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「ムカつくっちゃね」  ふいに出た玲奈の仙台弁に悠人はぎくりとする。東京生まれ東京育ちの悠人にはなじみがない。玲奈の実家に行ったときには、ふだんとちがう玲奈のことばに大いに戸惑う。こういうときの方言は妙に破壊力がある。 「わたし以外の女に、心を乱すとかさあ」 「ごめん。もうしない」 「あたりまえだ」 「うん」  悠人ははたと気づく。いま、ものすごく責められているけれど。あれ? 俺は浮気をしたのだったか? ちがうよな。玲奈が腹を立てているのはなんだ。 「わたし以外の女を見るのはゆるさないから」  ああ、そうか。そういうことか。いや、そもそも見てはいないが。自分にかかわる女の存在がいやなのだろうな、と思う。とくに元カノなどは。現に自分だって、涼太郎にすら嫉妬したではないか。 「うん、見ない。玲奈、愛してる」  今度はちゃんとしたキスをする。 「じゃあ、パンツはいて。ごはん食べよう。おなかすいた」  いつもの口調にもどった玲奈とは裏腹に、悠人の気持は沈んでいった。 「ただいま、もどりましたー」  未希が事務所のドアを開けた。つづいて玲奈が入る。と、ソファに悠人がふんぞり返っている。どうやらふてくされているようだ。あれ以来、悠人の調子は下がりっぱなしだ。きょうはさらに悪いらしい。  悠人にとっては、佳乃に出くわしたショックもあるが、我を見失って玲奈に襲いかかってしまったショックのほうが大きかった。あのとき激しく傷ついた玲奈を、二度と辛い思いはさせないと心に決めたはずなのに、自分から傷つけるようなまねをしてしまった。  玲奈は何事もなくすごしているが、もしかしたら深い傷を隠しているのかもしれない。そう思うと不安でたまらない。どう玲奈に接していいのかわからなくなっている。 「どうしたの?」  たずねた玲奈の手をぐい、と引いて抱き寄せる。首元に顔をうずめて、スーハーと大きく息をする。 「変態チックですよねぇ、それ」  からかうように未希がいった。 「ほんとにね。いい年こいて、人前でイチャつくものじゃないわよ」  悠人の膝の上にすわる玲奈を見おろして摩季がいった。 「まあまあ」 といいながら、玲奈は悠人の背中をさすってやる。 「悠人に甘いわよね。あんまり甘やかすと、わがままになるわよ」  摩季はいささか呆れている。悠人は目線だけをきろりと上げた。 「うるさい。俺が玲奈の匂いをかいでなにが悪い」 「うわ。ひらきなおった。ふつう引くわよ。ドン引きよ」  摩季がいう。 「悠人さん、なんか生々しいんですよねぇ。もう、始めそうっていうか」  未希がいう。 「だまれ、マキミキ」  マネージメントの引継ぎのため、しばらくいっしょに行動したせいで、摩季と未希はコンビのようにいわれることとなった。性格も似ているのか、ときどき絶妙な掛け合いをみせる。  新入りのスタッフたちは、最初悠人のこの行動にとてもおどろいたものだ。匂いをかぐだけでなく、ときにその首筋をもうとする。さすがの玲奈も悠人の頭を小突いて阻止する。  手があけば、常にとなりに置いて抱き寄せようとする。腕をからめる。うしろから抱きつく。玲奈がさらっといなすので、まだ見ていられるが、そうでなければただのイチャつくバカップルだ。

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