だから☓達は力を願った。
逆恨ノ追跡者 狡挫僂
作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。
 白紫の人物、崇人は立ち上がると金属とボロ布の半々仮面の奥に潜む目を血走らせながら、ほぼノーモーションで藤岡に向かって走り出す。それと同時に藤岡も銃から音速以上の弾丸を発射するも、崇人はわずかに体をそらし紙一重でかわす、まるで何の障害にもならないとでも言わんばかりに。  直感で危機を感じた藤岡は自身の左側に体を飛ばし崇人の突き出した短剣の一撃を回避する。短剣は壁にクレーターを作りつつ突き刺さるが、崇人は気にせず短剣を右側、藤岡が回避した方向に思いっきり振り抜く。すると壁は砕けその破片が散弾のように藤岡に直撃する。  怪人化しているため握りこぶし程度の瓦礫が無防備な状態で頭部や手足にぶつかった程度では死ぬことはないが当然痛みはいく、そのせいか藤岡は地面に倒れ込んでしまう。しかしそんなことも気にせず崇人は熱を感じさせない言葉で藤岡を刺す。 「………立てよ人の親友殺しかけて、恩師の先生まで危険に晒してこれで済むと思ってるのか?  ………生憎俺はお前の言う通り下衆なんでな、やられたことは10倍返しにしなくちゃ気が済まないんだよ」 「………バカが、調子に乗ってんじゃねぇよ………ガキが!俺がこの力を得て何年経ってると思ってる………昨日まで怪異のことを何も知らなかったカスに………、  負ける道理なんてねぇんだよ、瘰患ッッッ!!!」  地面に這いつくばる藤岡が地面を叩いた瞬間、彼のそばの地面に黒いシミが広がり始めるとそのシミから女性の手が飛び出し藤岡のそばにいた崇人をその鋭い爪で切りつけようとする。だが崇人もそれをすでに察知していたのか短剣であっさりと受け流し軽く後ろにステップする。  不意打ちをかわされたことに藤岡は舌打ちをするも、膝に力を入れて立ち上がり、地面のシミから完全に姿を表した犬の体と女性の腕を持つ怪異、瘰患とともに崇人をにらみつける。 「…………一度召喚した怪異は自分の判断で手元に戻せるのか。知らなかったな」 「はっ、抜かしてんじゃねぇよ。さっきは頭に血が上って油断したが、さっきと同じような戦術が効くと思うなよ………!!」 【クウクウ、餌ヲクウ……!!】  銃口を敵へと向ける藤岡と牙を打ち鳴らし威嚇する瘰患に相対するが、崇人はわずかにも焦らず体を覆うボロ布の懐からあるものを取り出す。それは黒と茶色で構成された、手のひらサイズのクマのぬいぐるみであった。一見可愛らしいがその実、体に無数の縫い針が刺さっており形容しがたい悍ましさを放っていた。 「丁度いい、健太と土屋先生を避難させたかったし………コイツの実力も確認しておきたかったからな。  ………さぁ出番だ、狡挫僂こうざる」  自分の相棒の名前を呼ぶと崇人は手に持っていたクマのぬいぐるみ型のお針子をそのまま手放す。お針子は重力に従いゆっくりと地面に落ちると、そのまま水に沈むかのように地面に溶けていきその地点を中心に黒いシミが生まれ始める。シミは大きく広がるとそこから徐々に崇人の体の半分はある大きなクマのぬいぐるみが浮上してくる。  まさかあのぬいぐるみがあいつの怪異?とそんなことを藤岡が考えていく内にぬいぐるみはシミから少し前に歩きだし深々とお辞儀をする。 【ドウモミノホドシラズノオ兄サマと犬ッコロ。ハジメマシテ、ソシテ  サ・ヨ・ウ・ナ・ラ♡】  そういった次の瞬間、シミから棘のついた首輪が飛び出すとぬいぐるみの首に装着される。するとぬいぐるみの体から漆黒の棘が突き破るように現れたのちぬいぐるみは狂ったような笑い声を上げ、そのままその動きを止めた。ぬいぐるみの停止をトリガーにしたのか首輪から鎖が現れるとシミに向かって一直線に向かい沈んでいくと、シミから黒い液体が持ち上がっていき徐々にそれは人の体を成していく。そして、  その身姿を表界へと顕現させる。 【狡挫僂………それって私の名前?もう少し可愛いのにしてほしいんだけど?】 「黙れ、小狡いお前にはピッタリの名前だ」 【ひっどーい、せっかく貴方好みの美少女の姿になってるっていうのに〜】  黒い液体から現れた小柄な少女、狡挫僂はたしかに自らが言うように美少女と呼べるほどの美貌を持っていた。