パピヨン
第十五話
狭隘を割り開いて、侵食してくるハルの熱が、ユカの中でドクドクと脈打つ。入り込んで来る、異物の感覚に必死に耐えながら、ユカがハルの首に縋りつく。ハルの吐息を飲み込む音が、ユカの耳元を掠める。 ハルが、ユカに、何かを言った。けれどハルの声は、ユカの耳には遠すぎた。聞こえない言葉がもどかしくて、入り込む熱さがいっぱいすぎて、ぽろぽろと涙が零れた。噛み締めた歯の隙間から押し出すように「痛い」と言葉が漏れて、ハルの髪を掴んだ。どうにかして痛さから逃げ出したくて、その方法を熱くなった頭の中で懸命に考えていた。 「ハル、……ハ、ル」 呼びかけは、ハルに届いたんだろうか。 ―― この傷は、ママが、……ママが私を、切り裂いたんだよ ―― 何もかもを言ってしまえば、楽になれるような気がして、ユカは心の中で何度も繰り返した。けれどそれが声になったのかどうか、ユカにはわからなかった。 心臓が千切れてしまいそうな鼓動が、ハルのモノなのか、自分のモノなのか、それすらわからなかった。互いの逸る鼓動が、絡まり合っていく。壊れ物を抱くように、緩やかにユカを導くハルの愛撫に、身体が溶けていく。貫かれているはずの身体が、甘い疼きのなかで、静かに昂りつめていく。 逸る鼓動のさざめく音が、意識が飛び立つ羽ばたきのように、ユカの耳に谺していた。
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