S <また、恋をする>
第33話『恐ろしきは……』

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「「――!」」  驚いた。オレと心魅このみさんはそろってケーキ作りの手を止める。  いきなり玄関をとても強くノックされたからだ。  あとロウソクを乗せるだけだったバースデイケーキ。  残念だが、完成をあとにして来客の対応をしなければならないだろう。 「オレが」  出てくるよ、そう言って心魅さんが頷くのを待って玄関へと向かった。  しかし一体誰だろう? オレと心魅さんの付き合いはまだ広まっていないはずだ。おじいちゃんへの来客だろうか?  だが、違った。  頭を悩ませながら玄関に立った瞬間に異様な感覚に包まれたのだ。  え? なにこれ?  月華げっかに、ジョーカーたちにすごく似ているけれど感じる『圧』って言うのかな? それがまるで違う。巨大すぎる。  まさか―― 『心覇このは』 「一夜いちや」  が、飛んできてくれた。 「これって?」 『ええ、間違いないわ』 「心覇くん!」  月華に聞いたのだろう、心魅さんも急ぎ足でやってきた。 「わかる?」 「うん、わたしも感じる。これはきっと――」 「「『スペードのエース』!」」  まさか向こうから訪ねてきてくれるとは。  しかしノックの音が強かったのが気にかかる。誰でも平時なら優しくノックするかインターホンを鳴らすはず。家主に迷惑がかからないようにだ。  けれど玄関扉の向こうにいる『スペードのエース』は一度強く叩いてそれっきり。どう考えても落ち着いているとは思えない。  ドアスコープを覗いてみても映る影はない。どうやら横にずれているらしい。 「……開けるよ」  それでも開けざるをえまい。オレは心魅さんたちが頷くのを確認してから扉を――引き戸をゆっくりと横に滑らせて、開けた。 「……!」  玄関扉の向こうにいたのはオレより頭一つ分大きな男性で。いくらか暖かくなってきた今日この頃であるが男性は白いファーのコート――スカートのように長い――を着こんでいて少しだけ季節感がなく、その顔は端麗。猛禽類を思わす鋭い目元だが感じるモノは威圧ではなく……そうだな、騎士と呼ぶにふさわしいそれ。髪は短髪で黒く、金の板のような飾りが耳近くで一つだけぶら下がっていて、一方で肌は雪のように真っ白だ。血が通っていないのではとすら思わせる。  そんな男性――『スペードのエース』が、拳を強く握りこんでいる。  しかもなにかに苦しめられているかのように表情が曇っていたりして。 『貴方は――心覇だな。  そちらの女性があるじ・心魅で良いか?』  けれども『スペードのエース』ははっきりと言葉を口にした。表情と違い曇りを、震えを見せない声だ。 「うん。わたしが心魅だよ」 『そうか。  まずは新たな主にこれまで顔を見せなかったことを詫びる。申し訳ない』  言って、頭を下げる。  それに対して心魅さんは慌てて、 「良いよ。なにか事情があったんでしょ? 頭上げて」 オレの前に進み出て言葉をかける。  主である心魅さんに言われて素直に頭を上げる、『スペードのエース』。 『事情はあった。しかしそれは主を無視して良い理由にはならない。  加えて言うならば、我は――我にゆるされている以上のことをしでかしてしまった』 「え?」  しでかした。ミスを? 『まことに恐ろしい内容だ。  貴女が主であるゆえに、心魅にはこれより相応の迷惑がかかると思う。  それについても詫びよう。  しかし、もはや我のみでの解決は望めなくなった』 「なにがあったの?」  問われ、少しだけ視線をそらす『スペードのエース』。  が、すぐにまっすぐ心魅さんを見て。 『我は、我の力で一人の女性の延命を図っていた。  出逢いは偶然。  以前の主である心魅の祖母が亡くなられ、貴女の手に我らが納まるまで一時の休息があったのは知っていよう』 「うん」 『その間、我ら月華はそれぞれ世界を見て周っていたのだ。それが終わったものから咲崎さきざきの家に戻り、心魅の手に納まった』  つまりその時に、延命していた女性に逢ったと言うわけか。 『我の犯した罪はまさにその女性に対して。  我は我を偽り、人として接し、その女性を愛してしまった』  ……ほう。 「おやまあ。  でもそれって悪い話じゃないよ」 『愛すだけならば、そうかもしれない。  だが恐ろしきは……子を成してしまった点だ』 「「――!」」

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