離れずに傍にいて
第三章 高校時代・13

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 高遠から、ホワイトデーに何気なく付き合って欲しいと言われ、未だに返事を保留している夏海。部活で顔を会わせても、がっついていない哲也は涼しげな笑みを浮かべ、いつもと変わらない態度で夏海に接している。 (嫌いじゃない、嫌いじゃないけど……)  子供の頃から親の愛情を受けて育たなかった夏海は、どこか愛し愛されるということに抵抗を感じている。祖父母から愛情を注いでもらったとはいえ、中学時代から今も続く両親との冷たい関係は対人スキルにも悪影響を与えている。  素直に人に甘えたりすることができないのだ、夏海は。翔太に対してはそんなことはないのだが、それは幼い頃からずっと一緒にいて事情も性分も互いに熟知しているからだと考えている。 「もう一ヶ月も返事を待たせてるなんて。早く返事しないと愛想を尽かされるよ?」  いい加減にしなさいよと芳樹を窓辺から引っぺがした後、菜々美は素早く囁いてきた。今度の野点会で返事しなさいよと菜々美に言われ、迫力に負けた夏海はつい頷く。 「おい何だよさっきから。二人で内緒話か?」 「女同士の秘密。男子禁制」 「なんだそりゃ」  口を尖らせるも芳樹はしつこい性格ではないため、あっさりと引き下がった。 「ところで野点会は二人とも和服?」 「残念でした、本格的じゃないって言ったでしょ? 制服」 「えー味気ないなぁ、せっかくだから和服ってのもありかと思ったのに」  基本的に夏海は芳樹と菜々美の会話の邪魔をしない。自分なりに気を遣っているつもりだが、二人にはもっと会話に参加してよと呆れられてしまう。 「櫛田君は濃茶も平気?」 「あんまり得意じゃないかも……でも茶菓子のためなら、我慢する」 「何それ。やっぱり櫛田は花より団子?」 「当然。市原も安西もいるなら、見上げなくてもすむ花を見るのも、悪くないな」 「あら嬉しい。桜よりも私たち?」 「そうやって機嫌とっても、お茶とお菓子以外に何も出ないよ、櫛田」  そこで三人ははじけるように笑った。 「じゃあ今度の日曜、午前十時に校庭の桜の下で。参加自由だから、他の男子も連れてきてね」  夏海の声にOKとばかり片手を挙げ、急いで自分の席に戻る。チャイムが鳴り担任が同時に教室に入ってきたからだ。窓際に席がある夏海と菜々美は、担任の鋭い視線が飛ぶ前に、ちゃっかり着席している。かったるい時間が流れる中、ぼんやりと意識は別の事へと飛ぶ。 (高遠部長か……)  確かに素敵だとは思う。 (先輩後輩の関係から一歩踏み込んだ関係になれば、自分の恋愛下手も少しは改善されるのかも)  ふと意識を現実に戻すと、クラス委員選考の話が出ている。正直自分以外の者がなるなら問題ないと考える夏海は、高遠の顔を思い浮かべながら時を過ごしていた。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません