* 校門前校舎。先程まで瘰患に体を固定されていた壮齢の教師の手当をしながら他の教師や生徒たちは破壊音が続く駐車場方向を心配そうに見る 「今、駐車場で何が起きてるんだよ………」 「………わかってるとは思うけど確かめになんて行かないでよ。さっき警察にも連絡したからとにかく今は避難を………」 と女教師が生徒をたしなめていたその時だった。彼女は駐車場方面から一人の少年が走ってくるのを見つけた、その格好や様子はあまりに奇異なものであった。 黒髪と切れ長の目が特徴ってきな少年は学生服は来ておらず病院で入院患者が切るような服を着ており靴すら履いていなかった。それだけではない両方の肩それぞれに天上院学園の制服を着た少年と同僚の土屋を担いでいたのだった。 「あなたは………確か、三善君………だったかしら?なんでウチの生徒と土屋先生を………?!」 「………まぁ色々ありまして。とにかく、二人を安全な場所にお願いします。………俺は決着を着けに行かなければ行けないんで、では」 健太と土屋を下ろし近くにいた教員に預けると崇人は踵を返し再び自分が来た方向、駐車場方面へと走っていく。当然女教師は止めるため声をかけようとする。しかし自分たちに背中を見せて走っていく崇人の体から先程の不審者と同じく突き破るように鎧やボロ布が現れたとき、声をかけられなくなってしまう。 そうしている内に再び怪人と化した崇人の背中は小さくなりあっという間に姿が見えなくなってしまった。不審者の襲撃から駐車場の破壊音、そして崇人のあの様子。あまりにも突然のことが起きすぎて女教師はただ一言つぶやくのがやっとであった。 「………一体、一体何が起きているっていうのよ………?!」 * 場所は変わり駐車場近くの森林地帯。仮面が半分破壊され顔も潰れながらも生きていた藤岡は遅れて自分を探しに来た瘰患に体を支えてもらいながら逃げるように歩いていた。 「………瘰患。あの…………怪異は?」 【イマハオッテキテナイ………多分ゴウリュウヲユウセンシタ。】 「………そうか」 そんな瘰患に対しわずかに反応したあと藤岡は銃を構え、瘰患の頭部に向かって弾丸を放つ。弾丸の衝撃によって瘰患の体はダメージを喰らいはしなかったものの後ろによろめいてしまう。藤岡も瘰患に体を支えられて立てていたため地面へと転がって顔面を強く叩きつけてしまった。そのせいで再び悶絶してしまうが、壊れていない仮面の奥から血走った目を向け瘰患を怒鳴りつける。 「瘰患………!!なんで俺の命令を無視した、なんで俺をかばわなかったァ?!!お前がかばえば俺はこんなダメージを受けなかった………いやその隙きをついてあの餓鬼の頭を吹き飛ばせてたぁ!!」 【………!!主ダッテ、ワカルダロウ?!アイツハ、上級怪異ダ。中級怪異トハ格ガチガウ………ホンモノノ怪物ダ!! ココハニゲテ………奇襲スルベキダ、イツモノヨウニ……!!!】 「黙れ、黙れぇ!!俺が!!奇襲しか!!できないと!!思ってんのかぁ!!!」 瘰患はどうにかして落ち着かせ狡挫僂達から逃げようと提案するものの、それが藤岡をより逆上させ、彼は身を隠しているということすら忘れているかのように銃を何発も瘰患に撃ち込みながら怒鳴り続け、その音は森に響き渡っていた。 だからこそ、彼らは、あっさりと藤岡、瘰患の居場所を特定しその前に姿を表したのだった。 【アハハッ随分なハズレを引いちゃったねぇ『追跡』の怪異………あ、今は瘰患って言うのかなあなたの名前?】 「………御主人のせいで今から死ぬことには多少同情はするが………お前にも借りがある。きっちり命で払ってもらうぞ、犬ッコロ」 この危機的状況に似合わない軽い声が聞こえ、藤岡は体ごと声の方向に向ける。その先には白い鉄製の鎧と紫色のボロ布を継ぎ合せた異様な服装をした怪人と露出の高いゴスロリ服を来た白髪少女の二人組、崇人と狡挫僂がいた。 瘰患は目で見てわかるほど怯え、藤岡も瘰患に対してかなり大口をたたいていたものの目の前に二人を再び見たことで恐れが前に出たのか、腰が引けてしまっていた。 一方崇人と狡挫僂はそんな一人と一体を無視し何かを確認し始める。 