午後6時半。夕べのお祈りやの。 ウチは教会の端っこでぼーっと天井のシャンデリアを見上げてた。天井が高いやの。あのシャンデリア、掃除してるんかな……。 神父様が聖書を閉じたのを見計らってウチは側に近寄る。頭をペシッと叩かれた。 「いきなり何するんやの!?」 「すみません。急に近付いてきたのでツノで殺られるかと思って叩いてしまいました。よく見たら貴女のツノだと刺すのは難しそうですね」 この神父様、一応謝ってはくれるところが困るやの。聖職者やから悪魔なんて退治する対象やと思うのに、何でか働かされる慈悲を与えられてるやの……。テキトーに媚びを売ってその隙に逃げ出すか魅了してウチのモノにしてやりたいのに、隙が無いやの。 「で、何か?」 「あのシャンデリアってお掃除してるやの?」 「ああ……、あれは半年に一回業者がしていますね。……貴女が掃除するんですか?」 「ウチなら飛べるから、あれくらいチョチョイのチョイやの! その代わり、精力が欲しいやの。できれば、神父様――……小焼様のせーえきが欲しいやの」 抱きついて上目遣いでおねだり。これでどうやの? 今度こそウチの魅了にかかった? 「ここから徒歩十五分のところでスタッフ募集していたので、そこで働いたら貴女の欲しいものが手に入ると思いますよ」 「……あの、小焼様。サキュバスにそういうお店を紹介するのって教会的にアウトやないの?」 「けっこう日当が良かったはずですよ。電話してやりましょうか?」 「ウチは! 小焼様が良いの!」 「では、張り切ってシャンデリアの掃除をお願いします。しかし、もうすぐ夕のミサがありますので、それまでに終わらせてください」 「はいやの」 これで役に立つところを見せておけば、きっとウチにメロメロになるはずやの。 修道女の服を脱ぎ捨てて翼を広げて飛び上がる。あとは風の魔法で埃を吹き飛ばせばええの。簡単かんたんやの! 「えいっ!」 「けい。ついでにそこにボールが挟まっているので取ってください」 急に名前を呼ばれてドキッとした。うー、サキュバスのウチをドキドキさせるなんて、あの神父様やっぱり何か他の人間とは違う何かを持ってるやの。 神父様が指差した先には、確かにバレーボールが挟まってた。……何でこんなところにボールが挟まってるんかは考えんとこ。近所の子供が遊んでて入れてしもたんかもしれんし。体育館やないねんから、絶対あの神父様に怒られるやの。 ボールを取って、神父様のところに運ぶ。 「どうもありがとうございます」 「何であんなところにボールが挟まってたやの?」 「昔、下級吸血鬼に襲われて逃げて来た子供がいまして、その時に私が彼の持っていたボールを投げつけて下級吸血鬼を退治したまでは良かったんですが、挟まってしまいまして」 理由がとんでもなく力技やったやの。この神父様けっこう脳筋やの。抱きついてわかったけど、けっこうガッシリした体やの。神父ってもう少しなよなよしててええと思うのに、マッチョやの……。 「掃除が終わったなら服を着てください。そろそろ人が来ます」 「痛い痛い痛い! ツノに引っかかてるやの!」 神父様がウチに服を着せようとしてくれたけど、ツノに引っかかってそのまま着せようとするから痛かった。扱いが雑やの! 「下から見てわかる程度には綺麗にしてくれましたね。ありがとうございます」 「どういたしましてやの。ご褒美はせーえきでええやの」 「……まあ、ご褒美は考えておいてあげますよ」 少しだけ笑ってくれた。 これは、ウチのこと少しは認めてくれたって思っといたらええんかな。ちょっとだけ心を開いてくれたんかな。このままお手伝いを頑張ったら、この人をメロメロにして、この辺の人間みんなウチのモノにできるやの! 完璧やの! ご褒美はちょっと期待しといてあげるやの。
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