口元に縫い跡のような模様がある以外はシミひとつない色白の肌にツーサイドアップに纏められた銀色の長髪に紫色の輝くような目、どれも他者を魅了する虜にできるレベルであった。来ている服は継ぎ接ぎ模様が所々に入った白と紫で纏められているゴスロリファッションであるが、スカートの丈は屈めば下着が見えそうなほど短く上服も手をスッポリと覆う袖と分離と分離し脇が見えているなど、もしゴスロリ服を愛好しているものから見れば眉をひそめるようなデザインであった。  しかしそんなことは狡挫僂は気にせず可憐に体を一回転させ両手に持っている鎖を操りその先にいる首輪を着けられたくまのぬいぐるみ、を模したモーニングスターを構え、藤岡と瘰患に目を向け舌なめずりをする。 【じゃ、お兄さん。足止めしとくからそこの二人を連れてって。早く帰ってきてよ〜じゃないとこわ~い男の人と犬っころに慰み者にされちゃうかも☆】 「………俺よりも数倍は強いくせによく言う………。まぁいい頼むぞ」  狡挫僂にこの場を任せた崇人は踵を返し気を失っている健太と引っ黒い帰った車の中で気絶していた土屋を抱え、後者の方へと走っていく。藤岡は当然それを邪魔するべく銃口を崇人の背中に向けるが。 【何をしてるの〜?あなたの相手は、私だよっ!!】 「っ?!グアアア!!」  気を取られた隙きに一瞬で接近していた狡挫僂がモーニングスターを振りかぶり、藤岡に向かって叩きつける。自らの能力によってギリギリのところで察知できた身を翻し紙一重で回避するが、その風圧と衝撃波で弾き飛ばされ地面に転がる。狡挫僂の一撃に藤岡はむせこむが、間髪入れずに狡挫僂は嗜虐心に満ちた笑みを浮かべながら再び襲いかかっている。   「………ヒィ!!く、来るなぁ!!!魔獣弾!!」  喉で小さい悲鳴を上げながらも藤岡は銃を構え弾丸を撃ち放つ。放たれた弾丸は今までのと違い、獣の頭部を模したオーラを纏っており、その特大のアギトを狡挫僂へと向けていた。それに対し狡挫僂は鎖を引っ張りぬいぐるみモーニングスターの頭部を持つとそれを自分の足元に叩きつける。その際に発生した衝撃波によって狡挫僂の小柄な体は浮き上がり獣の弾丸を飛んで回避する。  しかし弾丸はジャンブした狡挫僂を追尾するかのように物理的にありえないない角度でカーブ彼女の背後を襲う。 「バカがぁ!!その弾丸には『追跡』の異能が乗っている!!当たるまでお前を追跡するぞ!!」 【そ、それじゃ………こうしちゃお☆】  空中に留まる狡挫僂は鎖を持つ手の力を入れるとそのまま体をねじり、その反動を生かしてモーニングスターを振り回しながら体をコマのように回転させる。獣の弾丸は振り回されるモーニングスターにぶつかると一撃で霧散してしまい、逆にそのオーラがモーニングスターに纏わりついてしまった。 「な、何ぃ?!」 【そ〜〜れ、倍返しっっ!!】  自分の必殺の弾丸をあっさりと破られた藤岡はその場で固まってしまいただ見ていることしかできない、空中で魔獣弾丸のオーラをまとわせたモーニングスターを振りかぶり自分に向かって振り下ろそうとする狡挫僂の姿を。  狡挫僂の一撃の重さはわかってしまっている。回避したにもかかわらずあのダメージ、もし直撃してしまえば怪人化した体でもどうなるか、それを想像してしまえば………。 「あ、ああああああああ!!ら、瘰患、俺をかばえぇぇぇぇ!!!」  恐怖に駆られた藤岡は両腕を前に出し自分の怪異に叫びながら命令を下す。避けることはできないことを直感で理解した藤岡は瘰患に盾にし、少しでもダメージを減らそうと考えたのだった。  しかし、その瘰患が自分の前に飛び出すことはなかった。予想もしなかった現実を認められないためか狡挫僂の攻撃を前にして藤岡は先程まで瘰患がいた場所に目を向ける。その視線の先には、  しっぽを丸め、体が遠くで見てからもわかるほど震え怯えている瘰患の姿があった。 「らい、か、ん…………!!!なにやってんだぁあああああおおおおおああああああああああああああッッ?!!!」  自分の命令を無視し怯え震える怪異に怒鳴りつけるが、それはすぐに断末魔に変わる。なぜならば狡挫僂のモーニングスターの一撃が藤岡の顔面に直撃し駐車場外の森林道路にふっとばしたからだ。
応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません