鬼ガール!! ツノは出るけど女優めざしますっ!
2 ドキドキ……桜の木の下で!?(1)

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 あれは小学三年生くらいのころのことだ。  あたしのお父さんは山で整体医院を開いているんだけど、週に一度か二度、街まで下りての往診をする。あたしもそれにくっついて、街に行くことがあった。  あるとき、お父さんの仕事が終わるのを公園で待っていると、同級生くらいの子たちが大縄飛びで遊んでいるのが見えた。  ――郵便屋さん、お入んなさい♪ いーちまい、にーまい、さーんまい、よーんまい、  大きな縄をぐるぐる回して、その輪のなかに、順に一人ずつ入っていく。  あたしの通っていた山の小学校には、全校生徒が十数人しかおらず、同学年なんてあたし一人だ。だから同い年の子たちが大勢で遊ぶ姿が、まぶしかった。  ええなあ、とながめていると、一人の男子が、こちらに近づいてきた。 「山から来たのか? なあ、お前もいっしょに入れよ」  ぶっきらぼうに声をかけてきたのは、つり目で目つきの悪い男子だった。 「え、や、でも、あたし、やったことない」 「いいからやろうぜ。来いよ」 「うん!」  友だちができた! あたしはよろこびいさんで大縄飛びにまぜてもらった。  ――郵便屋さん、お入んなさい♪ 郵便屋さん、お入んなさい♪  「ご、ごめん!」  だけど、何度大縄飛びに入ろうとしても、あたしは縄に引っかかってしまった。  みんなと動きをあわせようと思うのに、どうしてもテンポがあわない。あせればあせるほどよけいに引っかかってしまう。  しだいに、みんながいらだっていく空気を感じた。  どこからか「チッ」という舌打ちが聞こえてきて、だれかが大きくため息をついた。 「もういいじゃん、ほっときなよ、そんな子。どうせ山に帰っちゃうんでしょ」  キメラだかコアラだか、やけに変わった名前の女の子が、あきれたように言った。  くやしくて、唇をかんだ。  あたしが、みんなとちがうから。山から来たから――、鬼の子だから――、跳べない。  顔をあげられずにうつむきながら、あたしは今にも泣きそうだった。そのとき、だれかがぼそっとつぶやいた。 「みんなより、動きが速すぎるんだよ。もっとゆっくりでいいから」  あたしを誘った、つり目の男子だった。 「もう一度やってみろよ」 「……うん!」  うれしくなって顔をあげると、みんなの顔が一瞬でかたまった。つり目の男子があたしの天然パーマの頭を指さした。 「鬼だ!」  あわててたしかめると、くるくるした巻き毛のなかから小さなツノが二つ、ちょこんと突きでていた。 「ちゃ、ちゃがう! 鬼やない!」 「ちゃがう? いや、それ明らかにツノだろ」  あとのことはもう思いだしたくもない。  みんなに笑われ、キモがられ、鬼のくせにとはやしたてられ、あたしは逃げるようにその場を去った。  はじめは親切だと思ったつり目の男子は、それから街であたしをみつけては、頭を無理矢理さわったり、ツノを出せとからかったりしてきた。  あるとき金剛寺に呼びだされたけど、もちろん行くわけはなかった。だれが好きこのんでいじめられに行くっていうの?  あたしはすっかり人が嫌になって、街に行かなくなった。  それでもここ最近はおしゃれに興味を持つようになって、街へ買い物に行くことがふえた。人並みの青春にあこがれるあたしなんだけど、小中学生の頃、街に行かなかったせいか、おしゃれに出おくれている。  それもこれも、あいつのせいだ!  あたしは自転車をこぎながらつぶやいた。  あのデリカシーゼロのつり目バカのせいだ! あのつり目バカめ! つり目バカめ!  怒りの鬼こぎをしていると、いつの間にか、自転車は緑豊かな山を抜けていたようだ。  気づけばそこには、あたしの怒りをふきとばすような、きれいな光景が広がっていた。 「すごーい! うそみたい!」  桜――。小高い丘からまっすくのびた道に、どこまでも桜が咲きほこっていた。 「めっちゃ、きれいな……、桜」  ピンクの雲みたいに広がる桜が、さっきまで怒っていたあたしの心を、やさしくほどいていった。  満開の桜はまるで、あたしの高校生活の始まりを、祝ってくれているみたいだ。  左右から枝をのばした桜のアーチに抱かれるように、あたしは上機嫌でその道を進んだ。 「速っ! すげえ! あの姉ちゃん!」 「鬼っ速やんけ!」 「つーか、あの姉ちゃん、鬼じゃね?」  すれちがった小学生たちの会話が聞こえてきた。  ツノが出ているときのあたしの聴力は、通常の人間の三倍くらいあるのだ。 「ヤッバ! わすれてた!」  あたしってば、ツノ出したままだ!  気づけばここはもう街で、あと少しで高校に着いてしまう。 「お、鬼なんかじゃない! 普通の女子高生だよ!」  あわててツノを引っこめようとしたが、うまくいかなかった。 「……ダメだ。お父さんのトラ柄パンツのこと考えよ。……お父さんのトラ柄パンツ……お父さんのトラ柄パンツ……お父さんのトラ柄パンツ……。んー、ダメだ。じゃあ、こっちだ。お父さんの花柄パンツ、お父さんの花柄パンツ、お父さんの花柄パンツ……」  目を細めてお父さんが花柄パンツをはいている姿を想像すると、二本のツノが、しゅるるるん、とおさまっていった。 「これでよしっと……、って、ぎゃああああああああああ!」  目の前に大きな桜の木があった。  ブレーキを思い切りかけてハンドルをかたむけたけど、間にあわなかった。  どんがらがっしゃーん、という感じに、桜の木に激突したあたしは、そのまま十数秒、気を失ってしまった。

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