静かな住宅街を抜けると、片道三車線の広い道にでる。その道沿いに建つディスカウントショップに、ハルが入っていく。自動ドアの内側は寒いくらいの冷房で、別世界のようだった。 色んなものが乱雑に、所狭しと並べられている。こんなに沢山の中から、必要なものを探し出すなんてしたことがないユカが、目をパチクリさせながら辺りを見渡す。 「ここで待ってろ。勝手に動くなよ」 そう言われて、コクコクと頷く。 目が回りそうで、ユカは二階に続く階段に、ぺたんと座り込む。座ったら少しだけ、周りが見えた。商品のひとつひとつに掲げられる文字が、賑やかに踊っている。何もかもが、まるでユカに「買って! 買って!」と、せがんでいるようだった。 中でもひときわ明るい、入り口近くの化粧品のコーナーに、セーラー服姿の女の子がいた。真剣な眼差しで何かを選んでいた少女が、ようやく決めたらしい小瓶を手に、嬉しそうにカウンターへと歩いていく。口元に、堪えきれない笑みを浮かべる少女の後姿を見送って、ユカはその少女がいなくなった棚の前まで歩いた。 ネイルコーナーと銘打たれたその棚は、鮮やかな彩りに包まれている。綺麗な色ばかり閉じ込めた硝子の小瓶達は、きちんと順番を守ってきらきらと並んでいる。 「何? 欲しいの?」 不意に、あまりに近くから声をかけられて、ユカがびっくりして振り返る。ハルの視線がじっと小瓶に向けられて、その中から、虹色に煌くオパールみたいな色を選ぶと、そのままストンと、持っていた袋に滑り込ませた。 「ありがとうございました」 店員の声に見送られ、平然と店から出て行くハルの背中を追って、ユカが走る。 ドキドキする。ハラハラする。でも、嫌じゃない。少し先を歩くハルが振り返って、ユカに手を差し伸べてくる。ハルの白い指先が、ユカに向かって伸ばされる。そっと握り締める、指先は冷たい。 道々に灯る街灯が、ふたりの影を交差させていた。
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