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「手短に頼むといったよな。まだ続くのか、その自分語り」   涼太郎がさえぎった。 「ご、ごめんなさい」  感傷に浸っていた佳乃は、あわててあやまる。 「えっと、そのときに父島の話が来たの」  ダイビング仲間から父島の民宿で、インストラクターを探していると聞かされた。父島に行ってみたいと以前から話していた佳乃にダメもとで話したらしい。  もともとインストラクターになるつもりで準備は進めていた。民宿のオーナーに連絡してみたら、民宿の手伝いをしながらこっちでとればいいといわれた。こっちにいれば毎日のように潜れるからと。  毎日潜れると聞いて、その場で行くと返事をした。半分は悠人から逃げるためだった。  ほんとうに逃げるように一方的に悠人に別れをつげて小笠原へ出発した。悠人の顔もろくに見ないまま、ことばも聞かないまま、悠人を置き去りにした。 「残された悠人の気持ちは考えなかったのか」  涼太郎が吐き捨てるようにいった。 「そんな余裕はなかったわ。ただただ逃げたかっただけ」  そういった佳乃に、涼太郎はふん、と鼻を鳴らした。 「あんたのようなつまらん女に悠人が振り回されたのがゆるせんな」 「ごめんなさい。でもずっと後悔してたの」  勝手だなぁ。口には出さないが、玲奈のイライラはどんどん高まっていく。自分のいい訳しかしないじゃないか。悠人には何の関係もない。 「それに、すぐに.futureができて、人気が出て、やっぱり悠人にはわたしなんかいらなかったんだと思った」  人の苦労を知りもせずに、と涼太郎はぎゅっと拳を握った。悠人を立ち直らせるためにどれだけ苦労したと思っているのだ。そもそもそのために.futureを立ち上げたのに。このメンヘラ女め。と目つきが鋭くなる。 「それにEVEさんと結婚したって聞いて、もしかしていまならゆるしてもらえるかと思って」  とうとう玲奈が口を開いた。 「ゆるすもなにも、悠人の中ではあなたはないものになってるの。ストーカーみたいに付きまとわれると迷惑だわ」 「ストーカーだなんて……。会えるなんて思ってなかったし」 「じゃあ、どういうつもり? 待ち伏せしてたんじゃないの?」 「仕事で東京に来たから、どういうところで仕事をしているか、ちょっと見てみようと思ったの。会ったのは偶然よ。びっくりしてなにもいえなかったわ」  ほんとに腹が立つわ。玲奈のイライラはマックスだ。どうしてこいつはこうも人の神経を逆なでするのか。ワイングラスを投げつけそうになる手を、玲奈はぐっと抑え込んだ。

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