木蓮ひらり
蕾 4

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 せっかくの日曜日なのに、曖昧な空模様だ。午前中は薄く曇って、お昼過ぎには降り出した。  夕方、雨が止んだから、あたしはコンビニへ出かけた。  そこで雑誌のコーナーを見ているときに、木蓮がふわりと現れたのだった。  目が合うと木蓮は微笑んで、あたしたちはどちらからともなく近づいた。 「今、帰り?」 「うん」 「雨、大丈夫だった?」 「傘、持ってたから」 「帰りは止んで良かったね」 「また降ってるよ」 「ほんと?」  外を見ると、薄く西日が差した空に細かな雨粒がちらちらと光っている。 「傘、持って来なかった。もう降らないと思って」  あたしがそう言うと、木蓮は「うちに来る?」と言った。  コンビニからはうちよりも木蓮の家の方がだいぶ近い。あたしは木蓮の家に寄って傘を借りることにした。  雑誌とお菓子を買って店を出る。あたしたちは相合い傘でムーランルージュを目指して歩いた。  木蓮の家は歓楽街の西側、あたしの家は東側にある。その間には飲食店や土産物屋や旅館などが立ち並んでいる。大きなホテル旅館を見上げるといくつかの客室に明かりが灯っていた。 「宿泊客、あんまり入っていないみたいね」 「この時期はね」  あたしたちは母親の真似をして呟く。  梅雨入りしてから夏が終わるまで、この町から湯治客の足は遠のく。旅館の客の入りがあたしたちの生活に結びついていることは大人たちの言葉の端々から伝わってくるけれど、正直に言うと実感はなかった。  木蓮の表情にも不安の色は見えない。  木蓮の口元は微かに笑みを浮かべていて、雲間から漏れる光がその輪郭に柔らかな陰影を作っていた。 「今日、楽しかった?」  あたしは気になっていたことを尋ねた。 「うん」  木蓮は頷いた。 「トモの言ったとおり、なんにも心配することなかった」  木蓮の笑顔は香るように広がって、あたしもつられて微笑んだ。

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