パピヨン
第十一話

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 その場にドミノのように、一個一個ラーメンを並べていくユカの前にしゃがんで、「こんなに食えるわけねーだろ」とハルが笑う。それでも興味深そうに幾つかを手にとって、眺めている。 「味見、する?」  どれを食べようか、決めかねているように見えたハルは「じゃ、半分こしよう」なんて、子供みたいなことを言う。結局、ふたつを選んで、ハルはその殆どを自分で食べた。ペットボトルの水を交互に飲みながら、ユカが「美味しい?」と聞くと「美味いよ」と言って笑う。  この部屋に初めて来たはずのハルは、今までも何度も来ていたかのように、すんなりと溶け込んだ。こんなやり取りも昔から、何度もしていたかのように、まるで違和感がなかった。低く穏やかに続く会話は、意味がないぶん永遠で、流れる空気はごく自然だった。こんなふうに昔から、ずっと一緒にいたみたいに。  満腹になって、やっと一息つけたらしいハルが、食べ終わった容器のひとつを抓み上げる。 「コレ、使って良い?」  煙草を片手に問われて、ユカが頷く。  灰皿代わりの容器を手に、ハルはベランダのふちに腰掛けて、夜の街を見下ろす。白い煙が、風に乗って流れていく。その煙を見ながら、ぺたんと隣に座るユカに、ハルは視線を向けないまま、話しかけてくる。 「こんなに広くて、こんなに何にもない部屋って、俺、初めてだよ」  くつくつと笑う。 「此処って、引っ越したばっか?」  ちらりと向けられる視線に、首を振って応えると、「じゃ、此処住んで長いの?」と続ける。単純な好奇心は、今も続いているんだろう。ハルの問いかけには他意がなく、なんとなくと言った感じが漂う。 「長いよ」 「地元?」  ハルの「地元」と言う言葉がよくわからなくて、ユカが小首を傾げる。 「何処で生まれたの?」 「東京」 「じゃ、地元じゃん。学校も都内?」  学校と言う言葉に、ユカの心臓が、とくんと反応する。ハルは答えを待っている。ゆっくりと煙草の煙を吐き出しながら、ユカの返事を待っている。 「私、学校、行ったことない」 「えっ?」  ハルの視線がまっすぐに、ユカに向けられる。

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