藤岡の叫びとともに景色が崩れ始め変化していく。周りの木々のせいで薄暗かったものの明るく輝いていた太陽は消え去り、その代わり爛々と光る赤い月が昇り崇人らを妖しく照らす。草木が生えていた地面も枯れ果てたようなひび割れだらけの荒れ地に変わってしまっていた。 あまりの環境の変わりようになにか予感を感じ取った崇人は狡挫僂とともにバックステップをし藤岡、瘰患から距離を取る。 「これは………禍舞台?」 「………いいや?違うなぁルーキー、ここは、禍神舞台。術者を………隠すだけの禍舞台とはわけが違う。ほら、見ろ俺の体を。 お前にやられた傷がもう完治してるぜ?」 そう言いながら藤岡は自分の体を見せつけると崇人もわずかに黙る。たしかにヤツの言う通りさっきまで体に刺さっていた短剣は排出され、無数の切傷は音を立てて目に見える速度で治っていた。またほぼ半壊していた怪人の鎧も完全修復されており隣りにいた瘰患も体が全治し、更に怯えていた目にも自身が戻っていた。 「………傷を治癒する結界ということか?だがそれで俺とアンタ、狡挫僂と犬っころのスペック差はひっくり返らないぞ」 「バカが………まだ勝った気でいるのか?………確かに、前半戦はテメェの勝ちだ。だが後半戦!!ここでテメェをぶち殺せば俺の勝ちだ!! 禍神演黙、餓狼無間追刑!!!」 藤岡が叫びを上げると荒れ地の地面から人間大のクリスタルが6個飛び出し、空中に浮かび始める。更にそれに呼応するように闇空に浮かぶ赤い月6つに分裂しクリスタルはその光を吸収する。 青いクリスタルは月の光を吸収し真紅に染まっていくとさらにクリスタルを通して無数の光の線が地面にあるクリスタルの影に届くと、影から浮き上がるように黒一色の狼の怪物の群れが現れる。 黒狼の群れは無機質な眼を崇人、狡挫僂に向けると逃げられないように取り囲む。 【ありゃりゃ、文字通り獣に囲まれちゃった〜。コウちゃんの貞操ピ〜ンチ】 「茶化してる場合か。………これは禍舞台の発展技みたいなものなんだろ?俺にはできないのか?」 【将来的にはできるようにななるよ。でも流石に怪異憑きになったばかりでやるのは難しいかな?】 「そうか………それじゃしょうがない」 狡挫僂の説明受ける崇人、それに構わず50を軽く超える黒狼は周囲から一斉に襲いかかる。全方位からの攻撃、これを同時に捌く方法など本来ない、死一直線。 だが、崇人の半々仮面の奥の目から希望は消えず、狡挫僂は舌を出し狂笑を浮かべながらモーニングスターを振りかぶる。 「百本短剣・拡周!!狡挫僂、狂熊炸裂棘!!」 【アーハハハハハハァ!!!】 自身と相棒の技を叫んだ崇人は自身の投げた短剣を100本に増やすと自身の力で本数を変えただけでなく『投げたのは前一方向ではなく、自分の周囲全部』と因果を改変し周囲一帯に短剣を放つ。 狡挫僂は怪異を強化する怪異憑きの呪文、怪言を受けると笑い叫びながらモーニングスターを荒ぶらせ振り回す。この感ぬいぐるみモーニングスターに生えていた棘は周囲に発射され、新たに生え再び発射され続ける。また棘は刺さると対象を内側から膨張させ花火のように散らせていく。 これら2つの技が重なった結果、それを端的に説明すると。 地獄絵図、影でできた黒狼たちの短剣刺さり体爆ぜ、黒い臓物を撒き散らす地獄そのものであった。 「…………シンプルに薙ぎ払う、ただそれだけだ。さぁ後半戦できっちり殺すぞ」 【はぁーい分かりました、使えるご主人さま♡】 藤岡は襲いかからせた黒狼達の死を見てわずかに息を呑み冷や汗を垂らすが、それでも仮面の下の好戦的な笑みは崩さない。 