幻想地球系の旅人たち
シリウス/血星石

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 暮れかけた淡い藍色の空を渡って、沈みつつある夕日の赤色を写した羽が、風を纏っていた。 「やあ、助かった。一晩いいかな?」  深い緑の地色に赤を散らしたはねは、揚羽蝶を思わせる形状。長さのある、ほっそりとした見た目に反して、その四つ羽は吹き抜ける風を造作なく捉え、軽やかに羽ばたく。 「大晶洞で足止めを食らってね、宿をどうしようかと思ってたんだ。……いや、ちょっと紅水晶には縁があるから、挨拶に顔出ししただけ。まあ、旅の息抜きかな」  星雲にも似た、血星石の羽を持った旅人は、そうして今夜の語り部となった。  宿した祝福はシリウス、宵の空に瞬き始めた一番星。 「捜し物というか……尋ね人というか、ね」  蒼く輝いた天の星を示してから、つと表現を思慮するように、赤い星の煌めくその羽を揺らし、旅人は言葉を紡ぎ始める。 「求めているのは、とある竜が抱いた恋。これがまた意地っ張りで……まったく、手間をかけさせてくれるよ」  下手に意地を張ったばかりに、いくつも重ねた思慕がもつれ、縒り合わさった糸のような、頑なな塊になってしまったのだという。絡まってしまった絆を解くためには、どうしても、その竜の恋心が要るらしい。 「――さっさと屈してしまえば良かったのに」  誰も彼もが、話をややこしくしてくれる――そう嘆いた旅人は、ひとつかぶりをふって肩を竦めた。 「仕方ないから、追うけどね。天の星と地の星と、風を渡る羽に、猟犬の星まで宿して、これで獲物に逃げられたら、こっちが天狼の牙に灼かれてしまうし」  地の星、背に負った血星石をひと撫でして、天に座す祝福の星をそのまま映したような、清冽な威圧を覗かせた目が笑う。  絡んでしまった絆には多分、この旅人の想いも引っかかっているのだろう。  数限りない星の下、幾つもの思いが、幾つもの旅路を辿ってゆく。

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