「着きました! ここですー!」 次の休日、鳥居家一行と共に野生動物の保護施設に訪れた。思ってたよりもずっと大規模で綺麗な施設だった。 「お父さんが受付けに行ってくれてるので、ここで少し待ちましょう。あ! 施設の案内板がありますよ!」 「結構広いんだね。犬や猫だけじゃなくて、色々な野生動物を扱っているんだ。犬や猫は分かるけど、モモンガとかチンチラとかは、どこでどうやって保護したんだ……?」 「普段見かけない動物なんかは、そのほとんどが元々飼われていた子たちらしいです。家から逃げ出したとか、飼育が出来なくなって捨てられたとか。本当、人間って身勝手ですよね! 飼えなくなるくらいなら初めから無責任に飼おうとしたら駄目なんですよ! 命を飼うということは、そこに責任を伴うということなんです!」 相変わらず、素敵なことを言う時は熱弁するなこの子は。 しかし、たしかに人間とは身勝手な生き物だ。動物を無責任に捨てることも然り。動物にも命があるのだ。感情があるのだ。飼い始めること、それはすなわち家族として迎え入れること。その家族を身勝手な理由で平気で捨てる。そんなやつには俺が神として罰を与えてやりたい。 しかし、今はそれすら出来ないのがもどかしい。 「……その点、この街では殺処分ゼロへの取り組みで、動物を飼うことに対する取り締まりが厳しくなっています。だから、この街ではここ数年、動物を捨てる人がいなくなったし、野生動物の保護活動によって野良犬や野良猫を見かけることが無くなりました。素敵な取り組みですよね!」 「たしかにこの街に来た時から見かけないなとは思ってたけど、そういう取り組みを行っていたんだね。不幸な動物がいなくなるのは良いことだなぁ」 「おーい! 受付けが終わったから中に入るぞー!」 「あ、お父さんが呼んでる。では行きましょうか!」 施設の中を進むと、大きい広場のようなスペースに出た。ここで犬や猫などの動物を放し飼いしているようだ。保護動物とは思えないほど清潔で綺麗な動物ばかりだった。 そして、みんな可愛い。モフモフしたい。 「たくさんいるように見えますけど、これでも少なくなった方らしいですよ! 保護する動物が少なくなってきた上に譲り受けに来る人が増えてきているので、いずれこの施設は必要無くなるかもしれないと施設の方が言っていました!」 この施設の必要性が無くなる時。それはすなわち保護している動物がいなくなるということ。現実的には、人間にエゴが存在限り完全に無くなるというのは難しいと思うが、もし実現すれば社会における良いロールモデルになるだろう。 「神山さん、晴人を見て下さい」 晴人くんに目をやると、近くにいた猫をモフモフしたり、肉球をプニプニしていた。あれれ晴人くん。施設に来ることをあんなに面倒くさがってたのに……? 「晴人、何やってんのぉ?」 「……な、なんだよ! ちょっと手持ち無沙汰だから猫を触ってただけだよ! あっちいけよ!」 可愛いじゃないか、晴人くん。 「凪沙が目を付けてる猫ちゃんってどの子なの?」 「あ、お母さんも知らないんだっけ。茶色の毛で尻尾が長い、すごく可愛い子だよ!」 「でも、茶色の毛で尻尾が長い猫ちゃんなんてたくさんいるじゃない。どの子か分かるの?」 「その子は足の付根部分の毛が白かったから、それで分かると思うけど……、あ! あの子だ!」 凪沙ちゃんの視線の先に一匹の猫がいた。その猫も凪沙ちゃんを見るやいなや、一直線に凪沙ちゃんの元へと駆け寄っていった。 「あら! その猫ちゃんも凪沙のことが分かるのね!」 「わー! また会えたー! 可愛いー! ほら、晴人もこっちにきて近くで見てみたら?」 いろんな猫の肉球をプニプニしていた晴人くんは、その猫たちが名残惜しいといわんばかりの顔をしながら凪沙ちゃんの所へ向かった。 「凪沙! 本当にこの子でいいんだな?」 「うん、お父さん! 晴人もこの子でいいわよね?」 「別に俺はどれでもいいよ」 そんなことを言っているくせに、たぶん晴人くんはこの猫をモフモフするし、肉球をプニプニするだろう。いつかからかってやろう……。 「名前はもう決めてるの?」 「よくぞ聞いてくれました、神山さん! この子の名前は既に決めてあります。この子の名前は……、「すき焼き」です!」 凪沙ちゃんは絶望的にネーミングセンスが無かった。
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