木蓮ひらり
ブルームーン 4

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 あたしは木蓮の食事が終わるのを待って言った。 「旅行の写真、フォトブックにしたの。見に来ない?」 「見たい。お母さん、いい?」  木蓮が聡子さんを振り返ると、聡子さんは「六時には帰るからね」と言った。  あたしは奥のドアを開けて狭い階段を上った。木蓮が後に続く。 「足、大丈夫?」  木蓮は「平気」と答える。  木蓮は「平気」って言うに決まっているし、木蓮の「平気」が信用できないことはわかっているけれど、やっぱりあたしは訊いてしまう。  木蓮は顔をしかめることもなくスムーズに階段を上りきった。  あたしの部屋はほぼ南向きだけれど、僅かに西日が差し込む。窓を開けてカーテンを閉めて、木蓮にフォトブックを手渡した。  木蓮は、わあ、とため息のような声を漏らした。表紙の「パッチワークの丘」を少し眺めてから、ゆっくりとページを捲ってゆく。 「ガラス細工のお店、素敵だったね」 「うん」 「三田くん、おみやげ喜んでたでしょう」 「……どうかな」 「S市に行ってたんでしょう?」  ママに聞いたんだろうな。あたしは「うん」とだけ答えて後は黙って写真に目を落としていた。  木蓮もそれ以上は何も言わずに紙面のガラス工芸館のショットを見つめている。  写真の上で揺れる日の光をしばらく眺めて、とうとうあたしは沈黙に負けて突っ伏した。 「もうだめだー」 「どうしたの?」 「全然、脈無し。死亡しました」 「……告白したの?」 「してないけど……」  あたしはヒデちゃんちの事情と、ヒデちゃんが今恋愛に関心がないということを話した。 「これから関心を持つかも知れないよ」  木蓮はそう言ってくれたけれど、あたしは「そうだね」と返す気持ちにはなれずに黙ってうつむいていた。 「この前、おみやげ渡しに行ったとき、短い時間だったけど楽しかったじゃない。あんな風に時々会って話したりしていたら、気持ちが変わるかも」  さりげなく会う機会を増やしたらなるようになっていくと思う。  今日のヒデちゃんのお言葉だ。  会う機会を作ることに関しては、今までだって努力してきたんだけどな。  一見チャラい感じのヒデちゃんとオクテそのものの木蓮が同じようなことを言っているのが、何だかおかしかった。 「……私、トモはすぐに告白するだろうと思ってた」  木蓮は意外そうに呟いた。  確かにあたしはもともと猪突猛進型で、保育園の頃から好きな男の子ができると追いかけ回して、手紙もバレンタインのチョコレートも躊躇なく渡していた。  中学のときに憧れていた先輩のことも、部活の試合の応援に行ったり、差し入れをしたりして追いかけた。  あるとき先輩があたしのことを友だちにからかわれた。そのときに先輩が「ちょっとうざいかも」って言ったのが聞こえた。  あたしの友だちは「照れだよ」って言って慰めてくれたけれど、やっぱり落ち込んで、先輩を追いかけるのはやめた。  木蓮を追いかけ回す加藤が痛々しく見えたのも、そういうことがあったからだと思う。  もうあんな想いはしたくないと思っているのに性格は簡単には変えられなくて、気がつくとまた好きなひとを追いかけている。  だけど告白する勇気は湧いてこなくて、宙ぶらりんのまま十ヶ月も経ってしまった。  あたしは胸に浮かんだいろいろな想いは口に出さずに、ただ「あたしも成長してるもん……」とだけ答えた。  夕日の眩しさが弱まった頃、階下から木蓮を呼ぶ声が聞こえた。  木蓮と聡子さんを見送ってから、ママと一緒にいつものように店でごはんを食べた。  ママはまた「デートどうだった?」って訊いてきて、あたしはまた「デートじゃないもん」って答えた。  後片付けをしてひとりで二階へ上がると、月が出ていた。  リビングの何もかもが青く染まって見えて、さびしい。  あたしは部屋の明かりとテレビを点けて、床にごろんと転がった、

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