木蓮ひらり
蕾 2

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 中庭の花壇の縁にみんな並んで腰掛けると、あたしはエリナに訊いた。 「どこで聞いたの、その話」 「さっきここで園芸部の子たちが話してた」  エリナは好奇心に目を輝かせ、木蓮は憔悴しきった様子でうつむいている。 「木蓮、本当なの?」  木蓮は黙って頷いた。 「杉本くんでしょう?メールで誘われたの?」 「……会ったの。土曜日に、植物園の前で」  杉本くんはS高科学部の部員たちと科学館に向かうところだったようだ。  園芸部の仲間たちと一緒に植物園に入ろうとしていた木蓮は、杉本くんに気がついて会釈した。  それから約二時間後、木蓮たちが見学を終えてバス停へ向かって歩いているときに、杉本くんが追って来た。  木蓮は気づいて立ち止まり、園芸部の子たちは気を利かせたつもりなのか、先に行ってしまった。  走ってきた杉本くんは息を切らしながら言った。 「……今度、二人で、どっか行こう……」 「驚いて、ぽかんとしちゃって……杉本くんの友だちが遠くから呼んでるのが聞こえたし、あたしたちが乗るバスが近づいて来るのも見えたし……なんだか焦って『はい』って答えちゃって……」  木蓮は泣きそうな顔をしている。 「……それで?」 「メールするからって言われて、ほんとにゆうべメールが来て」 「なんて?」 「驚かせてごめんって……それから今度の日曜日の都合を訊かれて……」 「なんて返事したの?」 「……返事、してない……」  木蓮の声は掠れて消えてしまいそうだ。 「行きたくないのー?」  サエがのんびりした調子で尋ねる。木蓮はうなだれているばかりだ。 「……何が心配なの?」  あたしは木蓮に問いかけた。 「……男の子と二人だけって……」  木蓮はそれだけ言って、黙り込んでしまった。 「杉本って、あの真面目そうなひとでしょ?だいじょぶだいじょぶ!だいたい『はい』って言っちゃったんだから行くしかないじゃん」 「……うん……」  あくまでもエリナは明るく、木蓮は煮え切らない様子だ。  木蓮は怯えている。  新しい世界が開かれることに戸惑っている。  新たな扉を開くときに期待に胸が高鳴るひとばかりじゃない。  不安で足が竦んでしまうひともいる。  木蓮の心の殻は何故だかとても固くて、容易には破れない。  今その殻を、杉本くんが外側からノックしている。  あたしは木蓮の心を解きほぐそうと言葉を探した。 「杉本くん、いいひとだと思うよ。木蓮が心配するようなこと、何もないよ」  木蓮が顔を上げた。すがるような目をしている。 「それにいくら焦るタイミングでも誘われた相手に好意を持っていなかったら、木蓮は『はい』って言わないはずだよ」  木蓮の瞳から困惑の色が少し薄れた。 「そうだよねえ」と、サエがあたしの言葉を後押ししてくれる。 「……そうかな」  木蓮は自分に問いかけるように呟く。 「そうだよ」 「そうそう」 「確かめておいでよ、自分の気持ち」  あたしとサエとエリナの言葉に、木蓮は伏し目がちになりながらも小さく頷いた。  

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