居待ち月
15,掃除と思いがけない発見と朔の震える拳

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 望とは話しやすくて、すぐに打ち解けた。朔は無口だし、あまり部屋から出て来ないので、まだ数えるほどしか口を利いていないが、悪い人ではないことは、なんとなくわかった。  特に難しい仕事はないし、望がわかりやすく指示してくれるので、戸惑うこともない。一緒にお昼を食べながら話すのも楽しいし、望のような友達が学校にいたら、ドロップアウトすることもなかったのではないかと思う。      その日の午前中、陽太は二階の掃除をしていた。それぞれの部屋と廊下に掃除機をかけるように言われたのだが、朔がまだ部屋から出て来ないので、そこを後回しにして、まずは望の部屋を、次に空き部屋を掃除して、最後に北側にある部屋のドアを開けた。  そこは物置に使っているようで、スーツケースや衣装ケースなどが所狭しと置かれている。とりあえず、床の空いている部分に掃除機をかけようと思い、掃除機のホースを引きながら、中に入った。  ふと、物がたくさん詰め込まれ、閉まり切っていない大きな段ボール箱が目に入ったので、何気なく中を見る。そこに入っていたのは、様々な画材とスケッチブックと、絵が入っているいくつかの額、それに、何冊かの、一人のイラストレーターの画集。    陽太は、掃除機のホースを離し、画集の中の一冊を手に取った。それは、陽太も買って持っているもので、大好きなイラストレーターの作品集だ。  儚げな女性と、美しい月が特徴的な透明感のある画風で、たしか陽太が小学生の頃に、人気小説家の本の表紙を描いてブレイクしたのだった。イラストレーターはプロフィールを一切明かしておらず、素顔は謎に包まれていて、性別さえ定かでないのだが、有名人の中にもファンは多く、雑誌などで特集が組まれると、売り上げが伸びるらしい。  そのイラストレーターの名前は……。    そのとき、突然後ろで声がした。 「何してる」  はっとして振り向くと、パジャマのままの朔が立っていた。 「掃除をしようと。あの、朔さん、これ……」  イラストレーターの名前は、SAKU.K。 なんということだ。陽太は、画集を掲げて言う。 「朔さん、もしかして、これって朔さんなんですか? 僕、大ファンで」  今の今まで、朔がSAKU.Kだなどとは考えもしなかった。彼がSAKU.Kならば、こんな豪邸を持っていても不思議はない。  あのSAKU.Kが、こんなに近くにいたなんて!    だが、興奮している陽太につかつかと近寄って来ると、朔は陽太の手から画集を奪い取り、床に投げ捨てた。 「何するんですか!」  画集を拾おうとすると、朔が陽太の体を押しのけて言った。 「勝手なことをするな」 「でも」 「いいから出て行け」  朔の顔は青ざめ、握りしめた拳がぶるぶると震えている。 「すいません……」  掃除機のホースをつかむと、陽太は逃げるように部屋から出た。

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