を呼ぶ。 『ええ、続けましょう。  まず、巡 叶は私たちと家族になる「日記」を持っていたわ』  懐中時計『一夜』。  トランプ『月華げっか』  これらに続く三番目の『日記 (名称不明)』、謎の工芸家の作品。 『力は記憶の編集』 「わたしたちは編集されたってわけね?」 『そうね。  先に言った通りに私はかろうじて編集の影響を免れたわ。けどそうとは悟らせずにその場をあとにした。彼女が新たに書き加えた文章通りに。  でなければなにもかも彼女の思い通りに進んだでしょうから』  一夜の説明を聞いて、一つオレの心に疑問が灯った。  しかし、 「それって、もう一度記憶を覗かれたら気づかれるんじゃ?」 同じ疑問を抱いた心魅さんに先を越されてしまう。  いや、良いんだけどね。 『そう。けれど彼女に――叶にその様子はなかった。  つまり叶は自分の意志で記憶を日記に反映できないのではないか? と、思うのね。  心覇が私の同意なしに力を使用できないように。  心魅が月華の同意なしに力を使用できないように』  そっか。  日記が一夜たちの家族と言うことはちゃんとした意識が、心が、魂が宿っているのか。 『そもそも、どうして真名だけでなく私たちの記憶まで編集する必要があったのか、私にはわからないの。  人の気持ちにもっとも聡いのは人。  これから全てを話すから、心覇に心魅、叶の気持ちを察してあげて』

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