破滅の町 第一部
第二章 侵入者たち 1.子供たちと盗賊

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 事の発端は、十五人の子供たちが秘密の地下の入り口を見つけたことでした。最初に見つけたのは、たった二人の少年、アステマ=ピロットと、サンパリヌ=ヒトロス=オヅカというでくのぼうでした。彼らは年下の友人のカムサロスの落としたこまを探していました。当時彼らは十二歳で、まだまだ腕白な小僧っ子でしたが、二人とも周りの人間を恐れさせる何かを持っていました。オヅカは若干の知能障碍で力の加減が難しく、周囲に思いがけない暴力を振るうことがありました。それは、決して彼の希望ではなかったのですが、どうしようもない自分の特徴に、周りの目と合わせて劣等感を抱いていました。ピロットは悪童の名をほしいままにするとんでもない暴れん坊で、彼は年下の者には優しくするものの、同級生かそれ以上の人間をいつもあざ笑っていました。彼らが発見したのは、子供ながらに血湧き肉踊る不思議なぽっかりと口を開いた地面でした。授業中でしたが、それにもかまわず、彼らは周囲の子供たちを呼び集めました。瞬時に皆は、このことを秘密にしておくえも知れない力を感じました。これは、今ここにつどいし十五人の彼らの生涯に渡るであろう重大な秘匿すべきことに思われたのでした。  子供たちは一度散会したあと、再び同じ場所へ戻ってきました。その時、一番年上だった人間はトクシュリル=ラベルという少年で、十五歳でした。下はピロットたちの弟分のカムサロスで、年は八歳です。そのほかに、少女たちが五人と、少年たちが八人いました。大工の子ヨルンド、医者の息子マット、畜産家の長女サカルダなど…彼らは日ごろ決して仲がよいというわけではありません。ですが、この秘密の共有のために、たちまち仲間になりました。それは悪童ピロットやオヅカをしても同じで、普段人前で見せているような態度で臨むことは彼らもありませんでした。他の子たちも、妙にうきうきして、それでいて真剣な、慎重な面持ちで静かに穴の開いた地面を見つめました。「まずはこのことを誰にも知らせてはならない」トクシュリル=ラベルが言いました。 「きっと僕たちだけの秘密にしよう。そうした約束を、今ここで交わそう」  誰もがそれを疑いませんでした。十五という数字が、不可思議なものであることは皆が知っていました。魔法陣という数並べがありますが、四辺を三つずつ区切った九マスに、一から九までの数字を並べると、どこから一列に三つ足しても同じ数になる、そうした性質を持っています。そのときに出てくる答えが、十五です。また、三かける五という特徴も、この数字の魅力的なところでした。どちらの数字も最初の割り切れない数だからでした。ここに、まったくの偶然その十五の表す人数がそろっています。彼らはぴったりとはめこまれたパズルのピースのように、己を感じていたのです。その面持ちは勿論それを自覚した、神妙な顔立ちでありました。彼らはそろそろとトクシュリル=ラベルのあとに続いて坂を下っていきました。  穴の先は、一度地上に出ていました。十何メートルかのトンネルをくぐって、丈の低い草木がぼうぼうと茂った草むらへと突っ込んでいました。彼らはこの少し不思議な小旅を関心深く進めました。すると、草木をかきわけそれほどいかないところへ、もう一度、ぽっかりと口が開いたのです。  そこの中は、とてつもなく広々とした地下の洞窟の入り口のようでした。あんぐりと開けた大地の唇は、奇妙に吊り上がり、意味もなく子供たちを挑発しているように見えました。さて、トクシュリル=ラベルは立ち止まり、皆を止めて、このあとどうすればいいかと訊きました。 「行くべきだろう!」少年が言いました。「ここまで来たんだ。折角、冒険が始まるところだったのにさあ!」不満そうに口をゆがめたのは医者の子マットでした。皆がうなずきました。  ラベルは一同を見渡し、落ち着いた声で語りました。「まあ、ちょっと待て、ここは慎重に行かざるをえないんじゃないか?だって、僕たちは大人にも黙ってここへ来ている。そりゃあ、町の中じゃそんなこと気にも留めないさ。あるいは、留める必要はまったくない。僕たちは保護されているのだ。けれど、この入り口は別だ。もう町から大分離れているし、この先何があるか、誰もわかってないはずだ」 「びびっているのかよ?情けないぜ、それでも年長者か?」ピロットが、彼らしく皮肉を言いましたが、ラベルは動じません。「慎重に行くべしと言ったのは、この秘密が、いつ外に漏れるかたまったもんじゃないからだ!いいか、ここだけの話、僕たちは重要な秘匿を今ここで行っているのだ。わかるかい?そうだ、この場所は、この入り口は誰にもばれてはいけない。僕たち十五人だけの秘儀だ。そうした約束をここでしなければならないと言っているんだ」  それはそのとおりだと、今度はピロットも黙りました。 「僕たちは固い誓いをお互いに交わすべきなんじゃないのか?そうだろう、皆?」ラベルはタイミングよく各人の顔を眺めました。こうすることで、自分の話に説得力が生まれることを、彼自身よく知っていたのです。 「今ここで、僕が提案するのは、僕たちが発見した新しい世界へ名前をつけようというものだが…どうだろう?」ざわり、と周囲がざわめきました。彼を思い慕うテオラという少女が(彼女は彼の一つ下、十四歳だった)、周りを見渡しながら、恐る恐る手を挙げました。 「それ、いい考えだと思う。私は、テルカ王国って名前をつけたいと思う」 「それじゃだめだよ!」と、別の少女が叫びました。「実際に存在する国の名前を言っちゃだめじゃないの?」 「えええ、折角…」 「私なら、こんな名前をつけるなあ!」  こんな調子で、どんな国名をつけるべきかの大激論が始まりました。彼らはまだ地下の暗闇を覗いてもいないというのに、これから待ちうける冒険の数々を推測して、その熱に浮かされて、待ち遠しくもまだまだ後回しにしておきたい希望を持て余したのでした。しかし、この熱からはずれた人間も当然いました。皆と少しばかり離れたところに、当時十二歳の少女イアリオは、腕組みをして立っていました。彼女はいらいらしながらその様子を見ていました。彼女は非常にストイックで現実的な視点を持っており、こんな夢の中で妄想するようなことよりも早くさっさと地下に下っていきたかったのです。彼女は、現在集まっている人間の頭数を確認しました。すると、議論している連中の中にいない、一人の少年を発見しました。大工の息子、ヨルンドです。穴蔵を下りた方を見てみますと、彼はその奥に滑りこみ、何やらかんかんと音を立て始めました。皆がその音に注目して一時的に論議を中断すると、ヨルンドの後ろを追ってやや下に下りていきました。大きなカーブを曲がったところに、緩やかに弧を描くレンガ式の壁が見えました。その一部を、彼は叩いていました。彼はいつでも大工の道具を握っていました。今は銅製ののみを握っており、その先を壁にあてがい、慎重に当てながら音を聞いていました。やや、違う音がして、彼はにやりとしました。「どうした、ヨルンド!」後方から声がかかりました。「いいや、何も」彼は落ち着き払った調子で声にこたえました。  ここで、十五人の少年少女たちを全部紹介した方がいいかもしれません。ピロット、オヅカ、ヨルンド、マット、イアリオ、それにトクシュリル=ラベルについては先に説明しました。彼を慕うマルセロ=テオラという少女は、両親が離婚して、今は母親のもとに暮らしています。彼女の父はだらしなく、その反動で常にしっかりしている教師の息子のリーダー格の男の子のラベルを気に入っているのでした。他に女の子は三人います。まず牧童の娘ミロ=サカルダは、十三人兄弟の長女で、なかなかのしっかり者でした。ソブレイユ=アツタオロは、農家の娘で、手に余る元気者でした。先ほどテオラの国名発表を妨げたのは彼女です。そして、空想好きのセリム=ピオテラ、彼女はアツタオロと仲良しでした。  男の子は全部で十人いますが、あとの五人を並べると、まずピロットの弟分カムサロス、彼はピロット少年と同じ幅広い大邸宅に住み、いつも彼とつるんでいました。ただし、カムサロス少年はいわば本家で、ピロットはどうしようもない分家という見方をされていましたから、家の中でもその立場は微妙でした。あと、石切りを職業としている父親を持つハリト、図書館の司書の息子テオルドと、二人の兄弟、川漁の漁師ヤーガット氏の息子たちがいました。この中で一番年下は先ほども言ったカムサロスで、年上はラベル、十五歳から八歳の子供たちがつどっていました。  ヨルンドについて、下がっていった口には地下の建物と思われしレンガ造りの住居が目の前に現われました。彼らは、ヨルンドから期待した言葉は出てこなかったので、いささか裏切られた気にもなりましたが、これ以上その先へ進むのも非常に勿体ない気持ちにもなりました。ラベルがそのように操作したのです。気持ちを抑え、押し付け、誰にも知られないようにしながら、この探索を実行していかなければなりません。彼らは非常に慎重な態度を求められました。しかし、それは確実に彼ら自身から、自発的な衝動として認識する必要があるのでした。その後、彼らは国名談義に花を咲かせ、その日は散会となりました。  その頃…二人の侵入者が、暗い地下世界に足を踏み入れていました。一人は、背の高い大男で、背中に巨大な背負子を背負ってもう一人のあとをついていました。そのもう一人は、大男よりもはるかに小さい、色黒の鳶色の目をした女でした。彼らは盗賊で、身のこなしは軽く、素早い動きと眼差しが注意深く闇の世界を凝視しておりました。その身体の皮膚感覚は敏感で、どんな兆候も逃さず意識できるほどでした。その動きと、目の動作は一致していたのです。彼らはこの街へ長大な洞窟を辿ってやってきました。洞窟の入り口は町の西方にある深々と大地に立てられた亀裂の中ほどの高さにありました。今まで、そんな入り口から入ってこの街にやってきた人間は、一人もいませんでした。  二人はとある町で、この都市に関した情報を仕入れました。砂漠の出入りに欠けた水を補うべく、オアシスの茂る水場へ来たときに、こちらを窺い微動だにしない商人がいました。二人は瞬時にこの男が自分たちと同じ「冒険者」だということに気がつきました。それは、二人は盗賊でしたが、盗みは手段であり、本当は冒険家を自負していました。冒険家はどうしても入り用な資金を稼ぐべく様々な手段を講じますが、二人の場合、人から盗んでいたというだけです。彼は、商売を利用して金を稼いでいました。ですが、それが単なる「手段」にすぎないとわかったのは、世界中を回りつつ未知の探検に命を燃やす冒険家特有の鋭い眼差しがあったからです。彼らは同じ匂いを感じました。それぞれが近づくのにこれ以上の理由はないというほど、親近感と競争と切磋琢磨の念が波をかたどって両者を呑み込んだのです。  商人は、まず小さな袋の中から自分の商品をからげました。二人はそんな商人の動きに合わせるべく、いかにも興味を惹かれたかのような仕草をとりました。「あんた、名前は?」女が訊きました。 「ロッソ。地中海の出だが、お前さんは?」 「トアロだ。出は、スグナル国近隣の都市だが、いやしくてなァ、ここで言うにはばかられるよ」 「ああ、それでわかったよ。お前さん、なかなかの盗賊じゃないか。ここでお近づきになれるとは、こっちとしても嬉しいねえ」 「それで?勿論、そちらから何かを商売してくれるんだろうね?」 「盗むのは勘弁してくれよ。ここではお互いフリーなんだからな」  三人はずっと頭同士を突き合わせて買い物の相談をしているかのように外からは見えました。ここで、本当に話されているのは無論、冒険者として要求される特別な情報のことでした。しかし、彼らの手段がそのまま彼らの性格を表しているので、互いに牽制しあっているのです。この場合、先に情報を持ちかけるのはトアロたちからでした。商人は彼らの性格を見抜き、自分は警戒しているとアピールしてきたので、トアロはまずこちらの誠実さを見せねばなりませんでした。一方、商売人の方は体面上は誠実さを持とうと欲しますので、裏切ることはないと思われます。ところが、これはロッソの方が会話が上手で、トアロたちはまず始めに彼に服従せねばならないことを示していました。トアロにはこれが気に入りませんでした。出鼻を挫かれたばかりか、しばらくは彼の調子に乗ってやらなければいけなくなったからでした。  彼女の連れの大男は、二人を離れ木蔭の涼しいところにいき何か盗めないものはないかと辺りを物色しはじめました。丁々発止のやりとりは彼のフィールドではありませんでした。トアロはほぞを噛みながら、商人の気の惹きそうな話をいろいろとしてやりました。商人は黄金の眠る町の話を彼女に聞かせました。 「だがそんな話はごまんと世に出ている。もうちょっとましな話はないのか」 「あなたの話も同じようなものだ。少なくとも私にとってはね」  両者はまた鋭い会話の切り返しのある身を削るような情報交換を行いました。そこで、トアロは相手のわずかな変化に気づきました。彼女にとってはどうでもいいような話題を振ると、ロッソの体はぴくりと動き、しかしさも興味の薄そうな目線をしたのでした。これは釣り上がった、と彼女は思いました。ここで考えるべきことは、こちらからそれに関する情報を小出しにするか、相手の誠実さに賭けて一気に流し込んでみるかということでした。前者はひどく不毛なウソのつきあいになる可能性があり、後者はこちらの立場をとても危うくするものです。しかし、相手は出だしこちらをうまく牽制してペースをつかんだほどの話し上手な男であり、冷静な議論はこちらの側が不得手です。彼女は、後者の手段に賭けてみることにしました。  予想外の反応がありました。商売人は跳び上がらんばかりの嬉しさを正直に臆面もなく彼女の前にさらけだしたのです。急にトアロは怖くなりました。相手がのぼせあがり、こちらに正当な報酬を支払ってくれるかどうか、測れなくなったのです。案の定、ロッソは短い髪の頭を撫でて、よろしく、これからもよろしくとしきりに手を握り、そのまま立ち去っていこうとしました。  トアロは彼を呼び止めました。二つの鳶色の目にはぎらりと殺意に似た獲物を取り逃がすまいとする光が宿っていました。ロッソはびくりとし、その意味を感じました。 「これはいけない、私としたことが!」  彼はすごすごと元の場所に戻り、また小さな袋を開けながら、ぼそぼそと彼女に語りかけました。 「正当な報酬をお約束しよう。これは小耳に挟んだのだが、近頃ごろごろと三百年以上も前の金品が出てきおりだしてな、これはいったい何事かと、冒険家の間でも話の種であったのよ。だが私だけがそのことに関したあることを知っている。死にかけた老人ほど真実をしゃべるということを知っているか?これが呑めなければいけない。勿論、老人たちは妄言もよく吐くけどな。これは私の感覚だから、信用するかしないかはお前さんの感覚にもかかっているし、また私への信頼にもかかっているんだ。いいか?老人はこう言った。かつて、海上を支配したとてつもない都市があったということだ。これを彼は黄金都市と呼んだ。彼の御先祖は昔そこに住んでいたというんだ。深い深い亀裂の先、三方を山に囲まれた絶対不落の要塞都市。彼は海賊だった。その面影もあった。すっかり落ちぶれてはいたがね、あの風貌、潮に濡れた手と匂いと、あの目。海ばかり見ていた野心溢るる冒険者の目。ロマンチスト。彼は親兄弟にこう聞かされて育った。いつか、自分たちの本当の領土を取り戻すべく、活動を続けるんだと。逃げてはならない。怠ってはならない。こうした意志がいつか我々をあの領土目指して進ませてくれるのだからと。彼らは特殊なコミュニティをもっていた。秘密結社といってもよく、限られた人間しか属しない思想共同体だ。彼らの目的は、奪われた黄金都市の奪取。その国は以前彼らの雇い上げた兵士たちの叛乱によって滅亡したらしい。海には新しい暗礁ができていて、陸上を通るも様々な罠が仕掛けられていて近づくにも近づけなかったのだという。どうだ?本物らしい話だろう?  しかしだ、老人がおれに金品を手放すといって、後生大事にしていた先祖からの宝物を差し出したんだ。おれは驚いて、老人にいろいろ聞いたわけだが、三百年もたっているんだ、子孫もそんな運命に飽き飽きしてきだしたんだろうな。なんといっても海賊だったんだ、そんな気の長い連中じゃあるまいよ。三百年もったというのが驚きだと言うべきだ。だから、この話は真実味があるのだよ、トアロ君?」  ロッソにはこの時トアロの心が見えませんでした。彼女は一心になって聴いているかのようで、ぶつぶつと口元で呟きを繰り返し、気もそぞろな様子でした。 「これで満足していただけただろうか?では、おれはこれで行くよ。まだどこかで会ったら、ぜひよしなにしてほしいな」  ロッソはそう言うと立ち去ってしまいました。あとから、連れの大男が近づき、収穫はあったのかと尋ねました。 「ここには目ぼしい宝物はないなあ。皆しけってる」  男はつまらなそうに唇を突き出しました。男の筋肉は隆々としてたくましく、顔つきは四角くて太い眉毛が彼の膂力の強さを表していましたが、鼻筋、目の奥には一種臆病者ともとれる線の細い造形がありました。彼の体は、まるで作り上げられたかのもので、見る人が見れば、それは実際大したことがない見せかけだけの肉体と思われました。しかし、多少の危険を感じたのであれば、その人こそ人間を見る目がある人間だといえたでしょう。彼の体は、作られたものにはちがいありませんでしたが、それを作られた理由には、人間の危険が潜んでいたからです。 「アズダル、盗みは今回はナシだよ」  トアロは彼に命令しました。男の筋肉がぴくんと微妙に揺れ、彼女を見ました。その目つきは、異常な信者かなにか、恐ろしげなものを窺わせました。 「なぜ」 「今の話、金の粒が混じってた。これからふるいにかけなければならないが、おそらく、本当のことを聞いたんだ」 「どんな話だ?」  大男のアズダルはそわそわとして聞きました。トアロはそんな彼の様子を見て、彼を、建物の陰へと連れていきました。  ひと行為が終わって、彼は落ち着きを取り戻しました。クリシュナルデ=アズダルは、元々はこうしたことをするような人間ではなかったのです。彼は、ある日、彼の家に忍び込んだトアロと出会いました。それまで頭脳明晰で成績もよかった良家のお坊ちゃんは、その日まったく自分の知らない世界の人間と遭遇しました。彼は、彼女は天からの使いかあるいは神様が寄越した唯一無二のプレゼントのように思われてなりませんでした。彼が彼女に唆されたのか、彼が進んですべての生活を置き去りにしていったのか、どちらも定かではありません。ただし、彼はそれからもやしのような体を今の筋肉隆々たる胸まで鍛え上げていたのです。  こうした事情から、彼がときおり自己を滅してしまうのは仕方がありませんでした。彼女による慰みを受けて、彼は平常心を取り戻しました。さて、一方でトアロは満足しきった表情をしていました。いましがた聞いた商人の話がひどく彼女の心をざわめかせていました。そのわけは、彼女が故郷で、盗賊家業に手を染める前に出会った海賊の男から聞いた話と寸分違わずうり二つだったからです。彼女はこの話を長い間忘れていました。今、急に現実味を帯びた幻の彼方にある世界が、彼女にいっせいに襲いかかってきたのでした。彼女は、アズダルに説明しながら、自分の幼少時代をゆっくり思い出してきました…。

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