作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 神父様は食事前のお祈りをしてる。  ウチはその隙にカゴに積まれたパンを一つ取る。そしたら、パチンッと手を叩かれた。 「何してるんですか」 「ウチもパン食べたいやの。牛乳だけやとお腹空くやの」 「サキュバスって食事が必要なんですか? 精力で生きられるなら、私の近くにいるだけでもそれなりに生きられるでしょうに」 「神父様なら、慈悲でパンの1つや2つ、ウチにくれても良いと思うの」 「貴女が熱心な信徒ならそうしますが、悪魔でしょうが」 「うーうー!」 「仕方ないですね。待っててください」  神父様はウチの手からパンをもぎ取る。言葉と行動が不一致やの。  ウチから取り上げたパンを持って、そのまま席を立ってしもた。  今のうちにテーブルのサラダを食べ――るんはやめとこ。後が怖いやの。  なんか、芳ばしい香りがしてきたやの。何やろ? ウチは香りがする方にぽてぽて歩く。神父様はキッチンに立ってた。 「私は『待ってろ』と言ったんですが」 「良い香りがするから来てしもたの」 「サキュバスって鼻が良いんですね」 「ウチ、活きの良い男の香りを嗅ぎ分けられるやの。もしかして、神父様のせーえきをパンに塗ってくれたん?」 「それはいったいどんなド変態のプレイですか。パンが勿体無いでしょうが」 「じゃあ、何してるん?」 「何って、貴女のエサを準備しているんじゃないですか」 「エサって言い方はやめてやの」 「前向きに検討して善処しますよ」  遠回しに断られたような気がするやの。  ウチはおとなしく、神父様を横から眺めることにした。部屋に戻ってもおあずけされてるみたいで嫌やから、ここにいたい。  お鍋の中では白っぽいような黄色っぽいようなドロドロした何かがグツグツ言うてる。でも、魔女のスープとは違って甘い香りがするやの。お腹が更にぐぅぐぅ鳴いた。 「暇なら自分のパンぐらい焼いてくれませんか」 「火の魔法で焼くやの!」 「そんなことできるんですか?」 「得意やの」  幻術の次に得意なのが、火の魔法。  これで良いところを見せて、ウチの虜になってしまえばええの!  パンに両手をかざして、念じる。焼けろー、焼けろー。 「えいっ!」 「……弱火ですね」 「調整してるんやの! もっと大きい火も出せるやの!」 「焚火で焼き芋を作る時に便利ですね」  この神父様、もしかして食いしん坊?  さっきから地響きのようなお腹の音が聞こえるやの。ごぎゅうううううってすさまじい音やの。 「できましたよ」 「これは何やの?」 「カスタードクリームです。信徒のおばあさんに苺を貰ったので、これも乗せてあげましょう」  ウチが焼いたトーストに、カスタードソースを塗って、半分に切ったイチゴが乗せられた。  見た目も可愛いし、甘い香りでときめくやの。  神父様と一緒に部屋に戻る。彼はお祈りしてるから、ウチは先にトーストに齧りつく。  イチゴの甘酸っぱい感じと、カスタードクリームのまろやかな甘みがうまくマッチしてて、とっても美味しい! 思わずほっぺたを押さえてしもた。ほっぺたが落ちてしまいそうやの。トーストもふかふかでもちもちで、言うことなしやの。焼き加減もバッチリやったやの。 「美味しいですか?」 「うん! とっても美味しいやの!」 「それは良かったです」  そう言った神父様は、無邪気な笑顔やった。この人、笑うんや……。真顔でウチのツノ掴んでポイッてするし、しかめっ面でウチの頭を聖書の角でどつくけど、笑うんや……。  うっ、思わずキュンとしてもうた。サキュバスのウチがキュンとしてどうするんやの!  うー……イチゴカスタードトースト美味しいやの。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません