葉桜の下
嘘はついてない。
朝になり、会社に向かう通勤快速の中で、近いうち飲もう、と恭子に連絡した。しかし会社に着いても返信がなかったので、もしかして昨日のアレは社交辞令か、その場のノリ程度だったのかと落ち込んだ。僕だけテンション上がって、バカみたいだと思われただろうか。
仕事が生きがいというわけでもなく、家に帰ってもあの嫁がだらしなく寝そべっているだけ。可愛いはずの娘も昨日のアレでなんだか他人のような気がしてしまって、いけないことと分かっていてもつい恭子のことを考えてしまう。
そんな鬱々とした気分でただ機械のように仕事をこなす時間も、家にいる時間よりマシだと思う僕は、自分で思っているより末期なのかもしれないとも、ふと、考える。
「お」
給湯室でコーヒーを入れながらスマホを見ていたら、通知のポップアップが表示された。恭子からだ。文字通り、心が躍った。思わず砂糖を入れ忘れてコーヒーを口に運び、熱さと苦さに顔をしかめたが、すぐに頬が緩んでしまう。来週あたりと言っていたのに今夜とは、体まで踊りだしそうなくらいだ。嫁にILNEしなければ。
{ごめん、今日は遅くなる)
{どうしたの?)
{プチ同窓会。地元のやつが戻ってきたって)
地元のやつが戻ってきたのは本当だし、嘘はついてない。
{会食しないでって言ってるのに)
出たよ、はいはい感染症対策。
{高校以来なんだよ、頼む)
{じゃあお酒飲まないこと)
{わかったよ)
{あと10日間マスクね、家の中)
{わかった)
ゴネてもいいこと無いので、のめる条件は余裕でのむ。
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