だから☓達は力を願った。
追跡者 瘰患
駒山運動公園。まだ崇人が子供の頃は地区の運動部が練習試合に使用したりしていた場所であるが最近ではここよりも大きくきれいな運動場ができたため、現在では人通りが少ない寂れた公園となっている。おまけに照明も最近老朽化してきたせいか、夜になれば薄暗く幽霊でも出てきそうな不気味な雰囲気を醸し出していた。
そんな場所にある、サッカーグラウンドのセンターサークルの中央で崇人は片手にスマホを持ち立っていた。そのスマホの画面にはメーセージアプリが表示されており宛先人のところには桜夜、と表示されていた。崇人からの多数のメッセージに対して一切返信はなかったがすべて既読がついていた。
「(ひとまず桜夜は無事、警察にも通報した。となれば、)問題は、ここからだな。
…………なぁ、いるんだろ?出てこいよ!」
屋外でもよく通る声で崇人が叫ぶと、サッカー場の周りに生えている木々の後ろから自分たちを待ち伏せしていた不審者がゆっくりと現れる。相変わらずフードを深くかぶりマスクも付けていただけでなく、距離もかなりあったため表情は伺い知れなかったが、どこか苛立ちを放っていた。
「チッ気づいてたのか………本当に、ムカつくガキだ」
自分の耳にも聞こえるような恨み節をつぶやきながらゆっくりとグラウンドへと近づいてくる。彼の周りに呼び出していた犬の怪物、瘰患がいないためそれに対し警戒しつつも崇人は彼に対し問いかける。
なぜこのような凶行に及んだのかを。
「………なぁ、なんであんたは俺や健太を襲う?俺も健太もお天道様に顔向けできないようなことはしてないと思うが?」
「…………その前に1つ聞かせてくれ。お前は、中学の頃バスケ部に入っていたか?」
「………?………いや、バスケ部に入ったのは高校が初めてだ。うちの学校、部活に強制参加だから」
崇人はコチラが質問をしたにも関わらず質問で返されたことに若干ムッとしながらも素直に答える。だがその返答を聞いた途端、不審者の体は不自然に震え始め、顔を隠していたマスクを外し激情を爆発させる。
「そうかそうか………やっぱりお前は、ここで死んどけッッ!!!瘰患!!!!」
不審者が吠えるとともに崇人の足元が不自然に盛り上がる。それに気がついた崇人はほとんど反射的にその場から飛び出し不審者の男の方へと走る。それとほぼ同じタイミングでさっきまで崇人が立っていた地面から瘰患が飛び出し、後ろから猛然と追いかけてくる。
「ハハァ!!バカが、人間ごときが瘰患から逃げ切れるわけがないだろ?!
瘰患、身削爪だ!!」
不審者が呼びかけるとともに瘰患の瞳が怪しく光る。すると走力を上げ始め前を走る崇人に飛びつくように地面を蹴り上げる。このとき体全体が宙を浮いている状態で前の腕二本を大きく背中側へと引き絞り、更に爪を人一人両断できるほど長く伸ばす。そして、引き絞られた両腕を解き放ち、その歪な大爪で切り裂こうとした。
崇人も前に全力疾走しながら背中に迫る殺気をその身に感じる。だが後ろを振り向くわけには行かない、振り向けば自分の体は八つ裂きになることが本能的にわかったからだ。でもこのままでも殺されるという事実は変わらない。
「だからって………諦めるわけにはいかねぇだろ!!」
そう叫ぶと、崇人は手に持っていた外側のスマホカメラを瘰患へと向けると、画面をタップする。すると薄暗い世界から一転、眩しいほどの光がスマホから放たれ、宙を浮いていた瘰患は怯み地面へと落ちてしまう。
予期せぬ自体に不審者は指示を出し立て直そうとするが、崇人にとってこれが生存へのラストチャンス、見過ごすわけには行かない。
「な、何をしている!!瘰患早く立………!!!」
「させるっかぁ!!!」
瘰患に指示を出そうとした不審者に目掛けて崇人は手に持っていたスマホを真っ直ぐに投げつける。投げられたスマホは不審者の顔面右上部にあたり、痛みのあまりか不審者は直撃した部分を抑え目線を離してしまう。
その隙きに崇人は不審者のとの距離を一気に詰め彼の後ろへと回り、自分の右腕を不審者の首へと巻きつけて半分本気で閉め始める。
俗に言う、チョークスリーパーの状態である。
「は、離せ………!!」
「そうはさせるか………悪いがこのまま落とさせてもらう………!!」
「………!!!ら、瘰、患……!!な、なんとかしろぉ………っ!!」
掠れ声で瘰患に指示を送ると、怯んでいた瘰患も起き上がり不審者を助けようと彼に近づく。だがしかし瘰患はあることに気がつき、思わず自分の爪を見てしまう。
確かに不審者の怪言によって強化された自分の爪はそのへんのものなら何でも切り裂ける。だがしかし、そんなものなんの意味も成さない。なぜなら今狙うべき敵、崇人は主人を後ろから絞めながら瘰患の前に盾のように前に突き出しているからだ。だったら後ろの崇人だけに攻撃するよう調整すればいい、という簡単な話になるが瘰患にはそのような精密性はない。
そのため相手の後ろに回り込むように動くも崇人に対応されてしまい、彼は不審者ごと体を乱暴に動かして再び自分の前に出されてしまう。思わず瘰患は不機嫌そうに唸り声を上げる。
とその時であった。極限状態で締め上げる力を強めている崇人と意識が半分飛びかけている不審者の耳に聞き覚えのある音が聞こえてくる。それは、
パトカーの、サイレン音であった。
援軍がやっと来たことにわずかに崇人は笑みを浮かべるが、その瞬間不審者は最後の力を振り絞り、大声で吠える。
「瘰……患…………!!おれ、ごと………突き飛ばせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「っっっ…………?!!」
【グルル……リョウ、カイッッ!!!】
不審者から指示を受けた瘰患は地面を思いっきり踏みしめ、そのまま弾丸のごとく飛び出し二人に思いっきり体当たりを繰り出す。速度の乗った大型単車にでもはねられた様な衝撃が発生し二人共突き飛ばされ、それぞれ後ろに生えていた木々に体を打ちつける。
崇人も口から血を流し地面に倒れ込み不規則な呼吸を繰り返す。その間に直撃したはずの不審者は同じく口や鼻から血を流しフラつきながら立ち上がり、瘰患の背中にまたがる。
「……………今日は、引く………。だが俺は、俺の人生を………邪魔した、お前らを絶対に、許さない。
必ず殺す、必ず、だぁ!!!」
そう吐き捨てると瘰患の体は大きく飛び上がり不審者を連れたまま夜の闇へと消えていくのだった。ひとまず危機が去ったことにわずかに安堵するが、口からとめどなく出る吐血が彼に命の危険を再び教える。
「やば………意識、と、ぶ………………!!」
「おい君大丈夫かっ?!」
「救急車、早く救急車を呼べっっ!!!」
自分の近くで何やら焦った大声が聞こえてくるが、崇人の意識は闇へと溶けていき、ついにはぷつんと途切れてしまった。
*
【………へぇ、中級怪異程度とはいえ人間があそこまで粘るとは、
やっぱりあの子、あたりだ】
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