「狡挫僂。あの刑事さんが来る時間は変わってないか?」 【変わっていない………と言いたいところだけどこの事件に大分私達が関わっちゃったせいでもう殆ど予知できないし、異能の力もアクセルベタ踏みで使っちゃったから……… 多分察知して来ちゃうんじゃないかな?今すぐにでも】 「そうか…………なら急いだほうがいいな」 「な、何の話を………?!!」 「気にするなよ、死ぬあんたには関係ない」 藤岡の問いに対し崇人は冷徹に着るとボロ布の方から一本の投げ短剣を取り出し、持っている手を振り絞りそのまま短剣を一直線に藤岡めがけて投げつける。藤岡もそれに反応し銃を構え撃ち落とそうとする。だがその瞬間、 信じられない現象が起きた。 「…………『因果、鏖縫』。百本短剣」 崇人がつぶやいたその時、一瞬短剣が歪むと次瞬きした時にはそれは何十本にも増えており更にその切っ先は一寸の狂いなく藤岡、瘰患に向けられていた。 一瞬で数か増えたことに目を向きながらも藤岡は銃弾を撃ち込むも単発銃では跳弾を含めてもせいぜい7,8本を弾いたのみ、残りの全ては容赦なく藤岡と瘰患に突き刺さる。大量の短剣が突き刺さり血が吹き出だし藤岡は悶絶するが喉にも刺さってしまっているため声を上げることもできずゴポゴポという音だけがででるだけであった。 確実な致命傷、もうすぐ来るであろう死、しかしそんなものにも構わず藤岡は驚愕に染まった瞳で崇人と狡挫僂を見る。 「………どうせ最期だ。種明かしをしてやるよ。 狡挫僂は『因果』の怪異。コイツが憑いた事によって得た俺の怪異能力の名は因果鏖縫。 色々と制約は多いが、過去に干渉し現実を変えることができる力だ」 【なかなかに素敵な力でしょ?】 「か………こ、かえ………?!」 二人がいともあっさりと話し始めた自身の能力の詳細に口から血を吐き出しつつ藤岡は戦慄する。 過去を変える力。自分の持つ「対象者のみに限定に働く超五感」能力とは明らかにスペックが違いすぎる力、もしかすればブラフを言っているだけかもしれない、そう思いたくなるような異能であった。しかしもしもブラフだとするなら死にかけの相手に………圧倒的格下にそんな面倒なことをするわけがない。それにもし本当にヤツの言っていることが本当なら今までの現象にすべて説明がつく。 致命傷を負っていた健太の傷がすべて治っていたのは「藤岡に暴行され致命傷を負った」という過去を消し去ったから。 崇人が投げた短剣の数が増えたのは「投げたのは1本ではなく100本」というふうに過去を改変したから。 もはや相手が嘘を付いていないことは藤岡自身がわかってしまい絶望の二文字が脳裏に現れる、しかしそれと同時に炎のような怒りが生まれきしむほど歯を食いしばる。 敵がまだ諦めていなしことを知りながらも崇人と狡挫僂はゆっくりと近づきながらそれぞれ短剣とモーニングスターを構える。 「………人は現在を懸命に生きることはできる。未来に希望を持ち進むことはできる。ーーーだが過去だけはどうすることもできない…………俺以外にはな。 俺はこの力を使って平穏と幸福を取り戻す。親友や恩師……家族が笑っていられる世界を…………今度こそ作って守り切る。 …………その世界にお前らはいらない」 「…………たらたら、語っ、てん………じゃね………ぇぞ………この、チート野郎ぉ!!!!」 【グゥ…………アアアアアアアアアア!!!!】 近づいてきた崇人に対して藤岡は喉を治し力を振り絞ると握られた銃身で殴りかかり、瘰患も腹をくくったのか口を大きく開き噛みつこうとする。しかし崇人はわずかに嘆息してから短剣で悠々と受け止め、狡挫僂も残虐な笑みを浮かべながらモーニングスターの鎖を噛ませる。 最後の悪あがきが止められた、そう考えるのが普通の状況。しかし藤岡にとってこの状況は予想できたものだった。彼は叫ぶ、自らのすべてを賭けて崇人を殺すための最後の奥の手の名を。 「かかったな…………!!禍神舞台、『餓狼狩刈里』!!開場!!!」
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