幻想地球系の旅人たち
レグルス/琥珀

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「行方知れずじゃなくて、行方知らず、だって」  旅人が持つのはレグルスの祝福。求めるのは、どこかにあるという噂の書架。 「何が違うんだって感じだよね? 行方知れずと、行方知らず。早く、時計を止めないといけないんだけど……」  自棄気味の乾いた笑みを浮かべ、なみなみと注いだ果実酒を一気に呷ると、旅人は空へと向かって声を張る。 「ぜんっぜん! 見つからない!」  叫んで大きく開いた口の中には、濃い蜜色をした、琥珀の牙。  しばらく天を睨み、祝福の星が宿る星座、獅子のように、小さく低い唸りを漏らしてから、旅人は視線を酒杯へと戻す。 「まあ、そう簡単には見つからないだろうとはね、思ってたんだけど」  参ったよ、と吐息を零した。 「ほんとに誰も『知らず』でさ。渡り鳥も、天青石の連中も、それこそ『風の噂』でさえ行方は聞かないって」  行方知らずの閉架書庫。あらゆる『未知』が収まる、という、知識の宝物殿。  それを探して、琥珀の牙持つこの旅人は、旅に出たという。 「……見つかるなら、べつに『行方不明』のお仲間にされたって構わないんだけどさ。……早く、止めないといけないんだよね」  狂った時を刻み続ける、とろりとした黄金色の懐中時計。琥珀の中に封じられた文字盤は、ねじれ歪み、針はあらぬ位置を指して、進んでいるようにも、戻っているようにも、あるいは、止まっているようにも見える。  旅人の手の中で、それは淡々と時を数え、かすかな音を刻んでいた。  これを止める術を求めて、書庫を探しているのだそうだ。  時を留め、封じ、語り継ぐ、伝承の神の一柱に連なるもの。琥珀の黄金時計はその神ゆかりの品、狂い続ければ何かしらの悪影響が出る。  琥珀の民にまつわる、そんな話をいくつか語って、夜も深まった頃、旅人はふと、問いを口にした。 「あ、そうだ。月長石の旅人って心当たりない?」  訪れる旅人は数知れず、しかしまた、未だ行き会わぬ旅人も多い。 「ちょっと、ね」  ゆるりと首を傾げた旅人は、星々が瞬きだした空に目を細める。  己の宿した祝福か……件の旅人に関係する星にか。束の間、聖句を唱えるように短く瞑目して、穏やかに笑う。 「因縁のある相手でさ。……この先どこかで見かけたら、よろしく。『いいから、行きな』って言っておいてくれると、ありがたいかな」  星の下、旅人たちはそれぞれの道の上で、今日もまたそれぞれの夜を、越えていく。

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