木蓮ひらり
あの日 1

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 あたしたちは、だだっ広い北海道から生まれ育った小さな温泉町に帰ってきた。  バスの車窓から旅館や土産物屋の建物と源湯から立ちのぼる湯けむりが見える。見慣れていた風景が少しだけ懐かしく思えた。  あたしと木蓮の家は学校よりも手前だから、途中でバスを降ろしてもらった。あたしの家と木蓮の家は降りたバス停からは反対方向だ。 「トモ、これ友紀さんと一緒に食べて」  そう言って木蓮はあたしにホワイトチョコレートの箱を渡した。 「気ぃ使っちゃって」 「お母さんにも電話で言われてたの。友紀さんちへのおみやげ買ってきなさいって」 「そう……じゃあ、遠慮なく」 「荷物増えちゃってごめんね」 「いいよそんなの。それより杉本くんへのおみやげはいつ渡すの?」 「うーん、どうしよう。あ、トモが三田くんに会うときに預けてもらえない?」  そう言って木蓮がバッグの中を探りだしたから、あたしは慌てた。 「だめだめ!自分で渡さなきゃ」 「わざわざそのために出てきてもらうの、悪いよ」 「そんなこと言ったら、あたしだってヒデちゃんにおみやげ渡せないよ」 「……トモと三田くんは、違うでしょう?」 「……違わないよ」  木蓮はきょとんとした顔をしている。 「違わないんだよ」  あたしは念を押した。 「だからさ、一緒に渡そうよ……」  急に恥ずかしくなってきて、あたしの声は途中から小さくなった。ちょっと驚いたような顔をしていた木蓮が、柔らかく微笑んだ。 「うん。じゃあ一緒に渡そう」  木蓮の笑顔につられて、あたしの頬も緩んだ。  こころが少し、軽くなった。  

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