* 一方その頃、土屋と健太は体育館職員室から脱出しその裏にある駐車場を目指していた。他の生徒や教職員たちを見捨てるような形になってしまったのにはわずかに罪悪感がのしかかるがそんな事を言ってもいられない。どっちみち今の自分ではどうしようもないことは土屋自身にわかっているからである。 とにかく今行うべきことは犯人の標的である健太を逃がすこと、ただそれだけである。 「松前、大丈夫か?もうすぐ俺の車だからな!!」 「は、はい!!」 昨日のトラウマの所為か過呼吸気味になりながらも着いてきている健太に声をかけ励ましながら走ると、やっと土屋の車に到着しまず健太を乗り込ませる。土屋はまず電子キーで駐車場の門を開けた後車に乗り、素早くエンジンを起こし準備を整えると隣に停まってあった車に擦れるのも気にせず出口に向かって車を発進させる。 後はこのまま門から出て学外に出るだけ、しかしその唯一の出口に怪人と化した藤岡が追いつき立ちふさがる。 「見つけたぞ、松前ぇ!!!」 「ッッ!!!松前、歯ぁ食いしばっとけ!!!」 小銃を向ける藤岡に対して土屋の行動はひどくシンプル、アクセルをさっきよりも強く踏み込んだだけ。しかしそれによって土屋の軽自動車は一気に加速していき、その車線にいた藤岡を思いっきり跳ね飛ばす。 跳ね飛ばされた藤岡の体は空中で何度も錐揉み回転とバウンドしながら前方に飛んでいくも、左手でコンクリートを掴み抉りながら勢いを殺していき、体勢を整える。そしてそのまま右手に持っている右手に持っていた銃を未だ自分に向かって走り続ける車に向け引き金を引き、弾丸を放つ。 弾丸は車のフロントに着弾すると、凄まじい衝撃を発生させ今度は土屋の車が飛び上がって後転し、ひっくり返ってしまった。 「チッ………面倒かけやがって……」 藤岡は舌打ちをしつつひっくり返っている車に近づくと助手席のドアを強引に外し助手席で頭から血を流し苦しがっていた健太を引きずり出す。健太の意識は痛みと衝撃の所為かかなり朦朧としていたが、藤岡が彼の体をコンクリートの壁に叩きつけられたことで無理やり覚醒される。 「ごほぉ……っ!!お、お前は………!!」 「………よう、昨日ぶりだな。松前ぇ」 「………おま、お前は一体何、なんだよ!!なんで俺や崇人を襲うんだよ、俺達が何かしたのかよぉっっ?!!」 「………何かした…………か。 多くの人間の人生否定しといてよくそんな被害者ヅラできんなぁ!!!」 健太の叫びに逆上した藤岡は自分の小銃を鈍器代わりに健太の体を打ち付ける。打ち付ける度に健太の体からは肉が潰れる音が骨が砕ける音が、血が吹き出す音が鳴り続けるが、それでなお藤岡は暴行を止めない。 「いいか?!!お前らみたいなガリ勉共とって部活の試合なんざ運動不足解消程度の価値しかないのかもしれねぇがなぁ!!スポーツエリートとして期待されていた御乙宮にとっては大切なモノだったんだよ!! クソが!!夢も信念もねぇくせにそれに向かう人間の道を阻むんじゃねぇよ!!おい聞いてんのか?!!」 藤岡は怒鳴りつけるが健太からの反応は殆どなかった。それもそのはず、怪人と化した藤岡の暴行によって健太は体中を破壊され自分の体から出た血溜まりの上で非規則な呼吸しかできないほどの重傷を負ってしまったからだ。さらにいうと、彼の状態は素人でもわかってしまう。 もう取り返しのつかない、致命傷を負ってしまっているとーーー。 「………なんだ、もう虫の息か。怪人化は強力だが拷問には向かないな、まぁいい。 俺はお前らみたいな下衆とは違う」 藤岡は右手に持っていた銃のバレルを曲げ空薬莢を外すと胴体の鎧から生み出した弾丸を装填しバレルを元に戻し、銃口を容赦なく瀕死の健太へと向ける。 「………きっちり、殺してやるよっ!!!」 そしてそのまま引き金を引こうとした次の瞬間、彼の右脇腹に強烈な痛みが走りそのまま凄まじい衝撃とともに吹き飛ばされ壁に衝突してしまった。あまりにも突然の出来事に藤岡は目を抜くもすぐに壁から出て自分を蹴飛ばしたであろう人物の方に目を向ける。 白を基調色とした金属質な鎧と暗い紫色のボロ布を無理やり繋ぎ合わせたようなアンバランスな格好をした人物は吹き飛ばした藤岡の方には目もくれず、血溜まりの中で命の灯を消そうとしていた健太の方に注がれていた。白紫の人物はわずかに右手に持っていた両刃短剣を強く握りしめるも、すぐに力を抜きしゃがみこんで健太に向かって手を向ける。 すると、瞬きすらしない内に骨折により変形していた健太の体は元に戻り裂傷打撲等の怪我も、挙句の果てに大量の血溜まりすら消えていたのだった。これには流石に藤岡も目をむくしかない。 「ダメージを直す、回復の異能………?!いや、だったらどうして血溜まりすら消えている?!………どんな力を使ったぁ、三善崇人ぉ!!」 「お前に………教えてやる義理はない、藤岡雄二ィ!!」
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