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夢の中の僕は何物からも完全に自由な存在だった。一つの星を高度な科学技術で統治し、宇宙船を操って遠い地球までやってきた僕には万能感があった。視界は宇宙全域を見ており、テロなどという地球の一部で起こる出来事はあまりに小さく感じた。 しかし、マテラスが言った通り、夢の意識状態を現実世界では維持できなかった。夢から覚めた僕は小さな世界のしょぼい高校生だった。 夢で得た知識は、決して忘れてしまったわけではないが、断片化されてぼんやりとしていた。つまり、夢から覚めて人間という着ぐるみを着たとたんに地球の制御システムが強く働きだしたわけだ。実際、夢でやってのけたように、知らない花を見ても、花の名前がすっと浮かぶような超能力まがいのようなこともできなくなっていた。 しかし、雪女がマテラスだったことには驚いた。どうりで残り一人の仲間を探しても見つからないわけだ。僕はミヒロが仲間であってくれと祈るような気持だったが、あきらめざるをえなかった。 恐らくミヒロもどこかの星から来て自らの目的を潜在意識に秘めているのだろう。そしてそれは、恐らく僕たち仲間のそれとはまったく異なるのだ。だからヒメは言ったのだ『ミヒロだけは異質だ』と。 さて、僕は結局、雪女ことマテラスからテロを防ぐ方法を聞き出せなかった。夢の中の僕は人間の感性を失い、テロをちっぽけな出来事と認識し、それを防ぐモチベーションが消失していたからだ。 とはいえ、この結果では、せっかく剣を取り戻してくれたミヒロに示しがつかなかった。目が覚めて現実が戻ってきた時に、どうしたものかと大いに悩んだが、ひとつ良いアイデアを思い付いた。僕はバッグに大切な剣を詰め込んで補修授業に向かった。 「ほら、戻って来た剣だ」 教室でバッグから剣を取り出してヒロトに見せた。周りの同級生たちは、奇妙な鉄の棒を見て不思議そうな顔をしていた。 「おい、学校に持ってきたのかよ。しかし、ピカピカだな、古代のものとは思えないよ」 「早速で悪いけど、頼みがあるんだ……」 僕は簡単に夢で見た内容をヒロトに伝えた。そして、夜になったら剣を手に持ち一晩寝てもらうことを提案した。同じ宇宙の仲間のヒロトであれば剣に反応するはずだ。そうすればヒロトも夢の中でマテラスに会えるだろう。 そして、僕の代わりにマテラスからテロを防ぐ方法を聞き出してもらいたかったのだ。ヒロトなら僕よりも賢くうまくやるだろうから、冷静にマテラスこと雪女と渡り合ってテロの回避策を聞き出してくれると思ったのだ。 とはいえヒロトは不安そうだった。 「おもしろそうだけど、怖いなぁ。オレはオレだと思ってたけど、実は星から来たオレが別にいるってことだろ?」 僕は周りのクラスメイトに聞かれないように小声で答えた。 「普段の夢の延長みたいなものだよ。それに、この教室にいるやつらも本当はみんな宇宙から来たんだ。あんまり大きな声で言えないけどさ」 「確かに大きな声では言わない方がいいな。あはは……」 そしていつものように補習が始まった。始業から三十分ほど過ぎたあたりで、スマホのバイブの振動がポケットから膝に伝わってきた。こっそりとスマホを取り出すと、ミヒロから三人宛てのメッセージだった。 『時間がないかもしれない。今日、総理就任の会見があるみたい』 僕と同じように机の下でこっそりスマホを見ていたヒロトとアイコンタクトを取ると、僕はトイレに行く振りをして廊下に出た。 そして再びスマホを取り出してミヒロにメッセージを送った。 『今日は学校? 今話せる?』 『補習中だよ。抜け出すから校舎の裏で待ってて』 音をたてないように静かに廊下を走り、三階からいっきに階段を降りて校舎の裏へ向かってダッシュした。すると、ちょうど一階の廊下でミヒロとばったり出会った。 「ダイスケ君!」 校舎内でミヒロと話をするのは初めてだった。授業は男女別で校舎も玄関も別だったが、夏の補修ではクラスによっては男女同じ校舎になるのだ。こんな状況にもかかわらず胸のときめきを感じてしまった僕は、邪念を振り払うように冷静を装った。 「メッセージ見たよ。いよいよ始まるんだね?」 「うん、総理大臣になるときって選挙があるんだけど今回は誰も立候補しなかったの。だから今日パパが自動的に総理大臣になっちゃうって」 その時、ふと学校の門辺りに僕たちをチラチラと見ている怪しいスーツ姿の大人がいるのに気が付いた。 「やっぱり校舎の裏に行こう」 「うん、わかった」 僕とミヒロは玄関を出て、体育館と校舎の間の渡り廊下を通って小走りで校舎の裏に出た。 「誰かに見られている気がするんだ」 今日は夏休みの補習で学校には三年生の一部しかいないはずだった。なのにあちこちで視線を感じるなんて変だ。 「あの、ダイスケ君、門の辺りから私たちを見てる人、あれはSPだから気にしないでいいよ」 「SP?」 「うん、屋上にもいるけどね」 見上げると確かに屋上に黒い人影があって驚いた。なるほど今日は総理就任会見の日だから、娘であるミヒロの身を案じてSPが付いたのだ。宇宙ステーションテロの件もあるし、家族を人質に脅されたりする恐れがあったのだろう。 「パパが警備会社に依頼したんだ」 「そ、そうなんだ、やっぱり……、いろいろ大変なんだね……」 「うん、でも慣れてるから普通だよ。脅迫だって、いっつも来るし。そういう時は警備の人をつけてくれるんだ」 かつて自分が一国の王だった頃を想起させるようなミヒロの日常を垣間見た僕は、今の自分ではとても耐えられないだろうと複雑な気持ちになった。 僕たちは校舎のふちの犬走りに腰かけ、二人並んで話を始めた。 「剣は戻ってきたよ、ありがとう」 「よかったねー、で、どうだった?」 「うん、夢の世界でいろいろな知識を手に入れることができた。まるで信じられない世界観だけどね……。でも、もうあと少しってとこなんだ……」 「ダイスケ君が頑張ってるときにこんなことを言うのは何だけど、無理だけはしなくてもいいからね」 ミヒロの優しい言葉が胸に突き刺さった。『無理しなくていいよ』そのセリフはミヒロが勉強会を欠席する前日に僕がかけた言葉と同じだった。やはり、そう言われると複雑な心境だ。自分の無力さを感じざるを得なかった。 「ごめん……」 「ちがうの。だって私たち受験生だもん。世界を救うことが仕事じゃないんだから」 「ありがとう。絶対に何とかする。でも、まだ間に合うかな……?」 ミヒロは少し顔を伏せてSPに口の動きを悟られないようヒソヒソと小声で話し始めた。 「密約の話は次の総理大臣の一番大きな仕事みたいなの。だから、パパが総理大臣になったら真っ先にそこから始めると思う」 「そうなんだ、つまり密約を断るってことだね。今日か明日ってとこか……。でも、オレは絶対にミヒロちゃんのパパを悪者にさせたくない。今ヒロトと協力して対策を練ってるからさ、また報告するよ」 「うん、ありがとう」 以前に心の中にとどめておこうと思った疑問。彼女は政治家になるのだろうか。地球のドラマに染まっていくのだろうか。今日こそはそれを聞いてみようと思った。今日は答えが聞けるのではないかと思ったのだ。 しかし、そんな考えが頭をよぎった瞬間、なぜかヒロトが現れた。手にはカバンと剣の入ったアパレルショップの袋を持っていた。 「オレ、今日は早引きして、こいつと昼寝するわ」 急にヒロトの声がして、俯き加減で座っていた僕とミヒロは驚いてのけぞった。 「なんだよ急に出てきて。よくここがわかったな」 「だってトイレにもどこにもいなかったからさ。三階の窓から下を覗いたら二人だけでいたし。恋人同士みたいな雰囲気だったから声かけるの迷ったし。あはは」 「ちがうよ、大事な話をしてたんだよ!」 三人で少し雑談をした後、僕とミヒロはそれぞれの教室に戻り補習三時間目を受けた。ふと校庭をみると校門のあたりに黒塗りの車が待機していた。自分とは縁のない世界だと改めて遠い目で空を見ながら思った。やっぱりミヒロには野暮なことを聞かなくてよかった。 ◇ 学校から帰って部屋に戻ると、勉強道具をもって居間のテーブルの前に座った。テーブルの上に置いてあったリモコンでテレビをつけて、ニュース速報がいつでもチェックできる体制を整えた。 「あら、今日は居間で勉強? だったらテレビくらい消したら?」 さっそく母がちょっかいを出してきたが無視した。リモコンの横にはスマホを置いた。ヒロトから連絡が来るかもしれなかったからだ。 勉強を始めて二時間ほど過ぎ、夕方四時前くらいにニュース速報が入った。テレビ画面のには「新首相に杉下氏」と流れた。一分ほどすると画面が突然切り替わって記者会見の様子が流れた。 『第百八代内閣総理大臣に指名されました杉下茂でございます。まず最初に、一連の豪雨、台風、地震などの災害で被害を受けた方々にお見舞いを申し上げます。経済再生と安全保障という、この国の未来を左右する重要課題に真摯に取り組んでまいります所存です』 ミヒロの言う通り会見は今日だった。今日か明日かに裏取引は決裂する。ついに終わりの始まりがやってきたのだ。この後にテロと大災害が待ち受けていると思ったら、パニック映画を見ているようで怖くなった。もしもヒロトから明日の朝までに良い返事を聞けなかったら、次はヒメに頼み込むしかなあった。僕は急いでメッセージを送った。 『ヒメちゃん、剣は取り戻したよ。けど夢の中でヒントをもらえなかった』 すぐにヒメから返事が来た。 『そうなんだ、でも仕方ないよー』 『だから、今日ヒロトに剣を渡した。ヒロトに夢を見てもらうことにした』 『それはグッドアイデア!』 『でも、ヒロトがダメだったらヒメちゃんに頼みたい』 『それもいいけど、もう時間もないし、三人で合宿しようよ』 『合宿?』 『うん、宇宙の仲間で一緒に夢の世界に行ったほうが効率的でしょー』 なるほど、それは確かに効率は良い。三人のうちだれか一人でもうまく行けばよいのだから。 しかし、高校生の男女が同じ部屋で寝泊まりはマズイのではないだろうか。さすがに家でそれをやったら親から何を言われるかわからなかった。 『どこで合宿やるの?』 『神社職員の詰め所がある。受験勉強の合宿だって言えば使わせてくれるよー』 『ミヒロちゃんはどうする?』 『そうだね……、ミヒロも呼ぼうか。私から声をかけてみる』 きっとミヒロは剣を前にしても何もできないだろう。僕たち宇宙の仲間が三人で話す様子を目にすれば疎外感を感じるだろう。でも、宇宙の仲間ではないけれども、地球では四人の仲間だ。今僕たちは地球に生きているのだから、四人は一緒にいるべきだ。 ヒメとメッセージを交わした後、待ちかねていたヒロトからも返信が来た。 『ごめん、昼寝の習慣がないからダメだわ。ワクワクして眠れない!』 この状況でワクワクとはどういう心境だろうか。不謹慎な研究者肌のヒロトに合宿の話を持ちかけた。 『さすがヒメちゃんナイスアイデア。ぜひやろう! 三人で夢で逢えたりできるかもよ!』 ヒロトの言う通り夢の中でマテラスもあわせて四人の仲間で一緒に作戦会議をすることもできるのだ。きっとテロなどという小さな地球のイベントなど、あっという間に片づけられるはずだ。 しばらくして、ヒメから三人宛にメッセージが入った。 『受験勉強合宿をやります! 今から私の家に集合ー!』 まだ外は明るいが、夕方の四時だった。急がねばと神島神宮までの交通経路をネット検索しているとヒロトから連絡が入った。 『今日は父さんが資料館の研究室にまだいるから、ダイスケを車で送ってもらうように手配したよ。準備できたら資料館まで行ってくれ!』 『ありがとう、助かるよ!」 早速母に受験勉強合宿に行くと告げ、大きめのリュックに着替えと参考書を詰め始めた。すると母が部屋まで来て心配そうに言った。 「ダイスケ、合宿って学校の行事なの?」 「いや、違うけど、この前来たメンバー四人で企画した」 「もうそれなりの年齢なんだから、問題を起こさないようにね」 「大丈夫だよ、みんなそれどころじゃないんだから」 「それどころじゃないって……。確かに受験で大変だろうけど、それとこれとは……」 母が心配するだろうことは想像できたが、地球の危機と天秤にかけたら躊躇していられなかった。逆に、地球の危機が迫ってるから合宿に行きますなどと言ったら気がふれたかと余計に心配されて止められただろう。 「店を片付けてから車を出すから少し待ってなさい」 「大丈夫、資料館にいるヒロトのお父さんが車で送ってくれるから」 「あら、ヒロトくんのお父さんもいるなら安心ねー」 母は安堵の表情を見せて僕を玄関まで見送った。玄関の引き戸を閉め、急いで資料館まで走ると、ヒロトのお父さんが車に乗って待っていた。 高速経由で三十分ほど走ってヒロトの住むマンションの前まで着くと、そこでヒロトと合流した。 さらに四十分ほど走っただろうか、住宅街から田園地帯へと景色が変わったかと思ったら、大きな鳥居をくぐって神社の敷地に入った。職員用駐車場で車を停め、僕らを降ろすとヒロトのお父さんは帰って行った。 二人で本殿に向かって歩くと、そこには先に来ていたミヒロと、巫女の姿をしたヒメが待っていて覇気のない僕たちを明るく出迎えた。 「お疲れさまー。待ってたよー。てういか二人、顔、暗くねー?」 ヒメのテンションにつられたのか、ヒロトはヒメの巫女姿を見てはしゃぎ始めた。 「いいねー、その恰好! 今日はアルバイトの日だったの?」 「まあねー、地球の平和も祈願しておかないとだしねー」 そう言うとヒメはハッと何かに気が付いたように周りを気にしながら小声で僕たちに向かって囁いた。 「やばっ、まだ参拝客もいるから変な人だと思われちゃうよね、さ、中に入ろっ!」 僕たちは詰め所へ案内された。その建物は大きな和風の平屋で、入り口の引き戸を開けると広い玄関があり、ヒノキの良い香りが充満していた。 「ここは職員さんが会議したり神事の日に寝泊まりしたりする場所なの。今日から数日は誰も使わないからゆっくりしていってね」 玄関を上がって六枚ほど連なる障子を開けると畳敷きの広い和室が広がっており、部屋いっぱいに『いぐさ』の良い香りが漂っていた。いい夢が見られそうだ。 「夜まで受験勉強をして、寝る前に作戦会議しよう」 ふと壁にかかっていた時計を見たら夜の六時前。そろそろ夕食時かと思ったら玄関から年配の女性が入ってきた。 「こんばんは、お食事ですよー」 「あ、おばあちゃんありがとう!」 ヒメのお婆さんのようだ。手には四つ弁当らしきものを持っていた。 「いつもの出雲屋さんのお弁当。ここは味もいいしボリュームもあるから高校生にはピッタリだと思うけど、どうかねえ」 「ありがとうございます! いただきます!」 お腹が減っていた僕は手を叩いて喜んだ。そして、あっという間に弁当を平らげた。少し遅れて完食したヒロトが僕に言った。 「食べた直後って眠くなるよね、もう寝ちゃおうよ」 確かに善は急げというし、それもありだと思っていたらミヒロが笑いながらヒロトに言った。 「さすがに早すぎるよー。みんなが寝ちゃったら私は一人で勉強することになっちゃうからまだ起きててよー」 「あはは、そうだよね、ごめんごめん……」 ヒロトは笑いながらミヒロに平謝りしたが、心なしか表情がこわばっていた。恐らく僕もヒロトも、そしてヒメも同じ思いだったかもしれないが、ミヒロだけ疎外感を感じてないか、それだけが心配だった。それゆえ、僕たちはまるで腫物に触るかのごとくミヒロに気を使いつつ接していた。そんなぎこちない空気感を察知したのか、今日のミヒロは饒舌に思えた。 「かといって夜まで何しようか? 受験勉強する……? したくないよねー?」 三人はミヒロの言葉にクスっと笑った。 「そうそう、ミヒロは首都大のオープンキャンパスって行った? 私この前行ってきたんだー。大学ってすごく広くて一回りしたら疲れちゃってー」 ぎこちない雰囲気を和ませるためにヒメが話題を提供したオープンキャンパスとは、受験生のために大学を休日に開放して見学してもらうイベントだ。僕はあまり興味がなかったので二人の会話をただ微笑みながら聞いていると、ヒロトが得意げに話に加わった。 「オレは父さんが大学で働いてるからよく遊びに行くよ。学生食堂も安くておいしくて量も多いし最高だった。緑も多いし公園みたいだし、すっごくいい大学だよね」 「そうそう、公園みたいなの! 春になったら桜の下でお弁当とか食べたいなー」 ヒメがそういうとミヒロがうらやましそうに言った。 「いいなあ、私はまだ行けてないなあー。今度みんなで行こうよ」 興味がわかずみんなの会話を聞き流していた僕は、ここぞとばかりにわざとらしくミヒロに賛同した。 「うん、いいね、いいね、みんなで行こうよ! オレも志望校ずっと迷ってたから、そろそろ首都大について知っとかないと!」 僕が突然思い立ったように言ったからか、ヒロトが僕をからかい始めた。 「本当はミヒロちゃんと二人きりで行きたいんじゃないの?」 「ば、ばか、なんてことを!」 慌てる僕を横目に、ミヒロはまったくたじろぎもせずに笑っていた。ヒロトの砲撃は続いた。 「ヒメちゃんは知らないと思うけど、今日は授業サボって校舎の裏で二人きりで話し込んでたんだよ」 「えー、そうなのー、仲良いねー。あははー!」 ミヒロが嫌な思いをするかもしれないと心配したが、ミヒロも一緒に笑っていた。幼いのは自分だけのような気がして余計に恥ずかしくなった。 しばらく三人で談笑した。こんな時間がずっと続けばいいのにと思った時、ふいにあの質問を思い出した。ズバリ彼女は政治家を目指すのかどうか。前回は聞けなかったが、この和気あいあいとした雰囲気に乗じて、思いのほかうまい質問の仕方を思いついた。 「ところで、みんなは大学に行って卒業したらどうするの? オレはまだ何にも決まってないんだ」 僕の問いかけにヒロトが真っ先に答えた。 「オレはやっぱり研究者になりたいな。できることなら大学にずっと残りたいって思ってる」 次はヒメ。 「私は家が神社だからね。神職って資格も必要なのー。卒業したら神道を勉強しないといけないんだよねー。でも、あんまり楽しくなさそうだから……、私もヒロトくんみたいに大学に残って歴史の研究でもしようかなー」 「うん、一緒に研究しようよ、あはは」 意外だったが、ヒメはさほど家業を継ぎたいわけではないようだ。思うに、ルックスの良いヒメなら、よく当たる占い師として活動すれば、すぐさまメディアに取り上げられて大人気になるのではないだろうか。 さあ、次は待望のミヒロの番だったが考えあぐねているようだ。 「私はねー……。うーん……」 僕とヒロトは笑顔でミヒロを見守っていたが、ヒメがミヒロのことなら私が話すと言わんばかりに横から割り込んだ。 「ミヒロは不思議よねー。ミヒロだけは私も未来が見えないからさー。でも、この前は普通に就職して平凡な家庭を築きたいって言ってたよねー」 「うん、そうなの、強いて言えば普通に専業主婦かなー」 予想外の彼女の将来像に、僕は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。まさか、あれだけ政治家の娘として教育されて、後を継げとまで言われているのに専業主婦だなんてありえないと思った。ヒロトも想定外だったのだろう、その理由を聞かずにはいられない様子だった。 「オレはてっきりミヒロちゃんは政治家になると思ってたよ。だって一人娘でしょ? あ、そうか結婚相手に継がせる作戦?」 ミヒロは笑ってヒロトに答えた。 「うふふ、結婚相手が嫌がるよ政治家なんて。私はのんびり暮らしたいんだー。ただ好きになった人を一生支えたいって、それくらいしかやりたいことってないの。実はすっごく平凡で中身が空っぽの人なんだよ、私ってー」 あまりに意外な回答だったが、僕はそれを聞いてただ安堵するだけだった。これで人間中毒の心配もなければ、何よりミヒロはこれからもずっと身近な存在でいてくれるということだ。ここへ来てついに僕の心に平穏が訪れた気がした。もちろんミヒロのお父さんがそれを許せばの話だが……。 さて、結局僕たちは夜まで受験の話や将来の話をして盛り上がった。修学旅行の夜のような楽しいひと時だった。しかし時計は十時を回り、そろそろミッションを始めなければならなかった。 すると、突然ヒメのお婆さんが寝巻き姿で玄関を開けて部屋に入ってきた。お風呂や洗面所の案内をしてくれたのだ。 「そうそう、なにかあっちゃいけないからね。念のため私は隣の部屋で寝ますからね」 そう言って襖だけで区切られた隣の部屋へお婆さんは行ってしまった。 お婆さんが襖を閉めるのを見届けると僕たちは押入れから布団を出した。そして魔法陣のように剣を中心に十字に布団を並べた。 「これで剣のパワーをみんな感じると思う。それじゃ各自、気合い入れて夢をみよう!」 寝る前に作戦会議をする予定だったが、隣にお婆さんが寝ていると思ったら大人しく寝るしかなかった。疲れていたのかヒメもヒロトもあっという間に眠ってしまった。ただしミヒロだけは布団に入ったあと、ずっとスマホを見ていたようだった。それを見た僕は再び複雑な気持ちになった。

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