「ムカつくが流石だなぁ。だが、第一ウェーヴで満足すんなや。 まだ、勝負は始まったばかりなのによぉ!!」 藤岡の声に呼応するように黒狼達の死骸が蠢き出す。すると切り飛ばされた首からは新しい頭が生え、残った頭の断面からは新しい体が生え始める。他の死骸も新しい手足を生やしたり切られちぎれた手足、その肉片一つ一つから黒狼たちは再生していきその牙を爪を崇人、狡挫僂へと向ける。 その数はゆうに先程の5倍はいる。 「………なるほどな、不死の狼を使っての物量攻めということか」 「その通りだクソッタレ!!そのオオカミたちは決して死なない。ダメージを与えてもそこから新しい狼を生み出し再生する!!テメーが食い殺されるまで無間に襲いかかり続ける!!お前の異能が規格外なのは認めてやるが、過去改変だって何発もできるわけじゃねぇだろ?! だったら俺達がやることは持久戦だ!!テメーらが何もできなくなるまで圧倒的数ですり潰す!!!餓狼死時化!!!」 【グウウアアアアアアアアアアア!!!】 【【【ウォォォォォォォォォォオオオ!!!】】】 藤岡の怪言が響くと黒狼たちはその体中から鋭い刃を生やすと再び二人に向かって一斉に襲いかかる。更に今度は藤岡の隣りにいた瘰患も体全体をパンプアップさせ口内から牙を巨大化させると黒狼の間を通りながら急接近する。 今まで終始こちらの優位な状況であったためついに僅かに相手に流れが向いたことに舌打ちをするも素早く指示を出す。 「チッ……どうやら本体どっちかをを殺すしかないようだな………。狡挫僂、お前は雑魚どもを薙ぎ払え!俺はあの犬を討つ!」 「はーい、了〜解っ!!」 危機的状況にも関わらず愉快そうに指示を受けた狡挫僂はモーニングスターを鎖でぶん回しながら黒狼たちを弾き飛ばしていく。その間に崇人は体を低くした姿勢で走り自分の手から生み出した大ぶりの短剣逆手で持つと接近していた瘰患の頭部に向かって鋭い斬撃を浴びせる。 しかし瘰患は短剣を噛みつきで受け止め、動きが止まっている間に自分は自身の爪で切り裂こうとする。対して崇人は短剣をあっさり手放すと宙返りをし爪による斬撃を回避する。だがまだ追撃は終わらない。空中に浮いている崇人をチャンスと考えた黒狼たちは飛び上がり噛みつこうと大口を開け飛びかかる。 「戻れ狡挫僂!薙げ!!」 【ハイハイ、美少女使いが悪いっねぇ!!】 黒狼の牙が崇人に届きかけたその時、彼は狡挫僂の名を呼ぶと彼女は先程まで荒れ地で黒狼たちを蹴散らしていたにもかかわらず、一瞬にして崇人の隣に現れた。 そんないきなりのテレポートであったが、狡挫僂は特に驚いた様子もなくぬいぐるみモーニングスターの鎖を短く持ち素早く噛みつこうとしていた黒狼たちの頭をかち割る。その後そのままモーニングスターを地面へと叩きつけ着地点に待っていた黒狼たちを吹き飛ばすとその場に着地する。着地してからも黒狼たちは瘰患を中心として執拗に攻め立てるが、二人はそれを短剣とモーニングスターを使って悠々と捌いていく。 切り札を使ってなお攻めきれないというのが現状であるが、戦場から離れだ場所で経過を見ていた藤岡は仮面の下で凶悪な笑みを浮かべる。なぜならば、見つけたからだ。 (見えた、あのチートクソ野郎どもをぶち殺す策が!!)
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