離れずに傍にいて
第二章 中学生時代・7

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 ピッピッとバイタルサインが表示される機械。人工呼吸器と尿取りの管、そして点滴……痛々しい姿で祖母はベッドの上に横たわっている。身内以外は立ち入り禁止の集中治療室には、夏海なつみがぽつんと椅子に座って祖母の顔を眺めていた。  祖母の病名は『脳静脈洞のうじようみやくどう血栓症(慢性型)による脳内出血』らしい。  脳神経外科医の話では脳の大静脈に血栓が詰まり、流れてくる血液を受け止められず出血したということだ。慢性型なので、かなり長い時間――しかも数年レベルで――頭痛がしていたのではないかとのことだった。脳内の出血量が多く浮腫もこのまま続けば、最悪のことを覚悟してくださいと宣告されてしまった。いまはただ、祈ることしか出来ないのだ。  洋一よういちは娘に向かって 「腹が減っただろう。コンビニでサンドイッチでも買ってくる」  と言い残して一時席を外した。  食事の間は付き添っているというので外に出て、談話室で味が判らない食事を終えた。食欲はまったくなかったが、ひと切れを無理矢理に食べたら吐きそうになった。残ったふたきれのサンドイッチを洋一に渡すと、彼は無言で受け取り 「会社に戻る」  と言い残し病院を出て行ってしまった。  それが午後八時過ぎのことだった。  夏海は知らなかったが、その時間帯はちょうどロンドン市場の動きが活発になる頃だった。相変わらずの仕事バカぶりに、もう文句を言う気力も湧かない。一応親らしく、コンビニで食べ物を買ってきてくれただけでも良しと思わねばならない。母親など、顔も見せていない。もしかしたら倒れたという連絡すら届いていないのではないか。  この深夜の時間帯は、ロンドン市場とニューヨーク市場の動きが重なり、最も活気を帯びる。洋一は意識が回復するのはまだ先だと判断して、仕事に戻ってしまったのだ。 (もし万が一、おばあちゃんの意識がこのまま戻らなかったら……)  考えたくないのにどんどん悪い方へと思考は飛び、慌ただしく他の患者の様子を見に来る看護師に顔色の悪さを指摘されてしまうほどだ。 「ねぇ……安西あんざいさんのご家族って、あの女の子だけ? さっきまで男の人いたよね? それにご両親らしき人もいなかったっけ」 「救急車で一緒に来た人たちは、近所のご家族だそうよ。で、ちょっとだけ顔を出してすぐ帰った、いかにもエリート! な雰囲気の人が患者の息子さんらしいわよ」 「え……じゃあ、お孫さんが付き添っているの? いくら今が春休みとはいっても女の子が一人で、病院ここで夜を明かすなんて……」  ナースステーションで仕事の合間にそんな会話が交わされているとも知らず、夏海は点滴の入っていない祖母の手を握り、押し寄せる不安と恐怖を何とか静めようと孤独な戦いをする。

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