離れずに傍にいて
第三章 高校時代・14

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

「カットォ! いいよいいよ、最後の表情すっげー良かった!」  新入部員勧誘のための自主製作映画、その最後のワンシーンを撮り終えた映画研究会会長の七瀬。助監督兼副部長の翔太は、どうにか間に合ったことに胸を撫で下ろした。これから大急ぎで編集し、明日から始まる部活勧誘週間で上映できる。 「なかなか良かったじゃない、七瀬くん」 「マジっすか? いやあ内河先輩に誉められるなんて、光栄っす」  先月卒業したばかりで、今回の映画の脚本を書いた内河杏奈が嬉しそうに目を細めながら、手を叩いている。四月から演出家になるための専門学校へ通い出した彼女だが、まだ本格的に講義は始まっていないし自分が残した脚本がどう映像化されるのか気になって、ちょくちょく撮影に顔を出していた。  才色兼備な杏奈は映研のマドンナで、女優として表舞台に立ってほしいと懇願されたが、裏方に徹し続けた。他の女子からの、嫉妬を買わない自衛手段だと本人は笑っていたが、それは冗談ではないのだろう。 (相変わらず綺麗だなぁ……)  メイクをしたら更に魅力的になった杏奈に見惚れていると、視線を感じたのかチラッと彼女がこちらを見た。顔は動かさずに視線だけこちらに向けられたが、目が合うと彼女は微笑んだ。その微笑が何ともいえず艶っぽくて、思わずドキリとする。顔が赤くなるのを悟られないよう慌てて逸らすが、杏奈の視線が翔太の横顔に注がれているのを感じる。 (な、なにを動揺しているんだよ……夏海が好きなんだろ、俺は)  内心の動揺を必死で押し隠し、翔太は気付かれないよう小さく息を吐いた。 「よーし撤収だ。今度の日曜は、打ち上げを兼ねた花見をするぞー。内河先輩も来てくださいよ」 「いいの? 七瀬くん」 「ぜひぜひ。内河先輩はこの作品の、陰の監督っす」 「まぁ。調子のいいこと言って。でも嬉しいわ、参加させてもらうね」  七瀬と杏奈の会話がはずむ中、翔太は他の会員と共に機材の撤収にかかる。これから大急ぎで編集作業を行い、新入部員勧誘上映会に、間に合わせなければいけない。 「翔太、お前は何てラッキーな奴なんだ。何と内河先輩が編集手伝ってくれるってよ」 「え、いいんですか先輩」 「いいのよ。この作品は、わたしの最後の作品だから……見届けたいの」 「じゃあ早速ですけれど、部室の方で編集作業をしますから」 「ええ」  七瀬と翔太、そして脚本を担当した杏奈の三人は撤収作業を他の部員に任せると、部室に戻る。同好会とはいえ映画研究会の待遇は、正式な部と殆ど変わりはない。同好会には珍しく独立した部室を持つ映画研究会は、日当たりこそ悪い北側のクラブ棟内にあるが、広さは中々のものである。  プロではないのでCG処理など、そういった本格的な作業はないが、一時間十五分という上映時間内に収めねばならず、ストーリーを円滑に進めるためにバッサリとシーンを切らねばならないことも多々ある。編集作業は何だかんだと時間がかかり、終わったのは夜の七時を過ぎていた。 「すっかり遅くなってすみません。先輩、ありがとうございました」  七瀬が申し訳なさそうに頭を下げ、翔太も編集済みのデータを仕舞い込んでから、頭を下げた。 「いいの、久しぶりに映画に携われて、楽しかった」  屈託なく笑う杏奈につられ、笑みを返す。機材が揃っているかを確認し、部室を出る。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません