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帰宅途中の電車でミヒロの笑顔がずっと頭に浮かび、そわそわして落ち着かなかった。自分の部屋に着くなりカバンを投げ捨ててベッドに座り、たまらずヒロトに電話をかけた。 「驚いたよヒロト、こんな話ってあるんだなー」 「ウチの学校の女子ならありうるんじゃない? 変わり者が多いから……」 「でもさ、いきなり初対面で連絡先交換して、うまくいきすぎじゃない? 」 「ちょい待て! オレらは愛の告白をされたわけじゃないぞ。まるでデートみたいに浮かれてるけど、大きな勘違いしてないか? 」 確かに勘違いかも知れなかった。でも、勘違いするくらい運命的なものを感じたのだ。 「いや、運命ってこんな感じで始まるんだろうって思ったんだ。なんとなく仲良くなれそうな気もするし」 「さっきまで受験ストレスで目の下にクマ作ってたやつが何言ってんだ、あはは」 今まで学校で気になる女子を見かけなかったわけでもないが、今回はいつもと違う気がしたのだ。確かにただの『一目惚れ』ではあるのだが、ミヒロの笑顔にまるで身内のような親しみと懐かしさを感じたのだ。例えて言えば、ヒロトと初めて会った時のように、間違いなく友達になれそうなオーラが彼女の笑顔から溢れていた。しかもウチの近所の荒吐遺跡に興味を持つなんて、運命以外に何があるのだろうか。 そして土曜日、約束の時間よりも一時間早く古墳公園に着いたせっかちの僕は、時間が来るまでエアコンの効いた資料館で涼むことにした。ガラガラのロビーのソファを陣取ると、その心地よい涼しさにいつのまにか居眠りをしてしまった。 ところが、居眠りを始めてほんの数秒のことだった、まだ意識が現実と夢の狭間を行ったり来たりしている時、脳内に聞き覚えのある冷涼な女の声が突然響き始めた。 「現時点で適度な位置を保っており効果的に作動しています。座標変更による事故の確率を考慮しないわけにはいかないでしょう。『触らぬ神に祟りなし』これは、あなたたちの世界の言葉です」 僕は資料館で居眠りしていることも忘れて『わあ』っと声を出して飛び起きた。受付カウンターの女性がびっくりしてこっちを見た。 間違いなく先日の夢で見た雪女だ。同じ登場人物がこうも何度も出てくることなど滅多にない。しかも『触らぬ神に祟りなし』という不気味なフレーズが頭にこびりついて離れない。そういえば今回の夢は最初に見た夢と意味がつながることに気がついた。『最終列車に乗ったのだから大人しくしてろ、触らぬ神に祟りなしというだろ』という意味にとれたのだ。 (これは夢なんかじゃない、もしかして僕は呪われてしまったのだろうか……) あれこれ考えながら薄暗く閑散とした資料館のソファーに一人座っていたら急に心細くなり、燦燦と真夏の陽が射す駐車場に逃げるように飛び出した。家族連れがはしゃぎながら車から降りてくる光景が目に入り、少しだけ冷静な気持ちを取り戻したが、その直後、後ろから肩をたたかれた僕は、再び『わぁ』っと大きな声を出しおののき飛び跳ねた。 「ど、どうしたんだよ、驚きすぎだろ」 「急だったからびっくりしたんだよ」 「疲れてるんだな、勉強のし過ぎだよ。今日は歴史女子たちにたっぷり癒されたほうがいい」 薄気味悪さを払しょくしようとヒロトと恋愛トークでも始めようかと思った時だった。一般にリムジンと呼ばれる黒塗りの高級外車が駐車場へ入ってきた。政治家でもやって来たのだろうかと見ていると、運転手がドアを開けることはなく、二人の女性が自ら車のドアを開けて後部座席から降りてきた。服装から察するに同い年くらいの女子だったが、顔を見て驚いた。なんとミヒロとヒメだったのだ。 「うわあ、バリバリのお嬢様だったんだな……」 「うん……、でもウチの学校ならあり得る……」 遠目で見ていた僕とヒロトに気が付いた二人がこちらに歩いてきた。ミヒロがあの時の親しみやすい笑顔でヒロトに声をかけた。 「暑いねー、今日はよろしくね」 「しかしすんごい車で来たんだね、きみたち何者? 」 「うん、話してなかったけど私の親が議員やってて、今日は秘書さんに送ってもらったの。ついでだからヒメも一緒に乗っけて来た」 初めて出会った時の胸のときめきが一瞬で消えてしまうほどの衝撃を受けた。運命だの仲良くなれそうな気がするだの、ヒロトに電話で話した自分が恥ずかしくなった。政治家の娘との決して越えられない格差をいきなり感じてしまったからだ。僕が呆然としていると、彼女らの素性などどうでもいいと言わんばかりにヒロトが僕に耳打ちした。 「あ、そうそう、今日はオレの父さんは研究室にいて外には出て来ないから。ていうか、父さんのことはまだ彼女たちには内緒な」 ヒロトは早速ミヒロたちを案内した。 「この遺跡はちょっとしたコネがあって、立入禁止区域も入ることができるんだ。資料館の非公開展示と、屋外の立ち入り禁止の発掘エリアと、好きな方を選んでよ。もちろん、資料館の方が涼しくてオススメだけど」 ミヒロは笑顔でヒメにヒソヒソと耳打ちをすると、ヒメが質問に答えた。 「発掘現場の方が見たいなー」 「そうか……、まあ、かなり暑いけど行ってみようか」 ヒロトはハンカチで汗を拭きながら以前に見て回った立ち入り禁止の発掘現場まで僕たち三人を導いた。ロープを超えると古代の人々の住居跡、そして最近になって銅鏡や銅剣が発見された宝物殿跡が続き、宮殿の推定跡地に着いた。 「ここらは広場になっていて石が敷かれていて。えーと、石が敷かれているところはそれなりの場所なんだ。そしてその奥にある宮殿跡が王族の住まいで政治の場所ってとこかな」 ヒロトが話している間、ミヒロは時折頷いていたが、ヒメは説明を聞いているようには見えなかった。キョロキョロと辺りを見回して地面に掌を向けて目を閉じていた。それを見たヒロトは訝し気な顔をしていたが、それに気付いたミヒロがヒメに代わって弁解を始めた。 「ヒメは土地の感覚を探ってるだけだから、気にしないでね」 「土地の感覚?」 「うん、王様のいた場所ってそれなりのパワーがあるみたいなのよね」 「パワー?」 僕は正直『ヤバイ女子』と出会ってしまったのではないかと不安になったが、ここはとりあえず様子を見守ることにした。 すると、ヒメが閉じていた目を開いて再び辺りを見回し、物足りなそうな口調でミヒロに言った。 「ここじゃなかったみたいだねー……」 それを聞いたヒロトは慌てた表情で、身振りを交えながらヒメに説明を始めた。 「ここが今現在の発掘の最前線なんだよ。まだまだここからいろんなものが見つかる可能性があるし。世間では批判されてるけどこの遺跡にはもっとお金をつぎ込むだけの価値はある! ここに日本を治めた王がいた事実は発見された銅剣や銅鏡からも明らかだと思うし、古墳の並びを見れば、この先にもまだ古墳は出るはずなんだ。そうすれば古い時代の王の系譜も確実に明らかになるし、それを証明する物証も必ず出てくる! 」 「古墳の並び? 」 「そう、古墳はたまたま空いてた適当な場所に作られたわけではなく計算されて作られていて、実際に五つの古墳の間隔と方角を見ると法則があるんだよ」 ヒメの一言でヒロトが珍しく熱くなった。しかし、彼女らはヒロトの話に興味を持つような素振りもなく、ただ雑に聞き流しているようにも見て取れた。彼女らは本当に歴史に興味があるのだろうかと疑った時、ヒメが突然、古墳公園から眼下に見える水田地帯の方を指さした。 「古墳があるとすればー、ここじゃなくてあっちでしょうねー」 それを聞いた僕とヒロトは唖然とした。てっきりヒロトの話を右から左に聞き流しているかと思ったが、この悟りきった確信に満ちた一言は、相当この遺跡に対して研究を重ねてきたかのようにさえ思えた。ヒロトは動揺していた。 「うーん、良い推理かもしれないな。でもあっちは発掘調査の対象エリア外で、昔からの水田地帯だし、発掘された王宮よりも随分と低い土地だからね。オレはあそこに古墳があるとは思わないんだけど、どういう理論分析なの?」 「理論じゃないのよねー。今日この時までは、この里山のどこかに源泉があると思ってたんだけど、今日ここへきてもパワーを感じないのー」 「源泉? 源泉ってなに? まさか、温泉探してたの? 」 「温泉じゃないんだけどー、ここの古墳群は国内の数あるパワースポットの中でも珍しいほどパワーが強くてー。どうしてこんなに強力なのか、その出どころ、つまり源泉が知りたかったのよねー」 ヒロトは終始理解できてなさそうな表情をしていた。 「ごめん、さっきから言ってるそのパワーってなに? そのパワーはオレには感じられないんだけど、なんなの、それ? 」 「うーん、これを説明するには同じような感覚を持った人じゃないと難しいかなー」 僕はなんとなくヒメの言うパワーの意味がわかった気がした。昔から荘厳な自然の力を感じられる場所には城や寺社仏閣など重要な建物が建てられた。そういった土地のパワーを感じる能力のある人間が一定数存在して、古代から時の権力者とともに都市計画に携わっていたのだ。江戸の都市計画を助言した家康の参謀『天海』などが有名だ。 土地のパワーをもとに計画され作られた都市は敵からの攻撃に強く、不思議なことに商業も農業も発展したのだ。そのような能力を持つ人間が現代も実際に存在するとしても不思議ではないが、まさかヒメがその手の能力者だったとは驚きだ。 「ヒメは神社の宮司さんの娘なの。今はバイトで巫女をやったりしてるけど、ちょっとだけ普通の人が見えないものが見えちゃったりするの。普通の人には信じられない話だけど、嘘はついてないってことだけは理解してほしいの」 本人に代わってヒメの紹介をしたミヒロの言葉を聞いて、ヒロトはさらに動揺したようだった。 「も、もちろん、信じてないわけじゃないよ。でも、学術的にはなんらかの証拠がないと評価されないからなあ……。疑うわけじゃないけど、なんなら、その、水田地帯の方を見に行ってみようか? 」 ヒロトはヒメとミヒロにそう言うと、次は僕に耳打ちをした。 「あっちはダイスケの家の方だよね、案内してよ」 「うん、別にいいけど、ヒメちゃんとミヒロちゃんはどうする? 時間ある? 」 僕が二人に尋ねると、ミヒロが笑顔で頷いた。 「うん、もちろん!」 妙な展開に戸惑ったが、なんとも得体のしれないパワースポットの源泉とやらが存在するなら一度見てみたいという好奇心もあった。それに加え、もしも新たな古墳や遺跡が発見できたら、僕たちは第一発見者として名も残るだろう。僕は三人を先導し、古墳公園を出て、街路樹の並ぶ坂道を下って田園地帯へ向かった。坂下の交差点まで着いたときミヒロが僕の家に気が付いた。 「あ、古民家カフェ発見! あとでここ寄っていこうよ! 」 「おっ、いいねえ、って、ここダイスケの家じゃね? 」 「え? そうだったの? すごーい、めっちゃおしゃれじゃーん! 」 黒塗りの車を見てしまってから僕はミヒロとの格差を感じ、実家が田舎カフェを経営してることを伝えることに実は気が引けていた。しかし、ミヒロから『おしゃれ』という評価をもらえたのであれば躊躇うこともないと思った。 「OK、みんながいいなら歓迎するよ」 その時、ヒメが僕らの会話を遮った。 「ちょっと待って、多分、源泉はここだと思う」 「え、なに? ダイスケの家に源泉? 」 僕は一瞬混乱したが、すぐに『そんなわけがない』と確信した。そこに行けばみんなが幸せになれるからパワースポットなわけで、それならばどうして僕は幼いころから泳げずに悩んだり、受験勉強でストレスをためたりするのだろうか。 「いや、絶対ウチじゃないと思う。それらしい場所もウチの敷地内にないと思うけど……」 店の前であーでもないこーでもないと話をしていると母が僕たちに気が付いた。 「ダイスケ帰ってたの? あらら、みんなも一緒ならお店にどうぞ」 三時を過ぎてお店は空いていたが、古墳公園の帰りに立ち寄る客がまだちらほらといた。僕は三人をお客さんから離れたカウンター席に座らせた。 「で、どう? ウチのどのあたりで感じる?」 僕は厨房側からカウンター越しにおしぼりを三人に渡し、ヒメに尋ねた。 「家の中に入ったら弱まったということは、家の外かもしれない」 ヒメの一言で、一か所だけ敷地内の気になる場所を思い出した。 「家の北側に防空壕があるんだけど、それかな?」 「北側ってあっちでしょ? 確かにあっちから何か気配というかビリビリしたものを感じるのよね」 「でもさ、防空壕は昭和の時代のものだし、古墳とは違うんじゃない? 」 僕たちが防空壕について話していると、母がお店で大人気のデカ盛りパフェをトレーに載せて現れた。ミヒロとヒメが大はしゃぎでスマホを取り出してSNSにアップするのを横目に、話を聞いていた母が割り込んできた。 「そうそう、さっき防空壕って言ってたけど、あそこは雨が降ると崩れて小石や泥が降ってくるから見に行くなら気を付けてね」 僕はついでにと思い、母に防空壕のことを聞いてみた。 「ところで、あの防空壕って本当に防空壕なの? 過去に古墳とか何かがあったとか聞いてない? 」 「さあ……、聞いてないなあ。私とお父さんがこの古民家を買った相手は代々農家の一人暮らしのおばあちゃんで。津波がやってきて塩害が起こるまでは不作だった年は一度もないって自慢話をしてたなあ……。すごく良いコメが取れる土地だからって……。その程度よ」 そんな話をしてるうちに四人で一つの巨大なパフェをたいらげ、十分に涼んだところで席を立った。 家の敷地は八百坪ほどあり、その半分は家庭菜園と呼ぶには広すぎる畑が占めており、残りはミカン、桃、柿などの実のなる木がたくさん植えられていた。家の北側はそのまま古墳公園に続く里山を形成しており、少し急になった斜面のところに防空壕が掘られていた。普段から両親に危ないから近づくなと言われていたため、あまり行かなかったし、気にもしなかった場所だ。 「いいなあ、私こういうところで暮らしてみたい」 僕らが防空壕へ向かう途中だった。菜園や桃の木をキラキラした目で眺めながらミヒロが小声で呟いたのだ。 (嘘だろ、政治家の娘が、こんなありふれたド田舎の景色に感動するなんて……) 僕はミヒロが田舎暮らしに興味を持ったことが不思議でならなかった。しかし同時に、彼女との格差が縮まった気がして、何とも言えない幸せな気持ちになった。 その時、一人で防空壕の近くまでつかつかと歩み寄ったヒメが、やはりここだと言わんばかりに、防空壕の穴の脇を指さして言った。 「ここに昔は祠みたなものがあったはず。お婆さんのような人がここに跪いて、お祈りをしていたイメージが見えたんだー」 ヒロトと僕はヒメのいる防空壕の入り口付近まで近づき、土を少し手に取ってみた。僕にとってはいつもの見慣れた自宅裏の光景でしかなかったが、『祠があった』と言われると確かに子供の頃は穴の脇にひな壇のようになった部分があったことを思い出した。 「確かにこの辺に、何かあったような気がする。ちょっと待ってて」 僕は物置から鍬を取り出し、穴の横に長年の雨と風で風化し崩れて積もった土を掻き出すように取り除いた。すると、かすかに階段状の形が浮き出てきた。 「なんとなく何かあるっぽいね」 丁寧に表層のやわらかい土だけを取り除くと、いかにも神様への捧げものをするために作られたような固い粘土質の土でできた小さな祭壇のような形が現れたのだ。 「きっと前に住んでたお婆さんの代くらいまで、ここに小さな祠があったと思うんだー。恐らく隕石とか何か特別なものがご神体として祀られてたはずだよー。ご神体は今もまだ近くに埋まってると思う。ここから古墳公園に向かってすごいパワーが噴き出てるんだー」 「よし、掘ってみようか! 」 僕は物置から工事現場で使うような大きなショベルを持ってきてヒロトに渡した。 男二人で周辺を掘れば、すぐにそれらしいものが見つかるに違いないと思った。 「なんだか遺跡の発掘をしているみたいでワクワクするな! 」 僕がヒロトに言うと、ヒロトから素早い突込みが来た。 「何言ってんだよ、遺跡の発掘をしているんだよ! 」 「あぁ、そうか」 以前に遺跡の発掘現場をヒロトに見せてもらった際に、地味で退屈な仕事だと思ったが、目的と期待をもってそれをする人にとっては退屈どころではないことに気づかされた。そんなことにすら気が付かなかった自分の幼さを恥じた。 すると、カキンと金属音がして、みんなが僕の持つ鍬の先に注目した。鍬を置いて手で土を掻き出していくと、長細い剣のような形が現れた。ヒメが掌を鍬の先に向けた。 「それだ、絶対にそれ、すごくキテる! 」 素手で勢いよく土を掻き出すと、不思議な形の剣が現れた。そして、この形には見覚えがあった。 「すごい、これは七支刀だ」 七支刀とは古代の鉄剣で、剣身の左右から三つずつ合計六つの枝刃が伸びた珍しい形の剣だ。現在日本にある七支刀は国宝に認定されており、はるか昔、百済あるいは秦から倭国に献上されたと言われているが、その由来は説が分かれていた。よって、もしもこれが本物ならば国宝級の大発見となり、ヒロト親子の自説の完全立証に一歩近づくことになる。 「これは確実に王様の剣よねー」 ヒメがそう言うと、すぐにヒロトが専門家ぶって否定した。 「うーん、確かに七支刀の形をしているけど、剣のように尖ってないし全体的に丸っこい。それに錆も全くないし、触った感じもスベスベしているし明らかに違う……」 土を落としていくと、まさに形は教科書に出てくる七支刀だが、確かに古代のものとは思えなかった。材質的には校庭にある鉄棒のような肌触りだが、色は黒に近いシルバーだった。本当にこれがご神体でありパワーの源泉なのか疑わしかった。 「こんなものがウチの庭から出るとは思わなかったけど、本当にこれがヒメちゃんの言う源泉なの? 」 「うん、間違いなくそれがパワーの源泉だねー。あぁ……、パワーが強すぎて酔いそう……」 確かに僕も全身がほんのり熱くなるような感覚があった。もしかしたら何かの科学実験で使用された産業廃棄物で、放射線でも出ていたら手に持ったら危険だ。僕は気味が悪くなって、さっと七支刀を祭壇の上に置いた。 (触らぬ神に祟りなし) その時ふと資料館で見た夢を思い出した。雪女が『触らぬ神に祟りなし』と言っていたが、それはまさに今この発掘のことを指しているではないかとピンときたのだ。ヒメはこれがご神体、いや、王の剣だと言っていたし、掘り出したことで王の呪いのようなものが降りかかったりする可能性もあった。再び埋め戻した方が良いのではないかと思ったが、もしかしたらヒロト親子の大偉業につながるかもしれないと思うと、この件をなかったことにするのは忍びなかった。四人で祭壇の上の剣を見つめ、しばし沈黙したあとヒロトに提案した。 「念のため、ヒロトのお父さんに見てもらおうか、何かわかるかもしれないよ」 「あれれ、ヒロト君のお父さんって詳しい人なのー? 」 ヒメが不思議そうにヒロトに問いかけた瞬間、僕はヒロトとの約束を思い出した。 「ヒロトごめん、うっかりしてた……」 ヒロトは自身の親のことは彼女らには内緒にしたいと言っていたのに、大発見を前にして僕はすっかりそのことを忘れてしまっていた。ヒロトは、苦笑いを浮かべて二人に説明をはじめた。 「うん、黙ってたけど僕の父は大学で考古学の研究してる。でも、親の仕事のことは周りには内緒にしてるんだ。あまり人に言うなって父さんに言われててさ。あはは」 ヒロトは以前に僕に話してくれた『少し込み入った事情』を彼女ら二人に話した。 「まあ、大人の事情なんてオレにはどうでもいいんだけどさ。あはは。とりあえず管理棟に戻ろうぜ。みんなで涼もう」 僕たちは再び来た道を戻り、坂を上って資料館までやってきた。再び関係者以外立ち入り禁止の通路を通り、管理棟の研究室へ向かった。そこには以前のようにパソコンに向かって文書を作成するヒロトのお父さんがいた。ミヒロとヒメは初めての研究室だったのだろうか、部屋の中をキョロキョロと見渡しながら感心していた。 「やあ、今日はすごいな、たくさん友達を連れてきたなら最初に言ってくれればよかったのに」 「違うんだよ父さん、大発見かもしれなくて、これを見てほしんだよ!」 「大発見? どこで?」 「坂を下りた、田んぼの辺り。ていうか……、ダイスケの家なんだけどさ」 「なるほど、確かにあの辺りまで遺跡が続いている可能性はある。貝塚だって見つかってるしな。で、その手に持ってる七支刀みたいなものがそうだっていうのか? 」 「うん、そうなんだけど……」 ヒロトのお父さんは古代のものとは思えない七支刀をまじまじと手に取って観察した。全体を撫でて材質を確認するようなしぐさをした後、ひたすら首をかしげたかと思ったら笑顔になった。 「これは、ちょっと違うんじゃないか? 確かに形は七支刀だけど、全体的に柱状で綺麗な曲面だから刃物ではないし。材質は金属だと思うけど、こんなになめらかな丸みで、当時この形状に加工する技術があったとも思えないし、決定的なのは、ほとんど酸化や劣化がないことだね。これが最近の工業製品であることは明らかだよ。あっはっは」 「だよね、オレらも変だなあって思ってたんだ」 「がっかりさせて申し訳ない、成分調査をしてもいいんだよ。でも、ダイスケ君の家で出たものだとすれば大変だよ、家が発掘調査現場になっちゃうよ。あはは」 「わぁー、まじですか、それは困るな」 僕は思わず笑みがこぼれた。そして夢で見た『触らぬ神に祟りなし』の件も、専門家に古代のものではないとお墨付きをもらったのだから『王の呪い』などと恐れることもないだろう。 「よかったら、このパワーの源泉、ヒメちゃんにあげるよ」 僕がそう言うとヒメはパワーが強すぎるから遠慮しておくとのことだった。それに、この七支刀を持って行ったら、今まで繁盛していたカフェの経営がうまくいかなくなるかもしれないとのこと。失礼なことを言う女だと思ったが、本当にそうなっても困るので仕方なく掘り出した防空壕の祭壇の上に放置しておくことにした。

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